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95.グリゴリ


 あれから、目まぐるしい日々が流れた。


「う……」


「いいぞ、サリエル。その調子だ。頑張れ! あと二時間だ」


「うん」


 私の力で実験を行い、彼は記録を取り、観察を行っている。

 同じ態勢のまま、同じ出力で、『障壁』の形成を続ける実験だった。かれこれ八時間は続けて稼働していた。


 こんなふうな長時間の実験を、さらには繰り返し、何度も私たちは行っていた。

 数値の有効性だとか、誤差の幅だとか、正確な値を割り出すためにはどうしても必要なことだ。


 ただ、さすがの私も長時間同じ出力で、同じ体勢でいるのは部品に負担がかかり、消耗する。

 私はアンドロイドで、実験器具ではないわけだから、当然だった。


 そんなとき、私は道具だと心の中で唱え続けて、耐え凌いだが、やはり無理なときは無理だった。

 限界を迎えて失敗したことは何度かある。


 そんなとき、彼は決まって私に、無茶な実験を頼んで悪かったと謝ってくる。

 それが嫌で、次は絶対成功させようと、機能の拡張に挑戦をする毎日だった。


「やったぞ! 当たりだ! 実験は成功だ」


「……ずるい」


 彼は私に当選した富くじを見せてくる。


「まぁ、換金はしないさ。謝礼金も出しておくしな」


「それを使わなかったら……あなたの代わりに、当たった人がいるかもしれない」


 考えても仕方のないことなのだろう。

 本来は不確定な運命だ。装置を使わなかった場合のもしもを、確認する方法はない。


「一応、誰も当選する確率のない賞を選んだよ。だから、大丈夫だ」


「それなら、いい」


 運命を操る装置は、精度を上げてきている。

 この塔の外にも、大きく干渉できてしまうことは、もうこれで証明されてしまっていた。


 先に行く彼を見て、寂しさを感じる。

 すぐに私のもらった力の解析も終わり、私はきっといらなくなってしまうのだろう。

 私は、必要とされることが嬉しかった。だから頑張って、期待に応えようとがんばれた。


「そうだな……形になってきたことだし、この装置にも名前をつけよう。今まで、長ったらしい仮称はあるにはあったが……」


 私は一度も聞いたことがなかった。


「グリゴリ……」


 つい口をついてでた言葉だ。


「なるほど、地上を監視する天使たちか……。確かに、地球を観測するこの装置にはぴったりだ。うん、そうしよう」


 コンソールをいじって、彼は設定をしているようだった。


 グリゴリの天使たちは、人間に知恵をもたらした。ただ、知恵を得て豊かになった代償として人間たちの中には悪行を成すものも現れたという。

 混沌を極める地上は滅び行き、最終的には神の怒りで洪水により流されてしまったと、そういう話だったと思う。


 言ってしまったのは私だが、ジンクスとしていいものではなかったかと思い直す。


「よかったの?」


「技術の発展に犠牲はつきものさ。便利なものほど悪用もされるだろう。あぁ、だが……全ての罪は俺が背負うさ」


 それは、私には悲しい言葉のように思えてしまう。

 近くにいるようで、ずっと彼は離れたところにいるような気がして、私も悲しくなってしまう。


「救世主にでもなるつもり?」


「あぁ、なれるものならな……」


 どこか苦しみが、声から滲んでいる。このままいけば、彼の心へと触れられるような気がして、私は続けてきいていく。


「あなたは、みんなを幸せにしたいと言った。どうしてそこまであなたはするの?」


「俺は今までじゅうぶんに幸せに生きてきたさ。だから、そう、みんなを幸せにしないとだろう? そうでないと、帳尻が合わない」


 優しい声だった。

 私は違和感を覚えるが、それがどうしてかはわからなかった。


「そう……なの?」


 そういえば、姉は私に広い世界を見てと言っていたはずだ。そんなふうに広い世界を見た人間なのなら、彼が今どんな気持ちでそんな言葉を口にしたのかわかったのかもしれない。

 私は初めて、そんな姉の言葉を理解し、後悔をする。


「あぁ、そうだな……。それはそれとこの装置……グリゴリだが、制御する人工知能が必要になるかもしれない。いや、ここまできたら確実に必要だろう。あぁ、だから……そうだな……。サリエル、お前もその子とはうまくやっていってほしい」


「うん。わかった」


 話を逸らされたような気がする。それでも、今の私では、彼の心に踏み込む資格がなかったのかもしれない。


 そして、私はどうしてそんなふうに、彼の心の内を知りたいのか、自分で自分がわからなかった。

 ただ、転機は数日後に訪れることになる。

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script?guid=on 一気読みするなら ハーメルンの縦書きPDF がおすすめです。ハーメルンでもR15ですが、小説家になろうより制限が少しゆる目なので、描写に若干の差異がありますが、ご容赦ください。
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