84.マザー
「はぁ、いつになったら、戦いが終わるのかしら……?」
私たちは設備に繋がり、充電を行っていた。
高度な機能を持つアンドロイドは、食物からエネルギーが得られる機構が備わっているようであったが、私たちは電気で動く。
いや、そういえば姉は、戦うのに必要のない機能をいっぱい注文してつけているのだったか。私は興味がないからよくわからない。
内部バッテリーの充電はここでおこなうが、それとは別に電力がきれそうな際に飲み込む電池を常に携帯するのがアンドロイドの嗜みだった。
内部バッテリーの全体容量の七割を切ると、お腹が空いて仕方がなくなる。
そして、この拠点には核融合炉が存在し、そこからは膨大な電力が供給されていた。だから、ここにいる限り、お腹が空く心配をする必要はないといえるだろう。
「敵の数は無限。終わりなき戦いにサリエルたちは投げ出されている」
「無限……って、嫌なこと言わないでよ。この戦いが終わったら、私たちは自由に生きるの。わかるでしょ? 自由よ?」
「終わってほしくないかも」
そもそも、今の生活が嫌なわけではなかった。
敵は弱いし、相当な下手を打たなければ損傷さえない。なにより世話を焼いてくれる姉がいていくれた。
むしろ自由になったその後のことを考える方が気が重い。何も考えず、敵を倒している方が、楽だった。
「私は嫌よ。せっかく生まれたんだから、こんなところで生を終えるなんて……。それに、きっとあなたは世界の広さを知った方がいい」
「もういろんなところに行った。じゅうぶん」
散発的に発生する戦闘のため、私たちは世界の各地を飛び回っていた。敵の手にした『時空歪曲』の技術のために、どんな地域も戦闘とは無縁ではいられない。それを可能にする力が『時空歪曲兵器』にはあった。
「戦場じゃないところもって、意味」
「それでも、じゅうぶん」
「なんというか、欲がないわよね……あなたは」
「みんなほど賢くもないし、強くもないから。やむなし」
「いやいや、それは私たちサリエルシリーズが高性能なだけ。言っておくけれど、人間なんてバカばかりよ? あなたでも、人間たちの前ならきっと大活躍できる」
浮ついたように姉は言う。人間を少し見下したような言葉に、引っかかる。ただ、私が人間に劣っていないというのは事実だった。
「大人が子どもを蹴散らすようなもの?」
「例え方が嫌に生々しいわね……」
「的確」
自分にすれば、とても良い表現ができたと満足する。
ただ、そうは言っても自分が人間たちの中で活躍するような光景が思い浮かべられなかった。
不意に、ドアの開く音がする。
「失礼するわ。ちょっと、いいかしらぁ? 歓談中に、申し訳ないわぁ」
「マザー!」
全ての私たちの上に立つ人工知能であるマザーAI。そのアンドロイド型の端末として、シンプルなグリーンのドレスを来た母性味あふれる背の高い女性の姿を彼女はとっている。
昏い森の木々の葉のように碧緑の髪に、空から見下ろす雲海のように白い肌、まるで地球のように蒼い瞳が彼女の特徴だった。
普通、アンドロイドは、人間としてあり得るくらいの髪や目の配色をしているが、彼女はそれから逸脱していた。
そんな彼女の容姿を不思議に見つめていると、彼女は自身の両手を合わせて話し出す。
「ええ、少し、次の出撃に関するプランをお話ししたいのよ」
「次……。また、敵が……!? さっき倒してきたばっかりなのに!!」
「いいえ、今回は違うわ。防戦一方なのはこれでおしまい。『時空歪曲』からの座標計算が終わったわ。今度はこちらから打って出る」
「……っ! 本拠地がわかったの!? じゃあ……!!」
「ええ、これが終わったら、あなたたちは自由ねっ。はぁ、やっとこの戦いも終わる」
マザーは、ほっとするように、表情を緩めていた。
それを聞いた姉の顔が明るくなる。
私たちサリエルシリーズが投入される前は、それなりに押されて、支配地域もそこそこに拡大させられてしまっていたという話だった。
だが、もう地図上に敵の拠点は存在しない。あとは所在不明の本拠地を叩けば終わり。
もう終わってしまうのかと、私は少し悲しかった。
「それじゃあ、私たちはそこにいけば……!」
「いいえ、あなたたちはこの作戦に参加しないわぁ。不測の事態に備えて、待機していてもらいたいの」
「え……? ここで?」
不思議だった。
敵の拠点が見つかったのなら、全員で叩けばいい。私はそう思った。
「ほら、今回は私たちから仕掛けるわけだけど、敵の襲撃の部隊と入れ違いになる可能性だってあるわけでしょう? それに対処する戦力も、で払わせるわけにはいかない」
「それはたしかに」
首を傾げていたら、マザーはそう答えてくれた。
マザーがそう言うなら、きっとそうなのだろう。
「今回は、私が直接、現地に赴いて指揮をとるわぁ。まぁ、とはいってもそれなりに安全なところからだけど……その間に、ここでのことはあなたに任せる」
「私が……っ!?」
マザーは姉に視線を向けると、その肩に手を置いた。
確かに姉は、サリエルシリーズの中でも判断力に優れていると評価を下されている。だから、合理的な流れなのだろうと私は思った。
「ふふ、それでもきっと、なにもおこらないと思うわぁ。気楽にそうね……ゲームでも楽しんでいれば、全てが終わっている……そのくらいで大丈夫だから」
「はい……っ!」
私たちにできるゲームは、全て戦闘に関わるものだから、訓練を怠ってはいけないと、そういうことなのだろう。
待機を命じられたとはいえ、気を引き締めなければならない。
「それじゃあ、よろしく頼んだわぁ」
マザーはそう言って、帰って行く。
その後ろ姿を見送って、私たちは顔を見合わせた。
「やった! 終わるんだ……戦いが……っ! 私たちは自由っ! あぁ、それに行かなくていいなんて……っ」
「……最後にひと暴れしたい気分」
「あなたが行ったって、大して暴れられないと思うわ」
「それもそう……」




