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第十三話 黄金伝説6

 何回繰り返されただろう。持ち上げられる。落とされる。竹を伸ばして踏ん張ってしのぐ。空中に持ち上げられ地面にたたきつけられるのを地面スレスレで踏ん張った時だった。


 何かが、いくつも、俺の横を通り過ぎた。


「私を信じて竹から手を放してっ!」


 サトミの声に反射的に手を放した。身体の自由が利く。俺は転が立ちあがった。手足の蔦は途中で知切れて揺らていた。こちらに駆けてくるサトミが見える。瓢箪銃を前夫斜め上方に構え何やら液体であろうモノを連発で発射しながらこちらに近づてきている。液体は俺の頭上を超えて奴らの上に降り注いでいく。

 何やら奴らの喚き声も聞こえ始めた。だが蔦もサトミを目がけて猛スピードで迫っている。


「私を目ざして竹を伸ばしてっ!」


 俺はとにかく言われたとおりにした。もちろん万が一にもサトミに刺さってしまわないようにできるけ先端を丸めた。そして駆けてきたサトミはそれを掴んだ。俺は意図を理解した。必死で締めた。駆けるより早い。蔦はそのまままっすぐ直進を続けている。方向転換のタイミングあっていない。


 縮めた竹に掴まったサトミが目の前まで近づいた。目があった。肯きあった。俺は竹を前方斜め45度に向けて伸ばした。腕が千切れるかと思った。かまわなかった。サトミはデカ物の頭あたりで飛び降りた。刀が煌く。噴水のように赤いものが噴出した。三つある。


 だが、デカブツが残っている。デカブツは棍棒を振り上げ俺目がけて突進してきていた。よく見ると眼をつぶっている。成程、サトミが上方に撃った液体には目つぶしの効果もあったのか。まあ、なんにせよ、サトミを狙わないのは好都合だ。見てみるとサトミは足を痛めたのか片足を引きずってこちらに向かっている。


 俺は確実にデカブツを仕留めるために竹やりを構えて挑発した。このままの勢いで突進させてきたほうが竹やりの威力も高まるだろう。それに奴らも鼻が利くかもしれない。匂いでサトミを追われたら厄介だ。

 それにさっきの意趣返しもしたかった。


「ドカッと来いやぁっ!」


 俺は叫んだ。デカブツはやってきた。緊張が走る。タイミングを図る。今だ。竹を伸ばす。刺さった。やった。血も出てる。俺は竹から手を放す。俺の魔力供給のなくなった竹は元の形に戻ろうと縮んだ。そしてデカブツのどてっ腹に刺さった竹から血はとめどもなく溢れ始める。奴は抜こうとするがすでに血がぬるりとすべって上手くいかないようだった。


 頼むぜ。抜けるなよ? 抜けるなよ?


 祈る思いで奴を見ながらあとずさるように落ちている他の竹を拾いに行った。デカブツは竹の後端を手で押さえるとひざまつき地面に手をついた。やった。勝った。あとはもっと竹を撃ちこんでとどめを刺してやる。安心しろサトミ。


 そう思って彼女の目を見やった。顔つきは精悍なまま。唇に人差し指を当て少しづつ後退りしている。いやな予感がした。


 俺もデカブツと距離を取ろうと後ずさる。すると気が付いた。俺の視線がどんどん上がっていく。足元を見る。俺の居場所だけどんどんどんと土が盛り上がっていく。アッという間に落ちたら死ぬ高さまで来た。そして足元の土は消えた。当然俺は落下を始めた。もう手元に竹はない。下が見える。俺が落ちるであろう場所だけ真っ暗な闇をたたえた穴が開いている。


 何が起きた? 何を間違えた? 俺は混乱するまま呆然と近づく地面を見ている。


 サトミがデカブツに刀を突き付けている。何かを怒鳴り続けている。悟った。恐らくこれがあのデカブツの魔法、土属性の魔法だ。デカブツがサトミの言うことを聞く可能性は低いだろう。サトミでも他に手をうつ方法がないということだ。自分の危険を顧みず俺を守ろうとしてくれていることを感じた。


「俺なんて捨てて黄金の島を目指してくれよ……」


 俺はそう祈り瞼を閉じた……


「おじさま。おじさま。目を開けろぉっ!」


 サトミの声だ。意識はまだあるらしい。身体は痛くは……だがやけに重たい。それになにやら獣臭さが鼻を突く。


「kじおghふぃkkl\」


 何やら現地の人間もそばにいるらしい。まあいい、とにかく助かったんだ俺は。心配かけまいように瞼を開いた。目の前にサトミの顔があった。泣きはらしている。その顔に笑顔が戻った。身体を起こしてみる。


「うっ……」


 サトミに思いっきり抱きつかれた。結構な衝撃と程よい温もりと弾力とあま~い香りが俺を包む。あんな命の危機があったのに俺のたけのこの山では宴が始まりだした。周りを見ると俺のねぐらまで連れてきてくれていたらしい。


「よかったー。本当に一時は……」


「ありがとう。サトミ。重かっただろ? ここまで運ぶの」


「いや。彼女が手伝ってくれたから。さっきはできなかったからな。改めて紹介しよう。彼はおじさま。私の僕だ」


 驚いたことに姿を消した猫族の奴が傍らで立っていた。マントと頭巾を被っていたがこいつで間違いがない。サトミが彼女、というからには女なのだろう。彼女もゴブリンの被害者なのだ。主に戦ったのは俺たちだが助けてくれたのだ。感謝こそすれ恨むいわれはない。素直に言った。


「ありがとう。助かったよ。あ、日本語わかんないか。dきhじはなわんkんm」


「大丈夫だよ。あたし日本語しゃべれるから。それに元々あたしがやつら連れてきちゃったんだし」


 そして彼女は言った。


「薄汚れた」


 見てみると俺の体は拭いてはもらったんだろうが返り血でも浴びたのか服は真っ赤に染まっているし頭をかいてみるとかたまった泥がぽろぽろとこぼれてくる。薄汚れているどころじゃない。


「え? ああごめん。確かにこんな俺は運んだら……」


 彼女は首を横に振った。サトミが俺の手に手を重ねた。曖昧に微笑んでいる。


「成程。少し考えてもいいか?」


 彼女は肯いた。


 俺が本当に日本から来たかのテストなのだろう。サトミもやったことだ。まあ日本から来たからと言って役に立てるわけでもないことは証明済みだが、この異世界における彼女たちのルーツだ。そこから来た人間に問うことで自分や先祖がどこから来たのかということが判明させたい気持ちはわかる。だから俺は真剣に考えた。だからこそ答えを思いついたときに言うのを戸惑った。外したら申し訳ない。だが俺にはこれしか思いつかなかった。


「シンデレラ」


 彼女から安堵のため気が漏れた。そして、次の質問。


「ワカメ」


 俺の頭に海の生物の名前を持つファミリーが浮かんだ。大抵の日本人ならそうだろう。だが俺はギャンブルに出た。でなくちゃいけないと思った。


「好き好き」


 またも彼女から安堵のため息。それら息つぐ間もなく。


「チー」


「ポ…… あいやちがうちょっと待って」


 チーと言われたら、大抵の日本人は麻雀で一部の日本人はチート能力を想像するだろう。だが俺は言った。


「坊」


 彼女は拍手をした。そしてフードを外す。サトミとは対照的に笑顔がにあいそうな柔らか顔つきの若い女の顔が現れた。


「私はミケ。サトミの僕と聞いてるけどミケって呼んで。堅苦しいのは嫌いだから」


「ああ。俺の事はおじさまでいい」


「さて、おじさま」


「なんだい?」


「問題です。あたしとサトミであなたを助けました」


「ああ。感謝してる」


「いいの、そんなのは。それより考えてほしいのはね」


「うん」


「じゃあ、問題ね。私たちはどうやって君を助けたでしょうか?」


 そういい片目をつぶり人差し指を立てた彼女。その一刺し指から鋭く長く伸びた爪は虎のような猛獣の

 爪を思わせる。俺が目を奪われてると。


「いけね。ほら考えて」


 彼女はペロッと舌をだし爪を引っ込めた。かわいらしい笑顔だった。だが鋭い爪を持っている。これが猫族か。


「え? ヒントが欲しいなあ。」


「そう? おじさまがサトミと出会ってから見聞きした中に答えに導くものはちゃ~んとあります」


「わかった考えてみる」


 俺はそうが言ったが、彼女のボーイッシュな茶色いショートヘアをメッシュのように彩る白と黒を眺めているうちに別の謎が頭に浮かびそれにとらわれそうだった。別の謎とはこれだ。


「どんだけ転移してきてんだよ? 日本人」

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