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91.邪魔者


「うー」


 サリエルは唸って、俺にしがみついている。落ち着かせるように、そんなサリエルの頭を撫でる。

 あれから、ずっとこうだった。


「そろそろ離れたらどうだ?」


「うー。生殺しー」


 サリエルの非難はもっともだと思った。

 俺もほんの先ほどまで、そういうつもりだったからこそ、自分で自分に動揺もしている。


「あぁ、えっと……大丈夫か?」


「頭、おかしくなった……」


 恨めしい目で、こちらを見つめてくる。彼女のその気持ちはもっともだと思うが、どうしようもなかった。

 抱き寄せようとしたら、今度は腕にかぷりと齧り付いてくる。これが彼女のストレス発散の方法なのかもしれない。


「すまない……」


 こんなことになるなら、最初から断ればよかった。ラミエルやラファエルとは違って、サリエルは無理に関係を持とうとはしてこなかった。少なくとも俺の意思を尊重してくれていたように思える。

 それなのに、生半可なことをしてしまったと、罪悪感が込み上げてくる。


 口を俺の腕から離して、サリエルは俺の顔を見上げて言った。


「サリィはサマエルより良くなかった?」


「いや……あぁ、そんなことはないぞ?」


「サマエルとは、あそこまでいって、できなかったこと……ある?」


「あ、いや……」


「ある?」


 俺を見つめる瞳は、嘘は許さないと、そう言っている瞳だった。


「ない……な」


「……うぐ……。あ……あぁ……」


 呻き声をあげて、サリエルは沈み込んだ。

 見てわかるくらいどんよりと落ち込んでいた。泣いているようにも見える。


「サリエル……」


 抱きしめる。関係は踏みとどまってしまったが、家族のような暖かさで、慰めることくらいならできる気がした。


「サリィ……次、頑張るから……」


「……っ――」


「次、頑張るから、捨てないで……?」


 そうサリエルは弱々しく泣きついてくる。

 そこでようやく、俺はわかる。サリエルは、焦っている。一度失われた関係性を修復しようと無理をしている。


 サリエルの行動の結果によって、中途半端に俺にもサリエルへの愛着が生まれてしまっているから、こんないびつとしか思えない状況ができてしまったのだろう。


「なぁ、サリエル。ラミエルも、ガブリエルも……俺の記憶を積極的に戻そうとはしなかった。俺が忘れてしまっているなら、まず、自分のことを思い出してほしいって思うはずなんじゃないか……? そうしない理由は……」


「昔の記憶……都合の悪いものだから。なにもないあなたを染めていった方がいいって、たぶんみんな思ってる。手の届かなかった相手が、まっさらになっていたら、もう一度って思うでしょ?」


「そんなわけ……」


 今ひとつ、納得がいかない。

 彼女たちの情愛の深さは、今までの付き合いから、ある程度は理解できているつもりだった。


 けれどもさすがの彼女たちでも、そんなふうに欲望に根ざしたような理由に突き動かされているだけとは思えなかった。


「……あっ……」


 とうとつに、サリエルが声を上げた。

 そのまま俺から離れると、なにか支度をし始めるようだった。


「さ、サリエル……?」


「侵入者。たぶん、この感じ……ウリエル」


「あぁ、そうか……」


 それは、おそらく必然だった。

 サリエルの『結界』により、完全に孤立したシステムとなったこの監獄に、『結界』を突破して入れるのは『結界』を作ったサリエルを除き、ウリエルただ一人だからだ。


「待ってて……行ってくる」


「いや、俺も行く」


 俺の記憶に関して、ウリエルにも話を聞きたかった。ウリエルに対してだけなら、その出会いも朧げながらに思い出せる。

 彼女の人柄から、ある程度は誤魔化さないで正直に答えてくれるんじゃないかと期待できる。


「じゃあ、先に行ってる」


 サリエルは、先に無重力エリアに飛び込み、下の階へと降りていく。

 万一のために『スピリチュアル・キーパー』を持ち、支度を終えて、すぐに俺も後に続いた。


「……っ」


 無重力エリアに飛び込めば、内臓が浮き上がり、血が頭に上ってくるような不快感に襲われる。相変わらず、無重力での移動は慣れない。

 一階への到着に時間はかからなかった。地面について、すぐに重力エリアに復帰し、地球の力のありがたさを俺は感じる。


 さっきの『対時空歪曲結界』は、無重力に設定されていたわけだが、もちろん重力のある『結界』も作ることができるだろう。


 一般相対性理論を知っているだろうか。

 たとえば、さっき俺は無重力の空間にいたわけだが、この無重力は、特殊な器具がなくとも、地球上では体感できる。簡単な話だ。自由落下さえすればいい。


 そして面白いことに、重力に引かれるがままに自由落下しているのか、それとも本当に重力のない空間にいるのかは、区別をすることが原理的に不可能だった。


 だからこそ、『対時空歪曲結界』は、どんな加速度に引かれる人間にとって正しい時空なのかを一つ、選ぶことができるわけだ。


「ここはサリィたちのおうち。招いてない。入ったらダメ」


「すまぬのぅ……。入り口が開け放たれているようであったからのぅ、家主に構わず入っていいものかと思ったのじゃが……」


「そんなことない……」


 その先では、サリエルがウリエルと対峙していた。


 異世界のキーワードを外しました。検索面で不便をかけることになり、申し訳ないです。

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script?guid=on 一気読みするなら ハーメルンの縦書きPDF がおすすめです。ハーメルンでもR15ですが、小説家になろうより制限が少しゆる目なので、描写に若干の差異がありますが、ご容赦ください。
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