70.追及
「まず、ボクから追及したいことがあるんだ」
立ち上がって、そう言う。
視点こそガブリエルのものだが、俺からはなんの干渉もできなかった。
「なぁに、ガブリエル。あなたからなんて、珍しいと思うわ」
「あぁ、彼についてのことさ……。ミカエル。キミは彼が蘇ったことについてを知っていたんじゃないかい?」
「……黙秘する」
ガブリエルは、ミカエルを睨んで……おそらく睨んでいるんだろう、そんな感覚がする……そう語気を強く問い詰めていた。
それを、さらりとミカエルは受け流している。
そんな態度に、今度はラファエルが身を乗り出す。
「あぁ、それはワタシからも聞いておきたかった。例のクローンの……これでわかるはずだな。その計画は失敗したと言っておきながら、あれじゃあな……。どうして隠していたんだ」
「計画は失敗した。そこに間違いはない」
「その秘密主義は誰譲りかな?」
「…………」
ラファエルと、ガブリエルに責められても、ミカエルはだんまりを決め込んでいる。これ以上、話すつもりはないように見える。
「えぇ……? 話が見えないのだけれど……ぉ。わかるように説明してくれないかしらぁ?」
間伸びした口調の女性が、蚊帳の外にされて心外とでも言うように、割って入ってきていた。
ミカエルを見たまま、ガブリエルは一つ溜息をついた後に、その女性の方へと向き直る。
「あぁ、例のクローンのプランのことだね。一向に、『円環型リアクター』が作れない状況を打破するため、彼のクローンを作って、彼と知能を同等まで引き上げようっていうね。経過観察はミカエルの仕事だっただろう……?」
「確かに、そんな話があったわねぇ」
「ふん。これを見てみろ? そのクローンの一体がテストで書き上げた理論だ。ワタシの権限で、調べさせてもらった」
ラファエルから、データが転送されてくる。
これは……俺が昔、施設にいた時代に書いたもの……だと思う。古い記憶だから、あまり自信がないが、おそらくはそうだ。
「うわ……これ……。今、行き詰まってるところのその先……かしら? 大天使の持つ理論が一つ一つ上手く組み合わせられている感じ……? 精査してみないとわからないけれど……見た限り矛盾はないようね」
「問題は、これがミカエルに握り潰されていたことさ。これを書いたクローンは、記録だと、単純な肉体労働を行う労働者の区画へと配属されている」
「え……?」
「他のクローンは……この一体ほどの才能を見せなかったが、どれも技術を必要とする仕事や、管理を行う仕事に就いている。明らかに、このクローンだけが、適正外の役割へと配属されているということだ」
俺のやっていた仕事は、適正ではなかったのだろうか。
理論研究というのは、新規性が必要だろう。過去のものをなぞれるだけでは、それは才能とは言わない。新しく科学の理論を構築するには、俺の知識も発想も古すぎるものだ。
このときに行われたテストも、そういう意味で、才能がないのだと判断されたと思っていた。
なんの才能もなかったのだから、俺は、ある程度の体力さえあれば誰でもできる仕事をやっていた。そのはずだった。
「なら、そのクローンを、今すぐに引き立てましょう? 永らく開けなかった『円環型リアクター』への道も、ようやくきっかけが――」
「いや、ラミエルさ。ラミエルのヤツが、結婚とか言って、行方をくらませただろう? その相手がこのクローンだ」
「まぁ!」
間伸びした口調の女性は、ぱっちりと目を見開き、声とともに驚いてあいた口へと隠すように手を添える。
構わず、ラファエルは続ける。
「アイツは一番にあの男にこだわっていたからな。それにワタシも会ったからこそわかる。アレは本人だ! どんな手を使ったかはわからないが……なぁ、ミカエル……? このクローンの計画……本当は、あの男を蘇らせるためのものだったんだろう?」
「……彼の能力に近いクローンを造り出す計画は失敗した。だから伝えなかった」
「あくまでもシラを切り通すというわけか? いや、本人ができてしまったというわけだから、伝えなかったとでも言いたいのか? ふん、詭弁だな」
呆れたようにラファエルは言う。苛立っているようにも思える。
「そうだね。悪いようにはしなかったさ。だから、ボクにだけでも伝えてくれればよかった」
「……。あなたは信用できない」
銀色の眼でこちらを射抜いて、ミカエルはそう溢す。
「いやいや。ボクほどに信頼をおける人間は……」
「そうねぇ。アザエルとの戦いも、あなたはどっちつかずで勝ち馬に乗ろうとしていたし……。信用ならないわよねぇ」
「ふふ、用心深いだけさ? その分、決めたことは絶対に譲らないぜ?」
「その執念深さも、厄介……」
大天使の間では、ガブリエルは警戒されているようだった。
少し、彼女は誤解されやすいところがあるだけで、本当は優しい人間なんだと、俺は彼女たちに伝えたくなる。




