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55.分裂

 船内のモニターのある部屋に足を運ぶ。

 俺たちを逃すためにウリエルを足止めしているラミエルの戦いの様子がまず気になる。

 サマエルも上手くやれているか心配だった。


 足早に、ドアを開けて、モニターを――、


「ラル兄!」


「レネ?」


 レネが抱きついてきていた。

 そういえば、レネは一人ここに取り残されていたのだった。心細かったのかもしれない。


「すまない。放っておいて……いま、少し忙しいんだ。ちょっと、待ってて……」


「嫌だよ! ラル兄!」


「…………」


 レネはそう言って、俺のことを止める。

 レネがなにをしたいのか、俺にはよくわからない。


「さっきも危なかった! 見てたよ私!」


「…………」


 モニターを見れば、叩き割られていた。


「どうして……っ? ねぇ、どうして、こんな遠くにまで来たの? あの女と関わってから、こんなことばっかり……! ラル兄は、どうして、あんなのの手伝いをしているの?」


「それは……」


 サマエルのことだろう。

 確かに、レネが救われた以上、用はない。俺がこんなことする必要はなかったのかもしれない。


 そんな俺に振り回されているレネは、たまったものではないだろう。


「ラル兄……! いい加減にしてよ! そんなんじゃ、利用されるだけ利用されて……いらなくなったらポイだよ? 死んじゃったときも……どれだけ……、どれだけ……!!」


「いいんだ……俺は……。俺は別に、いいんだ……」


 そんなレネには、俺のことなんか見捨てて、どこかで幸せになって欲しかった。レネならきっと、幸せを掴めるから。


「ラル兄は……、……っ!?」


「……っ、揺れ!?」


 おかしい。

 時空制御がこの船には働いているはずだ。揺れるなんて、まずない。なにか異常が起こっている。


「ラル兄! だからラル兄は……っ」


「待て、レネ。話は後だ」


「……え?」


 据え付けられた機械を操作し、異常を確認する。

 調べた途端に、すぐにわかった。


「外に大規模な時空の歪み……サマエルじゃない。これは小型のブラックホールか? 引き摺り込まれている」


 だいたい察しはついた。

 ウリエルの攻撃だ。


 超新星爆発というのは、爆発して、それで終わりではない。場合によっては中性子星……さらには極端な時空の歪み――( )重力特異点が現れる可能性すらあった。


 ウリエルの『アストラル・クリエイター』ならば、こんなふうに、重力特異点を攻撃に用いることも、理論上不可能ではない。


「ラル兄。大丈夫なの?」


「船を動かせれば……エネルギーが少ないな……ラミエルの『円環型リアクター』で動かしていたのか……だけど、離脱するだけなら……」


 残りのエネルギーを、この強力な重力から脱出するためだけに割り振る。

 観測の妨害に使っていた分も、全て、船の航行へと回す。これなら、なんとか――( )


「いや、少し足りないか?」


「……え?」


 このままの軌道で行けば、特異点に取り込まれる。

 まずい。

 何か手はないか、船にまだ航行に回せるような余分なエネルギーがないかを探す。


「そうか、救難艇があるのか。これを使おう」


「え……それで脱出すればいいの?」


「走るぞ、レネ」


 救難艇の場所まで、距離があった。ラミエルだけのための宇宙船というのに、無駄に広い。

 全力で走って、数分くらい経ってしまったか……。船内の重力制御は働いている。重力特異点からの影響を考えて、これだけは切れなかった。切ってしまえば、時空の歪みで船内の精密な機材はまともに働かなくなる。


「ま、待って……ラル兄……! あ……っ」


 レネが、転んだ。

 なにもないところで、バランスを崩すような揺れもなかった。なぜかとも考えたが、急な運動で足をもつれさせてしまったのだろう。

 レネは、もともと運動のセンスがなく、肉体労働にも向いていなかった。レネのことを考えず、無理に走らせてしまった俺の失態だった。


「大丈夫か……?」


「うん。痛っ……挫いちゃって……」


「走れそうか……?」


「…………」


 レネは首を振った。

 おぶっていくしかないだろう。


 船が揺れる。


「まずい、時間がない……!!」


 背負って行って、間に合う保証がなかった。


「ねぇ、ラル兄。私は、死ぬならラル兄と一緒に死にたい」


「レネ……」


「だから……」


「それは、ダメだ……!」


 レネの言いたいことは十分にわかった。長い付き合いだ。俺がこれからどうしようとするか、お見通しなのだろう。

 けれど、それは認められない。


「待って……っ! ラル兄!!」


 走る。

 救難艇のある場所まで、全力で走る。


 救難艇は、一台の車のようなサイズの乗り物だった。

 乗り込んで、操作方法を確認する。プログラムに手を加えているような時間はないか。


 射出方向を設定する。

 そのままに、発進のボタンを押す。躊躇はなかった。

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script?guid=on 一気読みするなら ハーメルンの縦書きPDF がおすすめです。ハーメルンでもR15ですが、小説家になろうより制限が少しゆる目なので、描写に若干の差異がありますが、ご容赦ください。
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