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100.選んだ未来

100!



「いやぁ、それにしても上手くなったよ。最初は痛いだけの下手くそだったのに……」


 上半身だけ彼女は起こして、彼に寄りかかる。


「すまない。あの時は、俺も初めてだったんだ。余裕がなかった」


「今じゃもう全然違う。すごくよかった」


 甘えるように彼女は言った。

 そんな彼女に彼は微笑みかけた後、思い出したようにいった。


「そういえば、そう。まだ俺がお前の部屋に残してきたものって、なんだったんだ?」


「そんなもの、ワタシに決まってるだろ? ワタシはオマエのものなんだから……」


 顔を赤くして、いじらしく彼女は言う。

 浅ましい女だと思った。


「それは……」


「ワタシは愛する相手と絆を深めたこの瞬間が、一番幸せだと思うんだ。それはオマエも同じじゃないのか?」


 下から覗き込むようにして、上目遣いに彼女は彼の表情を窺う。

 そんな彼女を見て彼は、どこか苦悩するようで、奥歯を深く噛み締めている。


「そう……かもしれない。でも、できれば、お前には俺にもう関わってほしくないんだ。この間だって、お前、誘拐……されただろう?」


「あのときは、別にワタシは丁重にもてなされただけだった。それにワタシはどうしようもなくオマエのものなんだ……。いなくなったあの時は、オマエの帰りを待つことしかできなかったし、今だってこの一ヶ月、今日この日を胸踊らせて待っていたんだ」


「でも、辛いんだよ。いつお前を失うかって……。失われてしまったら、二度と元には戻らない……戻らないんだ……。お前なら、よくわかってるだろ……!!」


 彼が感情を露わにする姿を、私は初めてみる。いつも冷静で、理知的の彼の印象からは、まるで想像もできなかった姿だった。


「いい加減、ワタシを見ろ!!」


「…………」


 彼女は、怒りで瞳を燃やしていた。

 目を背けている彼を、彼女は見つめ続けているようだった。


「ずっとだ! お前はずっと遠くをみていた。ワタシは……オマエと同じ景色を見ていると信じていた。信じたかった……ッ! だけど、やっぱり、オマエはそうじゃなかったんだ」


 最後には、彼女の声は震えていた。


「どういう意味だ。俺は、お前と一緒に……ずっと……」


「いいか、よく聞け! ワタシはな……オマエのことなんか、最初っから、全然好きじゃなかったんだからな!!」


 拒絶の言葉だった。

 それを聞いた彼の顔は、とても情けなく、動揺をしていたのだった。


「そうか……あぁ……そうか。俺はお前のことを……そうだな。俺もたぶん、そうだ。お前のこと、好きじゃなかったんだ……」


 そう言って、彼は彼女に背を向ける。

 彼女の啜り泣く声だけが部屋に響いていた。気がつけば、彼の姿はそこからいなくなってしまっている。


 シナリオが終わった。

 画面はまた、シナリオ一覧の選択画面へと切り替わっている。


「ふふ……」


 シナリオの日付を確認する。十二月二十五日と書いてあった。

 本来なら、家族と過ごすべき日にあの女は呼びつけたということなのだろうか。最後の別れに少し同情があるが、苛立ちの方が強く感じられる。


 ただ、彼女がこの塔に呼ばれず、私がここにいる理由ならわかった。


 ――翼を、『氷翼』を広げる。


 手を伸ばせば、私は世界の理を掴める。

 あぁ、彼から貰った力だが、私は強い。たぶん、今この世界のだれよりも強い力だ。


 彼の才能は世界に狙われている。だからこそ、彼と関わる人間は、身の回りに気をつけなくてはならないが、私は強いからこそ、その必要がなかった。

 彼の隣にいるべきなのは、私だということがわかるだろう。


 あぁ、そう考えれば()()()()()()


 彼と彼女の生物的な愛の営みは、私にとっては未知で、本当に苦しかった。けれども、彼女が私にすげかえられると考えれば、その苦しみは、いくぶんかマシになる。


 お腹の下に私は手を当てる。そこには彼と愛し合うための女性としての部品がなかった。そうであるなら、やることは一つだった。

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script?guid=on 一気読みするなら ハーメルンの縦書きPDF がおすすめです。ハーメルンでもR15ですが、小説家になろうより制限が少しゆる目なので、描写に若干の差異がありますが、ご容赦ください。
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