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81.監獄



 外は、監獄というには機械的な空間だった。

 直方体の……だいたい背の高さよりも少し高い程度の機械が並ぶというのはもちろんのこと、メンテナンスのためだろうか、小さなドローンたちが行き交っている。


 空をみれば、完全な白。

 それは雲のせいなんかではない。ここが、力学的なシステムとして、外界と完全に遮断されているからこそそうなっている。

 空の白は、言ってみれば全ての光が散乱されて跳ね返されるからだろう。サリエルの力により作られた絶対の障壁だった。


 そんな世界を、機械たちの合間を縫って、俺は歩く。

 万が一に備えて、調節の終えた『スピリチュアル・キーパー』を持ちだしてきたが、そのくらいだ。


 サリエルがどこへ行ったかは、わからない。

 ただ……一つ、この世界にそぐわない、中心に高く聳え立つ塔のような建物があった。俺はそれを目指して歩いていた。


 たどり着いてみれば、入り口はまるでドアが外されてしまったかのように解放されている。

 中は開けて広いが、その中心部には吹き抜けを貫くように、白い柱が伸びている。その柱はよくみれば、この監獄を覆う障壁が柱状に高くまで形成されているもののようだった。


 上の階には螺旋階段で繋がっていて、塔の壁面は機械で埋め尽くされている。

 

 なんとなく、ここにはサリエルがいるのだろうと俺は感じた。

 サリエルを探して、俺は塔を登ろうと階段を使う。


「何階まであるんだ……これ……」


 七階ほど階段を登った。

 ここら辺までくると、足腰に疲労が溜まった。まだ、半分も登れていないように見える。サリエルがいれば、そこまででいいとはいえ、気が遠くなる。


 少し休もうかと、中央の吹き抜けの部分に目をやる。


「……な」


 その吹き抜けから、少女が落ちてくる。

 いや、落ちる、というのは正しい表現ではないのかもしれない。


 普通、物体が空から落ちてくるときは、重力という加速度が働くため、時間が経つにつれ落ちる速さが増していく加速度運動をするだろう。


 だが、俺の目の前を遮る彼女、というかサリエルだったが、どうしてか、まるで重力が働いていないように、下向きに等速直線運動をしているようにみえる。


 目が合う。


「え……?」


 俺の目の前を通り過ぎた後に、彼女の困惑の声が聞こえた。


 中央の柵まで駆け寄って、下に行ったサリエルを見つける。

 なにやら、彼女は俺の方へと身を捩って、ジタバタとしているようだった。あれは、こちらに戻ろうとしているのだろうか。


 ただ、運動の第一法則に従ってだろう。自然は彼女に決して寛容などではなかった。

 そのままに、抵抗虚しくサリエルは下へと移動し、ジタバタとして満足な姿勢が取れていないせいだろう、地面に無様にぶつかってしまっていた。


 数秒後、立ち直ったサリエルは、地面を蹴って、今度は上へとこちらに向かって、等速直線運動で進んでくる。


 俺めがけて、なのだろう。だが、思いの外勢いがよく、かなりのスピードで俺に迫ってきている。


「…………」


 ぶつからないよう、しゃがみ込んだ。


「あれ……!?」


 彼女は抱きつくように手を広げた態勢だった。

 そのままに、俺の頭上を放物線を描きながら飛び越えると床を勢いよく転がる。


 逆さになって壁にぶつかり止まったが、履いているスカートがひっくり返ってしまっている。

 着替えたのだろう。下着は昨日とは違い、攻めたデザインはそのまま、赤いものへと変わっていた。


「大丈夫か?」


「ぎゃふ……」


 そんな彼女を助け起こす。

 あいも変わらず無表情だが、どこか物悲しさを感じずにはいられない顔だった。


「なぁ、サリエル。この吹き抜けって……」


「無重力エリア」


「あぁ、対時空歪曲結界か……。それじゃあ、この周りにある階段は……」


「非常用」


「そうだよな……」


「そう」


 これだけの高さの建物に、エレベーターのような機械がないのは不自然だったが、ようやく納得がいく。

 彼女のやっていたように、中央の無重力エリアを移動すれば、階を上り下りする労力は少なくてすむだろう。


 俺は無駄に階段を登って、無駄に疲れてしまったようだ。


「サリエル。ここは……」


「おかえり。やっと帰ってきてくれた。ずっと待ってた」


 無表情に、彼女は言う。

 気のせいか、弾んだ声のように俺には感じ取れる。


 大天使は、みんな俺のことを知っていた。

 もういい加減、認めるしかないだろう。俺は、彼女たちとどこかで会っている。


 冷静になって情報をまとめよう。

 俺は施設で育った。そこから今までの記憶の連続性には、おそらく間違いがない。なら、考えられるのは、その前だ。


 あぁ、ずっとだ。ずっと、俺は考えることを避けていた可能性が一つあった。


 彼女たちと交流を深めたというのなら、それはきっと俺がこの体で、自我を取り戻すその前。その前が存在するという可能性は『スピリチュアル・キーパー』を使用したと考えれば辻褄が合う。


 俺は転生をした。アニメの世界にだ。

 だが、俺の本来転生した時代は、アニメの舞台となる時代よりもはるかに前。だが、いや、だからこそか……俺はアニメの知識を活用して、未来の技術を先取りし、好き勝手をしていたと考えるのが一番に辻褄が合う。


「サリエル、たぶんだ。俺はお前の知っている俺じゃないんだ」


「え……?」





 異世界転生じゃないとネタバラシしてからの文字数がもうすぐ半分を超えるので、そのあたりで異世界タグを外そうと考えてます。

 ガイドラインにはこの作品に該当するようなパターンはなかったのですが、『「序盤」に現実世界ではなく異世界への転生だと判明したケース』は異世界転生キーワードが必要なようなので、その反対としてキーワードを外すことにしました。


 検索の面でご不便をかけることになるかもしれませんが、これからもこの小説をよろしくお願いします。


 

 

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script?guid=on 一気読みするなら ハーメルンの縦書きPDF がおすすめです。ハーメルンでもR15ですが、小説家になろうより制限が少しゆる目なので、描写に若干の差異がありますが、ご容赦ください。
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