71.勢揃い
「……? 蘇ったの……? あの人が……っ!」
今まで無言で、一言も発さずに、成り行きを眺めていた女性が急に立ち上がる。
「あぁ、そうさ。おとなしく死んだままでいればいいものを……未練がましくな……」
「未練がましいのはキミの方じゃないかい? ラファエル」
「く……っ」
ラファエルは、こちらを――ガブリエルを強く睨みつけた。
これでは、大天使たちは、いちいち他人を煽るような言動をして、いらないことでいがみ合っているように見える。話が進まない。呆れるほどの仲の悪さだ。
「行かなきゃ……。手伝わないと……! サリィはここで退出します!」
言い争う二人を尻目に、急に立ち上がった彼女は、言うが早いか、そのまま席を離れて、入り口へと駆け出している。
「すみません! 遅れてしまいました」
「いやじゃー。行きたくないのじゃー」
「ぶへ……っ!?」
入り口へと駆け出していた女性は、新しく入ってきた彼女たちと勢いよくぶつかる。その反動のままか……いや、不自然なまでに吹き飛ばされてしまっていた。
「ラミエル。ここでのその武器の使用は禁止」
「ミカエル……。すみません、つい。ただ、部屋の中にはまだ入っていないので、『主』もお許しくださるでしょう」
「うぅ……。ずっとサボってきたわけじゃ……。どんな顔をして会えば良いかわからぬ。ぐす……」
ウリエルはラミエルに引きずられながら、そんな泣き言を漏らしている。
「うー。痛いです」
ラミエルの電磁気の力で、地面に転がってしまった彼女に目が向く。おでこを抑えてうずくまっているようにみえる。
ラミエルが、ウリエルを放り出して、駆け寄っていった。
「すみません! 自衛のためとはいえ……どうかお許しください」
「むー。痛いけど、許すのです。走ってたサリィが悪いから……」
「ありがとうございます」
ラミエルは、そんな彼女に手を貸して、助け起こす。
大天使同士にしては珍しく、仲は悪くなさそうだった。
「うぅ……わらわの席は……ここか?」
「えー、そっちはサリエルね」
「む……ここか……?」
「あ、そっちは、わたくしです」
ウリエルは、周りを見渡す。
「……? わらわの席なくない?」
「自分で作ればいいんじゃないかい?」
「おぉ……! それもそうじゃな」
ウリエルは、自分の手前の何もない空間に手をかざす。『アストラル・クリエイター』を使おうとしたのだろう。
「ここでの使用は禁止されている。いったん出て……」
「あー……わかった、わかった」
咎められ、一度ウリエルは退出した。
部屋の外からは、『焔翼』の輝きが漏れ出し、一瞬だが、部屋全体が眩しいほどに明るくなる。
「それにしても、大天使が、全員揃うなんてねぇ。いつぶりかしら?」
「ウリエルがまず来ないけれど、それを抜いてもラファエルも、ボクも、度々欠席しているからね……」
「む? おそらく、アザエルの暴走のとき以来じゃろうて……。たしか、議決をとったじゃろう? あのときは、わらわもまだサボってはいなかった……と、詰めるのじゃ……わらわも入る」
椅子を引きずりながらウリエルは戻って、話の輪へと入ってきた。
「あの子はサリィが閉じ込めてる。責任を持ってです……」
「本当に、どうしてあんなふうに育ってしまったのかしら」
「…………」
暗い雰囲気に包まれる。アザエルの件は、どうやら彼女たちの心に今も尾を引く事件のように思える。
そんな彼女たちをみて、ガブリエルは一つため息を吐いた。
「あぁ、この話は君たちにとって、いい思い出がないようだからやめておこうか……。とても辛いだろう……家族思いな君たちにとってみればね」
「身内の恥。面目ないです」
「はぁ……あなたたちが反対しなければ、すぐ、あれは対応可能でした」
「あんな風に。悠長なことを言っていたから、余計拗れたんだ。まったく」
ラミエルとラファエルの二人が、肩をすくめていた。
なんとなく、二人は仲が良いなと思った。
「そうだわ……ぁ! せっかく七人揃ったのだし、議決を取らない?」
「何に関してだい?」
「サリィは、もう退出するつもりなのですが……!」
ラミエルに助け起こされていた彼女は、きりりと手を挙げてそう発言している。
「いや、どこに行くつもりなんだ?」
「あの人のところに……!」
「場所はわかるのか?」
「は……!?」
ラファエルに指摘された彼女は、大天使の仲間たちの顔をしきりに見渡したあと、すごすごと自分の席へと戻って行った。そんな彼女の顔は赤く染まっていた。
「そうね。それで取りたい決議なのだけれど、議題に上がっていた彼……今はラミエルの夫だそうだけれど、彼に『円環型リアクター』の開発への協力を求めるために、召喚したいわ。私は賛成なのだけれど……」
「……ボクは棄権しよう」
「わらわも棄権じゃ」
「わたしも……棄権」
すぐさまに、ガブリエル、ウリエル、ミカエルが続々と棄権を表明した。
「ワタシは賛成だ」
「はぁ……これで賛成が二票かしら」
「わたくしは、反対です。あの人の幸せは、そこにはありません」
賛成が二票。反対が一票。この場にいるのは、あと一人だ。
「サリィも反対です。あの人のこと……きっとサリィたちに考えつかないような計画が進んでいる。邪魔をする必要はないのです」
「賛成が二、反対が二……。有効票の過半数に満たなかったから、否決かしら。……はぁ」
提案をした彼女は、疲れたように俯く。
その表情から、気苦労のようなものが、感じ取れてしまう。




