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25.消滅

「ふは……っ! とった……!」


「あ……っ」


 ラミエルが俺のことを取り落とす。

 俺たちのことを突き放す風の流れがあった。

 ラミエルに近付けば近付くほど、『セレスティアル・スプリッター』の支配が強くなり、『フェイタル・レバーサー』での干渉はできなくなる。そのはずだった。


「ラミエル……! おごったな……? 私はお前の思考パターンの解析を進めていたんだ。『セレスティアル・スプリッター』の効果が分からずとも、お前の思考が特定できれば干渉は効く……。残念だったな……!!」


 落ちて行く俺を、ラファエルは抱いて拾い上げようとする。ラファエルの狙いは最初から俺だった。

 ラミエルをどうにかするよりも早く、俺のことを捕らえることを優先したのだろう。


「……させませんっ……!!」


 スパークが奔る。

 電磁気の力により、俺とラファエルとの距離が空いた。空中で、ラファエルは俺のことを掴み損ねた。


「……なっ!?」


「……っ!? ら、ラミエル……!! ふざけるな! 邪魔するな……ま、間に合わない!!」


 ラファエルの焦る声だ。このまま落ちれば、俺がどうなるかは明白だった。まさかラミエルの妨害を受けるとは思わなかったのだろう。落ちて行く。

 上昇気流が俺の落下速度を軽減してくれているが、おそらくそれでは足りないだろう。このまま落下すれば、間違いなく俺は死ぬ。


 ラファエルのフォローは間に合わない。俺から一度引き離されてラミエルは、もう届かない位置にいる。


 もちろん、ラミエルが何の対策もなく、こんなふうに俺を落とすわけがなかった。



 ――加速度が反転する。減速が始まる。



 この感覚には、もうそれなりに慣れてしまった。

 地面にたどり着くまでには、大半の速さは失われる。茂みに落ち、わずかに残った衝撃に転がり、地に伏す。


 俺に追ってか、もう一つ、高速で空から降る音が聞こえる。


「……うぐ……」


 俺はうめきながら立ち上がる。それに反応してだろう。

 ――同時に、銃声が響く。


「ごめんなさい。暴発したわ……急に脅かさないで……」


 俺の方に銃を向ける少女がいた。

 襲撃に備えていたはずのラミエルが抜け出し、あんなにも派手に戦っていたんだ。この少女がここにいないわけがない。


「ふふふ……! して、やられた……!? 『エーテリィ・リアクター』……時空を歪め、ワタシの観測から逃れていたのか……!! だが……!」


 俺を追って、降りてきたのはラファエルだった。『翅翼』を展開し、観測のやり直している……加えて干渉を同時におこなっているとわかる。


「…………」


 少女の『白翼』が展開され、ラファエルの方へと腕を伸ばし、手を広げた。その掌の先には、空間の歪んだような黒い塊が見える。


「……!? 高エネルギー……!? なるほど、最初からここに誘き出すつもりだったか……! だが、観測も間に合った。ふふ……()()()()()()()()()()()()()()敗――(・  )なっ!? 電磁気力!?」


 スパークがラファエルにまとわりつく。

 ラミエルからの妨害だった。それはラファエルの干渉をズラし、わずか数秒を堅実に稼いでくる。


「核五発分よ? くらいなさい……!!」


「はは……。これはまずい……参った……」


 光はない。空間が操作され、俺の方へとエネルギーが漏れ出ないよう調整されていたからだ。


 全てが溶ける。白い光を放つ少女から、ラファエルに向けてパラボラ状に外形がとられ、その内部が消滅していく。

 瞬く間のことだった。


「この攻撃は……」


「ラミエルと戦ったときの核の爆発よ。後処理の時に、爆発を空間を曲げて、掌サイズに圧縮して、とっておいたの。『グラビティ・リアクター』の効果でもともと収縮していたから、ちょうどよかった……。ちょっとした切り札だったわ」


「や、やったのか……?」


 攻撃の爪痕として、地面は溶岩のように融解してしまっているが、それ以外は何もない。植物に、あらゆる生き物、彼女の攻撃に巻き込まれたものたちは、全て消失していた。

 ラファエルは跡形もない。


「分子レベルに分解された。いくらなんでもここから再生することはないわ……」


 あぁ、常識的にはそうだ。

 膨大な熱により、分子レベルで粉々にされてしまったのだから、いくらなんでも、ここから再生するはずがない。そのはずだ。


 間違いなく、ラファエルはこの世から消えてなくなった。


「あぁ……そうか……」


 ラファエルの消失を実感し、一抹の悲しさが胸を刺した。

 敵ではあったが、乱暴をされてしまったが、死んだとなれば、やはり切ない、やり切れない思いが込み上げてくる。


「終わりましたか……」


 空からは、ラミエルが降りてくる。

 ラミエルに、サマエル。ラミエルはその頃の記憶はないとはいえ大天使、サマエルもそれに等しい力があるからこそ、同等の相手との二対一の状況に、ラファエルは抗うことができなかった。


「ラミエル……俺のことを落としたあれは……」


「申し訳ありません……。思考をパターン化して、ラファエルに読み解かせました。……本当はこんな真似したくはなかったのですけど……」


「いや……大丈夫だ……俺にできることなんて、限られてるしな……」


 俺は囮として使われてしまったということだ。落ちていた時も、ラミエルの俺への執着具合を知っているから、なんらかの手段はあるのだろうと想像がついた。

 もしかしたら、最初から、こうやってラファエルを倒すという計画だったのかもしれない。


「敵も倒したわけだし……帰りましょう?」


「いや、車がある。エンジンが動かないと思うが、物資が入ってる。単磁極の込められた箱だから、ラミエル、運べるだろう?」


「わかりました。では微力ながらも力になりましょう」


「すまない……」


 本来なら、ラミエルの力は借りたくなかった。完全に心を許せる相手ではないが、こんなふうに頼り切って、負い目を感じてしまう。


 ただ、それは俺の心の問題だ。物資には、地下で暮らしている人々の生活がかかっているからこそ、頼れるならばなんにだって頼らなければならない。


「物資があるのね! いいわ! 運ぶついでに必要な分はもらっていきましょうか……!」


 白い少女は興奮しながらそんなことを言う。

 ポンコツだからだと思っていたが、この性格なら彼女がこの物資の調達に参加を拒まれてもしかたないだろう。


「あ……そうです……! 今は義妹さんもいません……。その……」


 頬を赤らめさせたラミエルに手を握られる。もじもじとしているが、何を恥ずかしがっているのかはわからなかった。


「はぁ……とりあえず車まで行きましょう? 私は外で見張ってるから……」


「覗かないでくださいね?」


「……え……ええ。も、もちろんわかってるわ!」


「…………」


 白い少女は、俺たちの仲を深めようと行動している。だからこそか、ラミエルと彼女の関係は悪いものではなかった。

 こうして共に戦って、絆のようなものが芽生えてしまっているかもしれない。それが俺には恐ろしかった。


「さぁ、行きましょうか……?」


「あぁ……」


 この世界をより良く生きていくには、きっと、俺は耐えなくてはならないのだろう。


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script?guid=on 一気読みするなら ハーメルンの縦書きPDF がおすすめです。ハーメルンでもR15ですが、小説家になろうより制限が少しゆる目なので、描写に若干の差異がありますが、ご容赦ください。
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