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30.閉じ込め

「ふふ、入った入った……」


「な……っ」


 手を引っ張られ、中に入れられる。ドアの閉じた瞬間に、ガチャリという鍵の閉まる音がした。


「入ってしまえばこっちのものさ。ここの鍵は私にしか開けられないんだ……」


「どんな鍵だよ……!?」


 ドアの内側にはなんの変哲もないサムターンがついていた。解錠するため、つまみを回してみようとするが、びくともしない。

 どうやっても本当に開かなかった。


「このまま野宿されるの忍びないからね……少なくとも今日一晩は監禁させてもらうよ? いいね?」


「…………」


 このまま外に出られないからには、この部屋に泊まるしかない。

 このドアを開けるためには、彼女をどうにかして説得するしかないだろう。けれどそれをさせてくれそうにはない。


「ふう……」


 彼女部屋の中央に行くと、おもむろに服を脱ぎ始める。

 まるで予測のつかない行動に、俺は慌て、目を背けた。


「な……なにしてるんだ……!!」


「なにって……シャワーを浴びるんだ」


「いや、服を脱ぐなら脱衣所で……」


「残念ながら、そんな気の利いたものはこの部屋にはないんだ。ここはボクの部屋だからね……気をつかうのはキミの方だろう?」


 完全に服を脱いだ彼女は、パッと両腕を広げて、俺の方へ向き直った。そんな気配がした。

 キッチン、リビング、ダイニングが一体となったワンルームだった。バスルームへは曇りガラスのドア一枚で仕切られている。


「だからって……俺の前で堂々と脱ぎ始めるのはおかしいだろ! せめて一声かけるものじゃないか?」


「……シャイだね。一緒に入るかい?」


「気軽にそういうことを言うのは良くない」


 軽い彼女の言葉に辟易とする。

 俺のことをからかっているのはわかるが、もう少し自分の体を大切に扱うべきに違いない。


「はぁ……。ボクに男の見る目がない、というのなら、そういうことなのだろうね……」


 今ひとつ、会話が噛み合っていないような気がした。その含みのある声に戸惑う。

 なにを言うべきかと、視線をさまよわせていたら、ふと目に入ったものがあった。


「…………」


 通話機能のある携帯端末だ。てのひらサイズで、とても薄い。

 果たしてここには電波が届いているのか。あるいは別の用途なのか。疑問が頭によぎる。


「あぁ、それかい? それは現世との通信用さ……」


「通話ができるのか……!?」


「通話……といえば通話だね。枕元に立つというやつさ……。上手く使えば呪い殺すこともできると思うけど……」


「それって……こんなのでやることなのか……っ」


 とたんに目の前の端末が恐ろしいもののように思えてくる。

 幽霊だの呪いだの、オカルトチックな話だが、実際に起こっていたのならば、今の科学がそこに追いついていないだけの話だ。


 科学の世界は起こったことが全て。理論と現実がそぐわないならば、それは理論が間違っている。


「この形なら、使いやすくていいじゃないか……。ボクは気に入ってるけど……」


「そういうものか……」


 この形の納得いく説明を、彼女に求めるのは間違っているかもしれない。

 手元にある電子機器の仕組みを理解した上で使っている人間は、ほとんどいないのだから。


「そうそう……生前の縁のある人、物、あるいは場所の近くしか繋がらないから、そんなに便利なものじゃないんだ。あんまり期待しない方がいい」


「そうなのか……?」


 とはいえ、俺には記憶がない。

 記憶がなくとも生前の縁のあるなにかに繋がるのか。あるいは記憶がないなら、繋がらないのか。

 疑問が浮かぶ。


「あぁ、それを繋げるには生前の記憶を思い浮かべる必要があるから、キミには無用の長物さ」


 俺が尋ねる前に先んじて、そう説明される。まるで思考が読まれたような、そんな奇妙な感覚だった。


「そうか……。じゃあ……――あっ」


「あ……っ、にゃっ……、や……っ。み、見ないでくれ!」


 彼女が裸のことを忘れていた。振り返ってしまった。

 自分の裸を俺に見せびらかすように立ち振る舞っていた彼女だが、一転して俺に背を向け、部屋の隅に縮こまってしまっている。


「す、すまない!! わざとじゃないんだ……!」


「う……っ、襲われてしまう……。ボクの裸をみて、そういう気分になってしまっただろう? あぁ、シャワーの後がよかったけど……ボク……うぅ……生娘なんだ……」


「お、落ち着け……。なにもしないぞ……!」


「それはそれで失礼じゃないかい?」


 ケロッとした調子で、俺に背を向けたまま立ち上がった。そのままに、髪を結ぶ。


「だいたい、見られるのが嫌だったら……」


「ふふ、柄じゃないことはするべきじゃないね」


 背中を向けたまま、首を捻り、横顔をこちらに見せる。恥ずかしさからか、まだ朱が刺している様子だった。


 そのまま、こちらに見せないように隠しながら、とたとたと歩いてシャワールームまで向かっていく。


「なんだったんだよ……」


 彼女の行動の理由がわからなかった。

 ここが本当に死後の街で、何もかもに満たされている場所であるのなら、こうして俺に恩を売る必要もないはずだった。


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script?guid=on 一気読みするなら ハーメルンの縦書きPDF がおすすめです。ハーメルンでもR15ですが、小説家になろうより制限が少しゆる目なので、描写に若干の差異がありますが、ご容赦ください。
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