49.エネルギー問題
「……ガブリエル……ウリエリはわかるか? いや、わかるよな?」
「あぁ、ウリエルのね……。あそこは物質の製造拠点でもあるからね。ウリエルに会いに行くのだろう?」
「まぁ、そうなるか……。一つ気になることがあってな……」
「ん……?」
恒星ウリエリと言われて、思い出して、少し、疑問に思うことがあった。
「いや……『円環型リアクター』があるのにあんな非効率なことをどうしてするんだ?」
「……ん?」
「いや、『円環型リアクター』をたくさん作ればいいじゃないか? そっちの方が絶対いいだろう?」
単純な話だ。『円環型リアクター』に熱力学の法則は通用しない。
こんな世界の理を破るような存在があるのなら、あんな面倒なことはしなくていい。
「んん? んー? 認識の違いがあるのかな?」
「どういう意味だ?」
「『円環型リアクター』はこの世に十個しか存在しない……。もう二度と作れないだろう。ロストテクノロジー……いや、あれはもうオーバーテクノロジーと言った方が正しいかな」
「……えっ?」
「真に宇宙の理を揺るがすものだ。ちなみに、うち二つは、まぁ、いろいろあって失われたから……あの子が持ってるのも含めてあと八個かな、残りは大天使がそれぞれ一個管理しているよ?」
意味がわからない。
なぜ、たったそれほどしかないんだろうか? 技術は普通、進歩していくものだ。なんなら、大量生産体制が整っているくらいだと思っていた。
「おかしい……」
「いや、そんな顔をしたってないものはないんだよ……。こればっかりはね……ボクらでは無理だった……」
「そんなはずはないだろ……! お前の『スピリチュアル・キーパー』に、ラファエルの『フェイタル・レバーサー』……ラミエルの『セレスティアル・スプリッター』、ウリエルに……サリエルに……とにかく、全部だ……お前たち全員が知恵を合わせれば……できるはずだろう!?」
「ボクらには無理だった」
冗談を彼女が言っているようには思えなかった。
おかしい。絶対におかしい。俺の知識では、大天使全員がその持つ知恵を合わせれば、『円環型リアクター』を完成させることができると……そう記憶されている。
「まさか……お前たち……!」
大天使は、その持つ科学の力を……原理を秘匿している。
「論文自体は確かに破棄されているけど、それは表向きだし、まぁ、大天使はみんな多分記憶媒体に保存しているだろうから、それはキミの勘繰りすぎだよ? 取り決めをしたけど、誰も互いの記憶にふれないってことはそういうことだろうし」
「…………」
「本当に作りたくても作れないんだ。ボク自身も、『スピリチュアル・キーパー』で手一杯かな。他の理論を本当の意味で理解するには、それに全てを捧げても、一つに、あるいは百年ほどかかるかもしれない。実際にボクは『スピリチュアル・キーパー』のために、それに近いことをして……いや、この話はよそうかな……」
意味がわからなかった。アンドロイドは人間よりも優秀な頭脳を持っているはずだ。だからこそ、彼女たちならば、時間が経てば自然と『円環型リアクター』の製造法にたどり着くはずだった。
「サマエルの方が正しいのか……」
この世界は、現状に甘んじて、進歩を諦めてしまっていると、ようやく理解できた。
俺は、ずっと、永遠に人類が続いていくと信じていたが、その考えに疑念が挟まる。
そうであるならば、どんな手を使ってでも、未来を切り開かなくてはならない。サマエルのようにだ。なんとしてでも……。
「……そうか、キミはそういうふうに考えてしまうのか。少し困ったな……ぁ」
幻覚のガブリエルの背に、『虹色の翼』が生える。『スピリチュアル・キーパー』で、また俺になにかしようとしているとわかったが、止めようがない。
「ラル……にい……?」
「レネ?」
気がついたら、部屋の入り口にレネが立っていた。
ガブリエルと話していたんだ。どのタイミングから見られていたかによっては、ガブリエルが頭の中にいるという今の俺の状態を、悟られてしまうかもしれない。
レネに心配はかけられないというのに、俺は……。
レネがいるのに……レネを置いていくようなことはできない。
「ごめんね……ラル兄……。ずっとあれから避けて……。ずっと一緒だったのに。うん、ずっと一緒だった」
「あぁ、俺たちはずっと一緒だった」
俺が一番大切に思っているのはレネだ。レネには、幸せになってもらわなくちゃならない。そのためなら、俺は……。
「ラル兄は……やっぱりラル兄なんだ……!」
「そうだぞ……。俺は俺だ」
ガブリエルに見せられたもので、俺に不信感を抱いてしまったのかもしれない。それでも、俺の頬に触れて、レネは俺を確かめていく。
「ラル兄……ずっと、私のそばにいてね……?」
「あぁ、俺はお前のそばにいるよ……」
だから――、
「死んでも見守ってるとか、そういう言葉を心の中で付け足してはいないかい?」
ガブリエルの余計な一言だった。
たぶんレネがそばいるから、俺は言い返さなかった。
ガブリエルは、『虹翼』の展開をすでに止め、遠目に俺たちのことを観察するように見つめていた。
「…………」
「なるほど、こうなるのか……」




