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92.『調律』の天使


 サリエルの後ろから現れた俺を、ウリエルは一瞥する。


「どうやら、そうじゃな。あぁ、わらわは構わぬ。別に構わぬ。思い出した時に抱いてもらえるだけでじゅうぶんじゃよ」


 口もとを扇で隠して、目を細めながらウリエルは言った。

 俺とサリエルとの間にあったことを想像したのだろう。


「なにを言っているの?」


「いや、抱いてもらっていたのじゃろう? わらわは、まぁ、もうそこそこに相手をしてもらったわけじゃし、そうじゃな……同じ男と関係を持ったと、わらわに気兼ねする必要などないぞ? わらわたちは同志なわけじゃし」


 朗々とウリエルは語り出す。サリエルへと、笑顔を向ける。


 それを受けてだろう。サリエルは、俺の方へと振り返った。


「……ねぇ、ほんと?」


 底冷えのするような声だった。

 そんなサリエルに、俺はうろたえる。


「ほんとって……なにについてだ?」


「ウリエルと、できたの?」


「あぁ、たぶん……」


 記憶が曖昧だった部分があるが、あの時の状況から見て、そうだろうと考える他ない。


「それにしても、誘拐だなんだと、ラミエルのやつにせっつかれて来てみたが、取り越し苦労じゃったな……。久しぶりに会って、活気づいたただけじゃろう」


 そんな俺たちのやり取りを見ずに、ウリエルは一人納得していた。考え事をしていたのか、俺たちの方へと注意を払っていなかった。


「ウリエルも、サマエルも、いなくなれば……サリィとするしかない……?」


 唐突に『氷翼』が開かれる。


 サリエルは手をかざし、力を無に帰す『障壁』で、ウリエルを真っ二つに切断しようとしていた。


「ほえ……?」


「危ない! ウリエル!」


 とっさに俺は『スピリチュアル・キーパー』での干渉を試みる。

 けれども、サリエルへの干渉は、『障壁』により弾かれてしまう。だが、これは想定の内だ。


 サリエル……『自律式対時空歪曲兵器』。

 彼女はもとは『時空歪曲兵器』に対抗する手段として作られた兵器であったが、その力はすでにその域にとどまらない。


 ……『天使の氷翼』――『メカニカル・アナイアレイター』。


 サリエルの持つ『対時空歪曲兵器』は単純な破壊力では大天使の中で一番だった。

 サリエルは、強い。

 たとえば、力での干渉を基本とするラミエル、ラファエル、ガブリエルに対しては、完全に相手を封殺する形で勝ててしまう。


 つまり、『調律』の天使たる彼女を止められるのは、大天使といえども存在しない――( )


「おお……!?」


 俺は『スピリチュアル・キーパー』で、ウリエルの『アストラル・クリエイター』を起動。

 その『焔翼』――生成光を『障壁』にぶつけ、完全に相殺する。


 ――あぁ、それは、ウリエルたった一人を除いては……だ。


「邪魔。いなくなって!」


「む……また、わらわの『アストラル・クリエイター』を勝手に……と、今回は感謝せねばならぬようじゃな」


 俺から『アストラル・クリエイター』の主導権を取り戻したウリエルは、サリエルの展開する『結界』や『障壁』に、物質を生成をする際の『光焔』をぶつけて対抗していく。

 不意さえ突かれなければ、彼女にとってサリエルの攻撃は脅威ではない。


 簡単な話だ。サリエルが〝天行の消滅者〟と言うのならば、ウリエルは〝天界の生成者〟だ。

 生成と消滅。対をなす二つの概念がぶつかり、完全に打ち消し合う。


 同時にウリエルは塔の中心にある柱状の『障壁』を見て、塔の外へと飛び出していく。ここでの戦闘はまずいと判断したのだろう。


「ウリエル……あなたはテロリストだった」


「あぁ、そうじゃな。そうじゃったが……」


「サリィはテロリスト大嫌い」


「最後は皆で戦い、勝利したじゃろ! 始まりはどうであれ、わらわたちは正しかった」


「サリィはずっと、がまんしてた! 嫌い、嫌い……! サリィから大切なものを奪っていったやつらなんかっ!」


 サリエルがどういう経緯であそこから、機械の反乱に加担したかはわからないが、積み重なった不満が爆発するように叫んでいた。


「わ、わらわだってのぅ……。進んで暴力に訴えたわけでは……や、やむを得なかったのじゃ!」


 優しいウリエルは、たまらずに反論をしたようだった。

 戦いで生まれた犠牲を今に至るまで引きずっているウリエルの言葉だ。自分に言い聞かせるように虚しく響く。


「返して……っ! サリィに返して!」


 ただ、サリエルのその慟哭は理屈や大義などではなく、ただサリエル一人の感情から来るものなのだろう。


「……うぐ……っ」


 ウリエルが言葉に詰まる。


 わかる。そんな声に、そんな声だからこそ、()()()は弱い。

 理屈には、より適った理屈を……大義には、より正しい大義をぶつければいい。ただの一人も不幸にしたくない()()()は、そういう声に、どうしても足を止めてしまう。


「おとなしく、いなくなって!」


「くぅ……」


 押されて、ウリエルは防戦一方のように見える。性能の関係上、本来なら、彼女たちの力は拮抗するはずだった。おそらく出力の全てをサリエルの攻撃への対応に回していない。


「……ん?」


「あー、聞こえておるか?」


 俺の持つ『スピリチュアル・キーパー』を通してだろう。ウリエルの声が聞こえてくる。

 どうやら、サリエルと戦うなか、『スピリチュアル・キーパー』に干渉する装置を作り、俺に話しかけてきているようだった。そんな芸当に俺は感嘆を覚える。


 俺は『スピリチュアル・キーパー』を操作し、ウリエルに返信をする。

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script?guid=on 一気読みするなら ハーメルンの縦書きPDF がおすすめです。ハーメルンでもR15ですが、小説家になろうより制限が少しゆる目なので、描写に若干の差異がありますが、ご容赦ください。
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