79.敵?
「サリエル……。それで、お前……いつまでそのままでいるつもりだ」
「ぐぎぎぎ……抜けない」
抑揚のない声で、サリエルは言う。
窓から上半身だけ入った体勢のまま、今までずっとパタパタとしていた。
「腰が、通らないんだろ? こう、骨盤を斜めにするとかはどうだ?」
「斜め? たしかに……」
もぞもぞとサリエルは動く。わずかに回転をさせるように腰を捻った。
少しだけ、こちらに入ってこれた気がしないでもない。
「二次元的な感じだけじゃなくて、三次元的にもだ。ルートの二より、ルートの三になる感じで」
「こう?」
サリエルはくねくねと動いていた。
今度こそ、そのまま前に進んでこれている。
「あぁ、その調子――」
「ぐぎゃ……」
窓から侵入したサリエルは、あっけなく床に落ち、顔面から地面にぶつかっていた。
逆さになって直立している。着ていた服は、ワンピースタイプのもので、重力に従い裾からひっくり返って丸見えだった。サリエルの下着は白い生地で、布面積が少なく、ガブリエルくらいに攻めたものだった。
「うわ……惨めね……」
サマエルの、サリエルの姿を見て発せられた容赦のない一言だった。
数秒のち、サリエルは立ち上がると、服を整えて、すんとした表情で、こちらに歩み寄ってくる。
まるで何事もなかったような顔だが、鼻がわずかに赤い。
「サマエル。あなたがこの人を愛するというのなら、『円環型リアクター』を手にすることに、サリィは反対しない」
「……っ」
「ただ、愛すること。情欲を向けることでもなく、恋することでもなく、愛すること。それが、資格。だったら、その鍵をサリィがとってきてもいい」
サリエルの言っていることは、俺には理解できなかった。
いや、違う。俺の頭の中には、理解を拒む制限のような何かがある。そんな感覚だった。
「私、愛してるわ……っ。ねっ」
サマエルは、上目遣いにこちらを見た。
さっきは体の関係だけだと言っていたが、それを簡単に覆していた。それほどまでにサマエルは『円環型リアクター』を欲している。
「あ、あぁ」
「ふふん」
機嫌よく、サマエルは俺の腕に抱きついてくる。
彼女は、『円環型リアクター』を手に入れるためならば、どんな手段も厭わないのだろう。
じっとサリエルはサマエルの顔を見つめる。見つめて、動かずしばらくが経つ。
ゆっくりと、サリエルは口を開いた。
「そう……なら、サリィはサマエルを認める」
「じゃ、じゃあ!!」
期待をするような目でサマエルはサリエルを見つめる。
それを受けて、サリエルはおもむろに服を脱ぎだす。なんの前触れもなかった。
「いや、サリエル……なにしてる……」
「疲れた。今日は寝る」
台の上に、サリエルは服を放り投げる。
大胆な下着も脱いで、そのままに全裸になる。
「あ、私のベッド!?」
「ぽふ……」
サリエルは、サマエルのベッドの上に倒れ込んだ。本当に、寝てしまうつもりのように見える。
「サリエル……お前……」
「サリィ、今日頑張った。ラミエルも、ウリエルも、チェイスして倒したし、一番乗りした。偉い、褒めて?」
「あ、あぁ、すごいな……」
ラミエルたちが遅かったのは、サリエルのせいだとわかる。
なんというか、足の引っ張り合いだとか、そういう言葉が頭に浮かんだ。
「えへへ……。そう、抱きたければ抱いてもいい。サリィのときはすぐ終わっても構わない」
「いや、遠慮しておく……」
「そう。そういう下着を着てきたから、そういうことしてもいいのに」
「いや、下着、さっき脱いだだろ」
「そうだった……」
独特な会話のリズムだ。相変わらず、サリエルは表情の変化に欠けている。
そのままに、ベッドにうつ伏せになって、枕に顔をうずめながら、脱力していた。
「私のベッド……」
サマエルは悲しげに呟いている。
それにしても、さっきまで、俺とサマエルが男女の情事に耽っていたベッドの上だ。よくサリエルは、そんなところに居座れるなと俺は思う。
「サリエル……そこは……」
「ぐう……ぐう……」
「…………」
寝息を立てて眠っていた。
「……。……行くわよ」
「どこにだ?」
「ラミエルの部屋。あそこなら、今は空いているわ」
俺の部屋にはレネがいる。空いている部屋といったら、たしかにそこくらいか。
突然あらわれたサリエルと一緒に寝ることは、心理的に難しいだろう。
「そうだな……」
ラミエルには悪いとも思う。だが、サマエルの性格から、思いついたことをやめたりはしない。
「どうしたの? 行かないの?」
もう、ドアを開けた向こうにサマエルはいた。
俺は、ベッドの上でぐっすりと眠るサリエルを見つめていた。どうしてか、胸がざわつく。嫌な予感がする。
「あぁ、今いく」
サマエルを追って、俺は音を立てないように、そっと部屋のドアを閉めた。
いいねの合計が100を超えました。みなさん本当にありがとうございます。
これからも頑張って更新していきます。




