37.彼女は迷い子
看病をしてくれた彼女は甲斐甲斐しく、だからこそ本当に申し訳なかった。
あれから数日、彼女とともに過ごしてたが、俺のことを気遣ってくれて、最初の胡散臭いような印象が今はもう薄れてしまっている。
「さて、今日もボクらの未練を探しに出かけようか」
「なぁ、そろそろ住む場所を見つけないとと思うんだ。いつまでもこうやって世話になるわけにはいかないし」
「さぁ、今日はどこに行こうか? 大型のテーマパークでも行くかい?」
「…………」
この話題をふると、彼女は決まって無視をする。
ここ数日は寝食を共にしているわけだが、それでも相変わらず、なにを考えているのかわからない。
「ま、じゃあ、適当に街をふらつこうか……それでも十分楽しいし。なにかの拍子に見つかるかもしれないね。さ、いこう」
適当に話をまとめて、彼女は部屋から出て行く。
それに、渋々と俺はついていっている。同じようなやりとりをここ二、三日は繰り返しているような気がする。
「あ、おはようございます」
隣に住んでいるマリアちゃんだ。今日も変わらず端末を手に持って、ジッと見つめつつ、俺たちに挨拶をしている。
「おはようマリア、今日もいい日だね」
「いつも天気は変わらないけどね」
たしかに、俺がここに来た時から、天気はずっと変わっていない。
晴れだ。
科学技術が進んだ世の中でも、やはり雨の日はある。
もちろん、ある程度操作をすることはできるのだが、災害が起こりそうなときだけに天候を変化させるのみだ。
ずっとこんなふうに空が晴れていることなんてなかった。
程よい風に、程よい日差し。毎日、出かけるために都合が良すぎるくらいだ。
相変わらず、不自然な世界だろう。
「今日は大丈夫かい? 大丈夫なら、いっしょに街を回らないかい?」
「ううん。ダメかな。本当に忙しくて……。じゃあね……」
そう言って、端末の画面に目線を固定したまま、そそくさと行ってしまう。
日を追うごとに、余裕がなくなり、より彼女が時間に追われていってしまっているように見えた。
「誘うなんて、今日はどうしたんだ?」
「ん? あぁ、キミと二人も楽しいけれど、人数が多いと賑やかになると思ってね。それが、未練へのとっかかりになればいいなって」
「でも、あの子は……いつも忙しそうにしてるだろう?」
ここは死後の世界だというが、だからこそか俺は一度も時間に追われたことはなかった。
いつでも、なんでもできるような街だ。閉館や、閉店をしている時間はなく、どこだろうと丸一日、いつでも入れる。急ぐような理由はどこにも見つからない。
だからあの子の忙しさを、疑問に思う。
「あぁ、今も近くのお店から持ち運べるような食べ物を貰ってくるところだろうね。ずっと画面を見て、片手が塞がるから一度にそれほど多くは運べない。毎日は大変だろうに」
「なんで、あんなに……」
「ボクたちにボクたちの事情があるように、彼女には彼女の事情があるんだ」
「そうか……」
少し、はぐらかされたような気分になる。
まぁ、彼女はあの子の事情を知っているのかもしれないが、他人の俺に言いふらすのを、好ましいと思っていないのだろう。
口が軽いよりは、よほど好感が持てる。
「さぁ、じゃあ……ボクたちも。今日は行ったことのないお店でも探しに行こうかな」
「うん」
それからは、適当に街を二人でふらついて過ごした。
珍しいお店に行って食べたことのないものを食べたり、見かけたレジャー施設に入ってみて、二人で競ってみたり……そんなふうに遊び歩いた。
本当に、なんでもない日だった。
ゆったりと楽しい時間が流れていく。最近は、ずっと心が穏やかだった。
「あれ……、あれは……?」
「ん……?」
道の真ん中で、光がひとかたまりに集まっていくような、そんな現象が起こっている。
集まった光は、最終的には人の形に、より一際輝いた後には、そこにはひとりの人間がいた。
「ああ、ああやって、この世界にやってくるんだ。いきなりやってきて、困ってるだろうし、行ってくるよ」
「あ……あぁ」
そう言って彼女は、道の真ん中に駆け寄って行く。その人は、現れたばかりだからか、困惑したように辺りをしきりに見渡していた。




