表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/105

15.地下での暮らし

「見ない顔だな……」


「私の仲間よ?」


 白い少女は俺のことをそう紹介する。

 相手は右の頬から首筋まで、火傷のような痕が特徴的な、四十代ほどの胡散臭い男だった。


 俺たちのように機械に従っている人間でも、知識としてこの男の所属する組織を知っている。


「……シャドーワーカー」


「その代表ね」


 地下世界……機械たちに反旗を翻す者たちの最後の砦、そこを取りまとめる組織を牛耳るのがこの男だった。


「おいおい……聞き捨てならないな……。シャドーだなんて……それは上層の言い分だろう……? 確かにこうしてコソコソと影に隠れることになっているが、俺たちはこれっぽっちも地上に出るのは諦めていないんだ。それにもともと地上は俺たちのものだった」


 口ではそう語るが、地上の奪還をすでに諦めているというのは、俺のアニメの知識だった。

 確か……あぁ、この男は地上の生活を知らない。生まれも育ちも安心とは程遠い地下世界。


 この地下世界自体は、機械が人間に反逆した際に、最後に残された軍や政治家が雌伏を迫られ閉じこもったことが始まりだった。百年以上も前のことだ。


 機械に馴染めなかった者たち、あるいは地上での犯罪者などを取り込んで、今まで存続してきたが、厳しい状況にあるのは目に見えて明らかだろう。

 軍時代の物資に加え、地上からの調達で全てを賄っているが、医療は十分とは言えない。


 この代表である男でおそらく四十ほど。その年で組織のトップになれるほどに、地下世界では人の寿命が短かった。


「そう……それで、食料が欲しいわ……それに医療道具も足りない」


 ラミエルの戦いで、白い少女は主に腕がやられてしまっている。その治療のために使用した包帯などの消耗品。あとは俺たちが増えたことで単純に足りなくなった食料を要求していた。


 地下世界での労働力や物資の分配、それがこの男の組織の仕事でもあった。


「おいおい嬢ちゃん。俺たちから核をくすねたことはわかってるんだぜ……? 虎の子だ……。ようやく面会できるからって来てみたが……いくら嬢ちゃんでも――( )


「ラミエルを鹵獲したわ……」


「……っ!? ラミエル……!? あの大天使か……!」


 男の顔が驚きに染まる。


 地上への侵攻で、障壁になるのが大天使だ。思い返せば、この時点で、今までの歴史の中では、その大天使たちを倒したことも、退けたこともなかった。

 この地下世界に激震の走る出来事になるのか。


「えぇ、あのアンドロイドを手に入れたからには、核の六発なんてお釣りがくるでしょう?」


「ラミエルといえば……電磁気か……。となると……お前には扱えない……。部品はこっちに流してくれるんだろうな……?」


「……いいえ……。十全に扱えているわ。だから、あなたたちは私の言う通りにすればいい」


「はぁ……なんだ? それは? 俺たちの武器や資源を使っておいて……それはないんじゃないか……嬢ちゃん。嬢ちゃんは義理ってものを知らないのか?」


 睨み合いだ。

 二人は互いに腹の探るような関係だった。剣呑な雰囲気が漂う。


「…………」


「いやいや、降参だ。嬢ちゃんに本気を出されたらこっちはひとたまりもない……」


 先に折れたのは男の方だった。やれやれと肩をすくめて、矛を納める。

 武力という意味では、『天使の白翼』に敵う力はこの地下世界には存在しない。


「食料に医療道具よ……?」


 男が妥協するのを見るや否や、再び少女は自分の要求を突きつける。


「やっぱり嬢ちゃんの図々しさは一級品だな……。いや、いいんだぜ……大天使を一人でも打ち倒してくれたなら……俺たちにとってもそれは利益だ。ただ、それが嘘で……俺たちのところから、武器だけを奪ったって言うなら……俺たちは嬢ちゃんのことを見限らざるを得ない――( )


「…………」


「――共倒れでもな」


 悲壮感を漂わせる笑みを浮かべて、男はそうこぼした。


 生きていくだけならば、機械に降伏をすればいい。地下世界(ここ)は、もう一度、何者にも支配されない自由を手に入れるという希望を捨てきれない者たちの集う場所だ。


 このまま緩やかに滅ぶか、一気呵成の攻勢に出て華々しく散るか、男は選択を迫られていた。

 そこに現れたのがサマエル――『天使の白翼』を何者も及ばない精度で扱える少女であった。


 だからこそ、唯一の希望が本物かどうか男は確かめざるをえないというところだろう。


「わたくしに何か用ですか?」


「……っ!?」


 ラミエルだった。

 いつの間にか、ラミエルが俺の隣にいる。


「だれだ……いったい?」


 男はそのラミエルを目で捉えると、後退りをし、太もも――( )銃の入ったホルスターに手を伸ばしかける。


「わたくしの名はラミエル……とはいえ、あなたはわたくしの名前を知っているようでしたが……。すぐに暴力に訴えるのは、感心しませんよ?」


「た、(たばか)ったな……っ!?」


 男はラミエルに手を取られ、銃を掴むことに失敗していた。

 抵抗が許されず、取れる手段もないのだろう。掴まれていない方の手を上げることで、降伏と無抵抗を主張していた。




 あらすじ追加してみました。少しこのまま様子見します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on 一気読みするなら ハーメルンの縦書きPDF がおすすめです。ハーメルンでもR15ですが、小説家になろうより制限が少しゆる目なので、描写に若干の差異がありますが、ご容赦ください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ