41.未来へ繋ぐ心の力、あるいは――
「なぁ、外を歩かないか?」
「ん? 別にいいけど……珍しいね。夜に出歩こうなんて……」
「一緒に、星を見ないかってことだな」
もう、見ないふりはやめることにする。
その覚悟を決めた。一組の親子の最高の最後を見てしまったのだから、俺たちも、後に続かなければならないという想いが、強くなってしまう。
「ん? じゃあ、望遠鏡を用意しようか……? そういう店があったと思うから、拝借してこようか」
「いや、今すぐ行こう。そんなのはいらない」
彼女の手を引いて、走る。
この街に来てからは、手を繋ぐときは彼女が前を歩いていたが、今は違う。母親探しに走り回っていたから、ついさっきまでは疲れてへとへとだったが、今は自然と力が湧いてくる。
ついた場所は、建物のない小高い丘だ。
人を探して、走り回った時に、一度通った場所だった。
「はは、やっぱり、どういう風の吹き回しだい?」
草むらに、彼女は寝そべる。
そうして、仰向けに空を眺めている。
「少し、星を確かめたくなったんだ」
そんな彼女の隣の草むらへ、同じように空を見上げながら倒れ込む。
空には綺麗なたくさんの星が輝いていた。
「星座……恒星の配列は、生前の星と同じだよ? なんだったら、星から座標でも割り出してみるかい?」
「いや、きっとそれは、意味がないんだろ?」
ここは死後の世界だ。もし、一致する座標の場所があったとしても、そこではない。だから、やる必要はないだろう。
「まあね。ボクもちょっとやってみたけど、うん、特に意味のない結果だったよ。日によってずれるみたいだったし」
その秩序のなさは、なんとも死後の世界らしい。
「この広がる空の彼方の星々も、人類はもうこの手で掴める。光速度の先を行った……二千年かけた星間移動計画も今は……。何十億年……いや、何兆年経ったって、人類は続いていくって、俺は信じられる」
人類が居住可能と目された星は、千数百光年先だった。光速で千数百年かかる距離だ。光速度は情報の伝達限界速度。とてもじゃないが、往復なんて出来やしない。
だからこそ、トンネルを掘り進めるようにして、光速度の七割程度の速度で、空間が短縮された道を宇宙空間に広げていく。そんな計画があった。
これならば、光速度以上で情報を伝えられないという原理に背かない。一度繋げれば、あとは何度でも自由に素早く往復可能になる。
あとは、歪めた空間による影響だが、通り道自体は惑星のスケールから比べれば、細く、大したことはない。
すでに、この方法でいくつもの星が繋がれていた。
かつての地球の法則と天体の法則が別々だと思われていた時代から、何千年もかけて、ここまで来たのだ。
「いつか太陽が膨張してしまって、人類ごと星を飲み込んでいく。何十億年も後のことさ。差し迫った時に、後の世代がなんとかしてくれるって、普通なら見て見ぬふりをすると思うけれど、もう対策済みだからね。恐れ入るよ」
「そうだな」
「人間の暮らす世の中は、進み切った科学によって、もう完成してしまっている。みんなが幸せにとはいかないけれど、不幸にはならない世界だ」
なにか違和感のようなものを覚える。
彼女のその言葉で、なにかを思い付いてしまいそうだった。今までの記憶を探れば、その答えが見つけ出せそうに思えて――。
……いや、よそう。
大切なことはもっと別にあるから、それを今、伝えたい。
「なぁ、記憶をなくす前の……生きていたときの俺のこと、お前は知っていたんじゃないか?」
「…………」
星を見上げる彼女の横顔を見つめながら、俺は言う。
「ずっと、待っていてくれたんだろ? マリアみたいに……。だったら、俺は……お前に幸せになってほしい。俺に幸せにさせられるなら、お前のことを幸せにさせてほしい」
彼女の手を握る。
俺にどれくらいのことができるのかはわからないけど、俺にできる精一杯はやりたかった。
「はぁ、だからキミは……。良いかい? ボクを幸せにできるのはボク自身だよ。そんなふうに、なんでもできるなんて思い上がらない方がいい」
「……それは……そうだな」
俺は間違ってばかりだった。なにもかもが足りなかった。
だからこそ、簡単に勘違いを起こしてしまう。
そんな俺の方を彼女は向く。目が合うと、彼女は笑った。
「でもまぁ、そうだね――」
唇に、柔らかい、温かい感触が伝わってくる。
「――こうすれば、ボクは幸せになれるよ」
それは本当にわずかな間だったが、想いはもう通じ合っていると思えた。




