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17.心配事


「俺はザックだ。お前がボスが言っていた同行者か? よろしくな。仲良くやろうぜ?」


「あぁ」


 握手を求められ、それに俺も応じて手を握る。

 ガタイの良い、気さくな男だった。おそらくこの男がリーダーだろう。


「私はジェイコブです……。あなたは神を信じますか?」


 メガネをして、きっちりと服装を整えた痩身の真面目そうな男だ。


「いや……そういうのは……」


「ジェイク……! 新入りが困ってるじゃない! 初対面でそれはない……」


「いやいや、ナオミ……初対面じゃなくても俺は毎日困ってるぞ?」


 ナオミと呼ばれたのが、二十歳かそれに届いてないかの女性だった。がっしりとした体格で、荒事に慣れているだろう風体だった。


「な……っ、あなた達は神の素晴らしさがわからないのですか……っ!? 宗教なくして道徳はないというのに……」


 宗教――これはなぜ地下の人間が機械に抗っているかにも関わる話だった。


 機械が反乱をし、人間を治めた際に、まずおこなったことは宗教の統制だ。

 既存の宗教の原型をあるていど残したまま、機械により作られた全く新しい宗教が広められた。それに伴い、地上では現行の宗教は全て廃止されることとなる。


 ジェイコブという青年は、宗教の弾圧に反対し、地下の組織と合流した者たちの子孫ということなのだろう。


「まぁ、さっさと終わらせて帰ろう。運転はジェイク、警戒はナオミ。俺は、そうだな……新入り……えー、名前は……?」


「ラルでいい」


「わかった。ラルだな。俺はお前の面倒を見る……さっさと乗るんだ」


 輸送車、とでも言えばいいのか。

 車だ。それなりの大きさではあるが、地下で暮らす人々の生活のための物資を運び切れるかと疑問に思える容積だった。


「あぁ、わかった」


 言われるがままに車に乗り込む。

 俺たちの目的は、機械の運ぶ物資を奪い取ることだ。これ自体は、理由もあるが、簡単な仕事に違いない。


 車の中では、俺はリーダーの男と向き合うこととなる。車内の空間はそれなりに広く感じられた。立ち上がり、ある程度は自由に動けるほどだった。

 揺れを感じる。目的地に向け、車は動き出す。


「新入りはわからないだろうから説明するが……奴らの車に接近し、並走、この装置を起動させる。こいつの電波で機械が狂い、停止をしたその間に、この車に荷物を積み替えるんだ」


「……あぁ」


 頷く。

 アニメと手順は同じだった。知識に間違いがないことを確認する。


「いいか? 一時間だ。それ以上はもたないと思った方がいい。ドローンが来るからな? 時計は俺が測る。合図があったら、作業が途中でも中断しろ……わかったな」


「問題ない」


 前提として、この襲撃は出来レースだ。必ず成功する。

 俺たちが使うのは通信妨害装置。ただ、自律式の機械が生み出されているこの時代で、無線通信のみに頼り動いている機械は珍しい。


 これから俺たちが襲う機械の輸送車は、通信でのみ動く自動運転の無人機だった。通信が途絶されれば、自律モードへの移行ではなく、安全のための停止をする過去の遺物だ。


 襲撃が予測されるはずなのに、なぜその対策を取らないのか。


 機械は地下で暮らす人々への人道的支援のために、この無人輸送車を定期的に同じ経路で走行させていた。

 あるいは、生かさず、殺さず――( )反対勢力が無茶な攻勢に出て、無用な被害を広めないための飴として、中枢のコンピューターはこれを続けた方がいいと判断しているのかもしれない。


 素直に受け渡されるのではなく、こうやってわざわざ襲撃という(てい)をとって奪っているのは、主に下っ端たちの士気高揚のため。

 敵の慈悲を受けているとなれば、味方には体裁が悪く映りかねない。それを防ぐ必要があった。当然、下っ端たちは機械の思惑を知らずに働いている。


 他にも潜伏している居場所がバレないようになど、理由はあるが、これはほとんど意味がないことだろう。

 こちらを探して殲滅するために十分な物資も技術も、あちらにはあるのだから。


「どうした? そんな怖い顔して……確かに安全ってわけじゃないが……俺たちも、他の奴らも何度も生きて帰ってきた。肩の力は抜いていいんだぞ……?」


「いや……あぁ、すまない」


 この物資の調達自体は問題ではない。俺が心配しているのはそこではない。

 ラファエル。調達の後に地下に襲来する大天使だ。


 アニメのときの状況とは違って、ラミエルがいる。一応サマエルは怪我をしてまだ治り切っていないようだが、『天使の白翼』を使うには支障はなかった。この物資調達での集合の前に、襲撃の可能性も伝えてはいたからこそ、大天使の一体くらいは……。


 だが、もしもだ。俺たちが帰っても戦闘が長引いている場合は、援護が必要になるかもしれない。

 対大天使のセオリーは、認識外から、光速度の攻撃を……そうでなければ、理不尽な予測能力で避けられてしまう。


 機会はもちろん一度きりだ。()()()は綱渡りの上にこれを成功させていた。だから、俺が……俺がやらなければならない。

 今からでも、息が苦しい。


「おい、本当に大丈夫か……?」


「大丈夫だ……気にしないでくれ」


「いや……見るからに大丈夫じゃないぞ……? 水、飲むか?」


「……すまない……受け取れない」


 飲める水はやはり貴重だ。特に地下は地上とは状況が違う。まともな浄水装置もない。簡単に受け取っていいものではなかった。


「いや、いや……。まぁ……そうだな……少し話をしようか……。気が紛れるかもしれない」


 そうして男は話を始めた。

 俺に気を遣ってくれているという事実が申し訳ない。


 身の上話や、あの上司が気に入らないだの、面白おかしく男の語る話に相槌をうちながら、()()()の対ラファエル戦での動きを何度も頭の中で繰り返した。

 大丈夫だ。きっと大丈夫だ。


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script?guid=on 一気読みするなら ハーメルンの縦書きPDF がおすすめです。ハーメルンでもR15ですが、小説家になろうより制限が少しゆる目なので、描写に若干の差異がありますが、ご容赦ください。
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