54.退避
「サマエル、焦りすぎです。それはやめておきなさい」
「あ……っ」
冷静に、諌める声と共に放たれたラミエルの電磁気により、『グラビティ・リアクター』の起動が止まる。
同時に、雷撃でウリエルの動きも牽制していた。
「ウリエル……衝撃波程度ではすぐに回復をされてしまいますか……。それに雷撃は高い伝導率の金属で、地面へと受け流される……」
「ラミエルの攻撃は、すごく痛いの。やめてくれると嬉しいのじゃが?」
涼しげな表情を変えずにウリエルは言う。ラミエルの電磁気さえ、何事もなかったように対応されてしまっているのだ。
「ラミエル! どうして止めたの! こいつさえ倒せば……こいつさえ倒せば、全て終わり、私の勝ちなの。私の頭なら、気合いでもたせる。出し惜しみはしない方がいい!」
「ですけど、そんな真似は認められません! まだ優位はこちらにある。不足の事態に温存しておくべきです!」
言い争いに発展する。
敵であるウリエルは、そんな二人を神妙な顔で見つめていた。
「むむ、わらわは仲間外れかの? 正直、こんな辺境な星になにを求めて来たのかわからぬけれども、適当に戦って、適当に逃せばよいと、わらわは思っておるのじゃが? 二人とも、わらわの顔見知りじゃしの……」
「…………」
そんないい加減なことをウリエルは言ってみせる。思い返せば、彼女から、確かに積極的に攻めることはなかった。
大天使がこんなことでいいのだろうか。
「じゃが、なるほどのー。理解できた。こやつか……。では、わらわも少しやる気を出さねばらないないようじゃな……? 命を懸ける戦いに値するというわけじゃ」
「……は?」
ウリエルは、こちらを見て、言った。
嫌な予感がする。
「さぁ、さぁ……! 天体ショーの時間じゃぞ?」
彼女の『焔翼』が煌めく。
パチパチと音立てて、あらゆる色の――スペクトルの光が弾ける。さまざまな種類の原子核が生成されているようだった。
「サマエル! あなたはあの人を連れてウリエルの観測範囲内から下がってください。ここはわたくしが足止めをします」
「ええわかったわ」
「な……!」
気がつけば、サマエルにより抱えられている。
完全に足手まとい。悔しいが、このまま退避するしかない。
「一応、追撃はするのじゃがな……?」
「……!?」
ウリエルはこちらを見ていた。
おもむろに、彼女は懐から何かを取り出す。あれは、折り畳まれた扇だろう。
ゆったりとした動作のまま、その扇は広げられる。
「あまり複雑なものは、わらわには造れないのじゃが……」
優雅に彼女は扇を、こちらへと風送るかように、一振り、煽ぐ。
その動作に、意味がないことはわかっている。
「っ……!!」
「ふぁいあ!」
だが、同時に、煽がれた風がそう変わってしまったかのように、携行のミサイルの弾頭が飛び出していた。
「させませんよ!」
気の抜けた掛け声と共に放たれた弾頭を、ラミエルは電磁気の力で、もうすでに弾き飛ばしている。
「まぁ、自動誘導じゃ。いつか当たってくれるじゃろうて……」
「厄介な……手間を惜しまず破壊しておけばよかったですか」
そんな適当なウリエルの言葉に、ラミエルは歯噛みをする。
ウリエルは、ラミエルの調子を見て、やれやれと首を振った。
「手間をかけて、わらわに隙を見せたくないからこそ、ラミエル、お主はそうしたわけじゃろう? 最適な行動じゃよ。あとはあの、むすめごに任せるほかないじゃろうて。ほれ、ほれ」
作った兵器を使い捨てながら、ウリエルはラミエルに攻撃を繰り返している。
単純な力学的な砲撃だったり、光学的な光線だったり、熱的な爆発だったり、化学的な汚染だったり、手を変え品を変え、ウリエルはラミエルに休みを与えない。
「煩わしい……!」
ラミエルは、その一つ一つに対応しているが、チクチクと鬱陶しい攻撃に苛立ちを募らせている。
「……くっ」
その間にも、ラミエルが最初に弾き飛ばした自動誘導の弾頭は、方向を変え、確かにこちらへと向かって来ている。
迎え討ち、サマエルが地面を剥がして、運動エネルギーをぶつけるが、止まる様子がなかった。
「……っ、意外と頑丈ね。まぁ、準備ができたから、一旦、離れるわ?」
「あ、あぁ」
空間を短縮した道を通り、一秒と経たないうちに、ラミエルの宇宙船の中へと入る。
観測範囲外へ、ということだっだが、この宇宙船では、完全ではないものの、『セレスティアル・スプリッター』の電磁気の作用によって観測への妨害が行われている。
だからこそ、ここからならば、奇襲もある程度は効果があるだろう。
「まだ追ってきてる……! 少し迎撃してくるわ! あと、ラミエルの援護もしてくる」
彼女は『白翼』を広げ、そう告げるなり、入り口から飛び出していく。
「あぁ、気をつけろよ!?」
「ええ!!」
俺も何か手伝いたいが、できることが思いつかない。
ウリエルとの戦いは、現状、二対一でも、それほど優位をとれているとは言えないような状況だった。なにか力になれればよかった。




