62.同情されて
「なぁ、どうしてそんなに……。正直、途中で投げ出してもおかしくないなって俺は思ってたんだが」
少し、短い時間に詰め込みすぎたと思った部分もある。実際に、無理をさせてしまったのか、彼女の頭がおかしくなりかけた時もあった。
「わらわには目的があるんじゃよ?」
「目的……」
「そうじゃ、わらわと同じようなアンドロイドが、世の中を堂々と歩けるようになる世の中にするという目的がの……」
「いや、だが、アンドロイドなら、十分に人の世界に馴染んでるって、俺は思う。俺の上司だったり、同僚も……あぁ、あいつもアンドロイドだったよ」
十分に、AIは知能を発達させたがゆえに、人の姿をして、人と同じ知能を持ったアンドロイドは、人と同じように扱われる。
そういうアンドロイドを、俺はずっと見てきた。
「じゃが、アンドロイド狩りをそなた、知らぬわけではないだろう」
「…………」
「アンドロイドは人ではない。そう叫んで、アンドロイドを捕まえ、不埒なプログラムを植え付けるやつらじゃ。わらわたちを、ものとしてしか、あやつらは見ない」
「……っ!」
ウリエルは、怒りを滲ませていた。
あぁ、人間は恐れているんだ。自らより優れた存在が、自らにとって代わってしまうことを。
だからこそ、そうやって、自らと違う存在を虐げることで……いや、こんなこと言い訳にもならないだろう。
もちろん、違法行為だが、取り締まりが遅れてしまっているのが現状だった。
そんな事件は、もうありふれている。
「わらわの友人も、かつて、やられてしもうた……。変わり果てた姿でのぅ……あんなのは死よりも惨いじゃろう。だから、わらわの手で……な……」
なぜ、こんな活動に彼女が熱心になっているか、もう十分すぎるほどに理解できた。
もし、俺と親しい誰かが、そんな目にあったら、たぶん俺もそいつらのことをどうにかしたくなってしまう。
「ウリエル……。お前は……人間を滅ぼしたいのか?」
だから、聞いた。彼女に、もし、俺の書いた通りのものが作れる力があったら、きっと、それは可能だろう。
「そんなわけないじゃろ? そうじゃな……抑止力じゃ。わらわは、アンドロイドが安心して過ごせる国が欲しいんじゃ! だれもやらぬようじゃから、わらわがやる。それだけの話じゃな」
なんとなく、彼女にはシンパシーのようなものを感じてしまう。
「そうか、お前は優しいな……」
「お主、頭がおかしくなったのではないか? お主を攫って拷問しようとしたわらわが優しいわけなかろう。そういえば日光に十分に当たれないと人間はおかしくなるのじゃった……! 大変じゃ、大変じゃ!」
一人、勝手にウリエルはわたわたとしていた。
ここは確かに、完全に密閉されたような室内で、窓さえない。地下室か何かだと思う。
「落ち着け。太陽光を再現した照明とかならそこらへんに売ってるからな。今度、それでも持ってくればいい」
「そ、そうじゃな……」
ひとまず彼女は落ち着いてくれた。
そんな彼女に笑って言う。
「ウリエル……お前は仲間のアンドロイドのためと言ったな? あぁ、わかるか……? 俺は……人が死ぬのが耐えられない」
「…………」
「今この瞬間にも、どこかでだれかが死んでいるんだ。あぁ、俺が、もし、何かをすれば助けられたかもしれない命が失われている」
ウリエルは、意味がわからないといいたげな顔で俺のことを見つめていた。
「人は無常なる存在じゃぞ? 死ぬのは当然じゃ……自然の摂理ともいえ――」
「――自然の摂理だから、……どうしようもないことだからって諦めるのか? あぁ、そうだよな……みんな、そうやって簡単に諦める。だから、俺が……俺がやらなくちゃならない……」
ウリエルにそう訴えかける。
ウリエルは笑って、首を振った。
「わらわは、お主のこと嫌いじゃよ。人は自分のことだけ考えて生きていけばよい」
彼女は、そうして俺の拘束を解いた。
「な、なんのつもりだ?」
「ふふ、御褒美じゃよ? ここまで、反抗するそぶりもなかったからのぅ。流石に部屋からは出せぬが、まぁ、少しくらいは自由でもよいじゃろう。その勢いで、わらわの身体を好き勝手にしてくれてもかまわぬ」
服をはだけさせて、迫ってくる。
「意味がわからない」
「籠絡しようということじゃ。わらわ以外の他人のことなどどうでもよくしてやろう……今だけでもじゃ」
多分、彼女とは同情でつながってしまったのだと思う。
次の日には、もうなにもなかったかのように、自然法則の定式化の続きが始まる。




