53.『光焔』の天使
「おぉ、サマエルか……久しぶりじゃの! あのこわっぱがここまで育ったことに、わらわは感動を……、む……? 前見た時から成長は止まっているようじゃな?」
銃弾の衝撃で、右腕が完全に外れてしまったウリエルは、吹き飛ばされながらも、そう振り返ってサマエルへと軽口を叩いている。
「仕留め損なった……!?」
「サマエル。落ち着きなさい。畳み掛けます」
ラミエルの電磁気の翼が展開される。
選ばれた攻撃は光だった。単純に、早く、大天使との戦いでは効果的で、堅実な成果を上げる攻撃だ。
「ラミエルよ? おぬしは『セレスティアル・スプリッター』の、その真の力を引き出しきれているわけではない……この攻撃は軽すぎるのじゃな……」
あれは……ガラス……いや、なにかは調べてみなくてはわからないが、半透明な鉱物のような素材で、プリズムのような形の物体を作り、ラミエルの打ち出した光を曲げて対応していた。
「こっちはどうかしら?」
今度もまた、サマエルの銃弾だ。
彼女の『エーテリィ・リアクター』の場の出力と、演算能力により、変則的ながらも、絶対に外れない凶悪な軌道を描く。
「お粗末じゃな……」
「……!?」
複数の方向から襲いくる弾丸を、彼女は右手一つで握りつぶす。
右手……最初の攻撃で、外れてしまったはずの右腕が、彼女の肩にはしっかりと付いている。
地面を探せば、落ちている右腕がすぐに見つかる。ラファエルの使う、時間の巻き戻しのような再生とは、それは違った。
「そなたらは、この目の前の物を象る物質がなにでできておるかは知っておるじゃろう?」
「…………」
語り出したウリエルに、サマエルは困惑し、言葉を出せない。
「原子じゃよ? 引っかけでないゆえ、そう困らんでもよい」
「なにがいいたいの?」
大天使――ウリエル。
彼女の背に、また、サマエルや、ラミエルと同じように翼が生える。
恒星のフレアのように、噴出するプラズマ流だ。それは、『天使の焔翼』と、そう呼ばれる翼だった。
彼女の持つ別の名は――『自律式超新星内燃兵器』。
原初の宇宙では、陽子一個の水素のような、単純な原子しか存在しなかったという。
その単純な原子は、より安定した状態を求めて、核融合を繰り返していくことになるが、その到達点―― 最も安定した原子の状態が鉄だった。
ここで、勘のいい人間ならば気がつくだろう。
この世の中に、自然に存在する原子には、鉄より大きい原子番号を持った原子がある。だというのに、原初の宇宙を想定したとき、鉄で原子は融合を止めてしまう。
これでは、辻褄が合わない。
果たして、この世の中に自然に存在した、銀や、金、果てにはウランなんかのような、鉄より重たい原子はどこからやって来たのだろうか?
答えは超新星爆発だ。
恒星というのは、核融合反応を行い光を発しているのだが、その寿命を終えたとき、全てが鉄となってしまう。
そうして、全てが鉄となった恒星も、質量によるが、まだ終わりではない。中心に近い星内部の高温により、飛び回る高エネルギーの光子が、生まれる。原子核を励起させる。きっかけを与えるのだ。
確率の壁を超えて、鉄の原子核に核融合の逆の現象が起こる。
星内部の原子核はバラバラになり、支える力を失えば、たちまちに重量により、星全体はその中心へと圧縮される。
重力、電磁力、弱力、色力、四つの力が全て関わるダイナミックな反応により、圧縮された星は爆発。そして、その際に無理やりに融合させられた鉄より重たい原子核は、宇宙へ散ることとなる。
「こうして、好きな時に好きな物質を創り出せる、わらわの力は……万能だとは思わぬか?」
ウリエル……彼女こそ、『超新星内燃兵器』。
彼女の中では超新星が燃えているのだ。
エネルギーを、彼女は自らの望む任意の原子に変換が可能だった。
ただそれは、エネルギーさえあればの机上論―― 『円環型リアクター』により、今の彼女に制約はない。
あらゆる原子が自由に生成可能というのならば、どんな物体も、彼女はたちまちに作り出せるというわけだ。
「落ちなさい!!」
地面を剥がし、音速を超えるであろう――衝撃波を伴った金属の礫で、サマエルはウリエルへと力学的な攻撃を続けている。
「いくら固いとはいえ、痛いものは痛いのじゃが……」
流線形の装甲を作って、ウリエルはサマエルの攻撃を受け流している。原子一つレベルまで、種類を選び、自由に生成し作り出したその装甲は、頑丈で、柔軟だろう。
どの攻撃も、決定打には繋がらない。
こうなってしまえば、動きの読み合いだ。
高性能なアンドロイドの知能により、基本的にサマエルは大天使に敵わない。
「なら、もっと加速を……!! 『グラビティ・リアクター』を……!!」
「な……!?」
サマエルの切り札――『エーテリィ・リアクター』と『グラビティ・リアクター』の同時使用。
その状態で、アニメでは、純粋な破壊力では最強の大天使――サリエルを打ち倒したほどだ。だが、その演算負荷の代償に、彼女は命を落とし、結局は相打ちとなった。
サマエルの『白い翼』のその下に、もう一対『黒い翼』が――、




