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77.心の負荷


 彼女は、俺の腕の中で、もぞもぞと動く。その視線が、部屋の隅に置いてある時計に向かった。


「もう、三時間も経っていたのね……。なんというか、一瞬だった」


「あぁ、そんなにか……」


 ベッドに入って、ことに及んでしまうまでに一時間。始めから終わりまでで一時間。余韻のままにゆったりと過ごし、心を許され話した時間が一時間。だいたいそんなくらいだった。


「さっきは意外と大したことはないって言ったけど……あれは、やっぱり違うわ。すごく気持ちよかった。思っていたより、ずっと……」


 見れば彼女は涙を流していた。過去を思い出し、悲しみに囚われていたときとは違う涙だとわかる。

 そんな彼女の涙を、俺は指で拭ってみせる。


「大丈夫か?」


「そうね……心も体もあなたのものになったような不思議な気分……。一人じゃないって、幸せね……。はぁ……」


 抱きついて、彼女は身体を寄せる。肌と肌とで温もりが強く伝わってくる。彼女も同じで、それを感じているだろう。

 安らいだ顔を彼女は見せる。


「…………」


「疲れたから……このまま少し眠るわ……」


 そのままに、彼女は目を閉じる。この男女の仲を確かめる行為は、彼女の体にも、心にも負担になっているはずだ。

 

 けれど、すやすやと寝息を立てて眠る彼女の顔は、ひどく幸せそうに感じられる。


 そんな彼女をベッドに置いて、俺はシャワールームに足を運ぶ。


「あぁ……くそ……」


 シャワーで全身を流す。

 まとわりつく、サマエルの涙に、汗に、唾液に……とにかく、そういった体液が気持ち悪かった。

 そこらへんはアンドロイドだというのに、妥協のない凄まじい再現具合だといわざるを得ない。


 サマエルと関係を持つことに関しては、ある程度、覚悟をしていた部分がある。


 なにせ、彼女はアニメのメインヒロインだ。物語の終盤……サリエルと戦う前には、死んでしまったレネのことを未だ引きずる()()()と、無理やりに脅す形で結ばれている。


 サマエルの性格の苛烈さを思えば、あのとき俺には断って、穏便に済ませるという選択肢はなかった。

 俺に使えるかどうかわからないが、『スピリチュアル・キーパー』が手に入るだけマシだろう。


「うぐ……」


 吐き気を感じる。

 えずいて、近くにあったトイレに、逆流した胃の中のものを吐き出す。


「がは……ごほ……」


 彼女をなるべく楽しませようと、無心になっているうちはよかった。だが、今になってだ。情けない話だが、涙も出てくる。


 辛い。

 サマエルとはあまり親しい間柄ではなかったため、ガブリエルだと思って自分を奮い立たせて行為に及んだ。そのせいか、ガブリエルに申し訳ない気分になり、輪をかけて苦しい。


 後悔する。

 あのとき、ガブリエルについて行けば、こんなことにはならなかった。いや、それどころか、今頃は二人で幸せな生活があっただろう。


 自分の選択を、悔やんでも悔やみきれない。

 レネになんとか幸せになってもらうためだ。俺がいなくなれば、レネは悲しんでしまう。


 あぁ、けれどもこれでわかったこともある。

 アニメでは全滅した後、死んだはずのサマエルがまたドローンを蹴散らすシーンで終わったが、それは彼女の言葉を借りれば、次のサマエルだったということだろう。


 大天使に、サマエルに……アニメであったようなシナリオとは大きく乖離してしまっている。

 ただ、ラミエル、ラファエル、ガブリエル、ウリエル……おおかた、アニメで戦った大天使が出揃った以上、次、戦う相手は決まってくる。


 サリエル――首都防衛の要であり、純粋な破壊力では最強とも呼べる大天使。アニメでは、限界を超える時空歪曲兵器の出力を発揮したサマエルと相打った相手だ。


 ただ、こちらの戦力もアニメ通りではない。どんな結末になるかはわからない。

 正直に言えばサマエルたちの諍いには、それほど積極的に関わりたいわけではないが、あぁ、きっとそうもいかないだろう。


 シャワールームから出て、身体を拭く。

 気持ち悪さもだいぶおさまってきた。


 服を着て、ベッドに入り、サマエルの隣で休む。目を閉じて、サマエルが起きるまでをそこで過ごした。

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script?guid=on 一気読みするなら ハーメルンの縦書きPDF がおすすめです。ハーメルンでもR15ですが、小説家になろうより制限が少しゆる目なので、描写に若干の差異がありますが、ご容赦ください。
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