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4.メインヒロイン?

「確か……ここだったよな……」


 屋根を借り、鉄の雨を凌ぎ、確信がない不安に包まれた中で、一人、時間を待つ。


 そこにはやってくる。空から――舞い降りる天使のような少女がいる。

 絹のように輝く艶やかな銀髪に、大いなる海のように穏やかで青い瞳をもつ少女であった。


 地面に降り立つとともに、その白い翼の噴出をやめる。


 彼女の名は、サマエル。

 天使の名を与えられた彼女の目的は一つ――( )この世界の体制の改革。


「そこにいるのは、誰?」


 銃がこちらに向けられた。

 だが、知っている。別に恐れる必要はない。

 翼のない今の彼女の能力は、簡単に言ってポンコツだ。


「大丈夫だ! 敵じゃな……っ」


「ひゃっ!!」


 甲高い声と共に発砲音が響いた。

 首筋をかすめる。

 あと数センチずれていたら動脈を貫かれていたところだった。


「敵じゃない。安心しろ」


 まだ硝煙の上がる銃を、目を瞑りながら構えている彼女に辟易とする。


 おそるおそるといった調子で目を開けて、こちらを確認。銃を降ろして、数歩だけ後ろに下がってくれる。


「ごめんなさい。暴発したわ……」


 原因は単純。俗に言う指トリガーだ。

 銃を使うとき、弾丸を撃ち出す最後の最後のそのときまで、トリガーに指をかけてはいけないというルールがある。


 それは最終安全装置の役割で、たとえ弾が入っていなくとも、モデルガンだろうとも、銃の形をしているものを持つときは守らなければならないらしい。

 きっと、心意気の問題だろう。


 守らないと、ネットが炎上したりする。


 ちなみに彼女はこの癖が直らずに、一話に一回暴発していた。

 ある動画サイトではその度に、『今週のノルマ達成』とコメントが流れていたり。


 まあ、そんな蛇足はさておいて、俺は俺の目的のために、この少女を利用する。そう決めてここに来たのだ。


「なぁ、この街のリアクターを探してるんだろ?」


「なんでそれを!?」


 トリガーに指をかけたまま、彼女はまた銃を上げる。

 正直なところ、生きた心地がまるでしない。


 ちなみに言うと、彼女の射撃の実力は下の下だ。

 手前1メートルほどの動かない標的にも当たらないという、ふざけてるのではないかと思うほどの天性の才能と言うべきエイム力をその身に宿しているのだ。


 だからこそ、心配はいらない。

 けれどやはり、凶器は怖い。


「ねぇ……?」


 カチャリと、銃を見せつけるように手首をわずかに揺らす。

 大丈夫だ……当たらない、当たらない。


「だ、だいたい想像できる。見た限りだと、お前はあいつらと敵対してるみたいだからな……。だったら、あそこを狙うのが一番効率がいい」


 無論、理由はそれっぽい後付けだ。

 どもりはしたが、許容範囲内。


「そう……」


 納得したのか、彼女は銃を下ろしてくれる。

 やはり、考えることも単純でポンコツである。そういえば彼女は、主人公のでっち上げた適当な理由を疑うことはなかった。


「それでだ。協力したい。このクソッタレな世界をぶち壊してほしい!!」


 レネが死ぬのはアニメ通りにいけば二日後。その前にこの少女に付いて行きさえすれば、その後のことがどうなるかはわからないが、今は助かる。


 絶対に助ける。


「そう……! いいわ……! そう……そうよね! この世界はおかしい! 絶対におかしい! わかった。ついて来て」


「…………」


 あっさりだった。

 このポンコツ少女はあっさり俺を信用してしまった。今までどうしてこんな危険な活動ができていたか分からないくらいだった。


「……? どうしたの? ついて来ないの? 今からあの塔に突っ込んで、リアクターをぶんどるの。エネルギー源よ?」


「いや、もう一人……俺の仲間がいるんだ。状況を伝えたい。決行まで、少し待ってほしい」


 全ては俺の勝手だった。

 レネには何も伝えていない。不甲斐ないことであるのだが、この確証のない荒唐無稽な前世の話を、彼女に伝える踏ん切りがつかないままでいた。伝えて、奴らにバレてしまう可能性を考えてしまうと、それは無理だった。


 許されないことだろう。事後承諾で彼女を無理やり連れて行くしか選択肢はない。


「いえ、時間が足りない。面倒。その人はどこにいるの? 教えなさい? 連れて行くわ?」


 瞬間、極光が世界を覆う。

 彼女の最大の武器――『エーテリィ・リアクター』が稼働したのだ。白い光は翼を形取り、彼女に法外の力を与える。


「……なっ!?」


 そして、空を飛んだ。場の操作により、俺ごと自身をこの少女は空に飛ばす。


 独特な感覚だった。


 空を飛ぶと言われて、まず俺が思い出すもの――( )それは飛行機だ。

 人間が容器に入れられ、その容器が上方向へと加速していく……そうすると、中の人間には慣性力――( )見かけ上の力が下に働いていて、飛ぶ瞬間には、あたかも重力が増してしまったかのように感じられる。

 これが俺の思い浮かべる空を飛ぶ感覚だった。


 だが、今回のこれは違う。

 彼女の持つ兵器――『天使の白翼』、その装置の作り出す場により重力は相殺され、さらには上へと力が働く。上へと落ちて行く。

 ああ、アニメの話を思い出した。()()()は平衡感覚が掻き乱され、まともではいられなかったか。


 幸いなことに空気抵抗はない。彼女が纏う空気ごと、その『天使の白翼』で動かしているから。

 自由落下――( )上に落ちるからこそ落下と言うのも間違いかもしれないが――( )であるからして、慣性力の関係から体感は無重力状態。頭ではそう理解できても、なにがなんだかまるでわからなかった。


「さあ、どこかしら……!」


 声がする。鈴の音のような綺麗な声だった。

 混濁する意識の中、ふと、彼女の声優はだれだったかと疑問が湧く。思い出すことができない。


「……っ」


 ほとんど反射的だった。このわけのわからない状況の中、俺は指をさす。

 それは俺の大切な人の居場所だった。


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script?guid=on 一気読みするなら ハーメルンの縦書きPDF がおすすめです。ハーメルンでもR15ですが、小説家になろうより制限が少しゆる目なので、描写に若干の差異がありますが、ご容赦ください。
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