第一話 俺が異世界に転移した流れ
俺の名前はコウジ。
どこにでもいる普通のおっさんだ。
まあ、今は中世ヨーロッパ風の異世界にいるんだけど。
ところで俺が会社から追放された理由を知りてえって奴、いるぅ〜?
いないよなぁ。
メンドイべ?
渋くてかっこいい強キャラのおっさんとか銀髪クール系美少女戦士とかならまだしもどこの誰だか知らねえおっさんの回想を小説で読まされんのつらいよね。
異世界転移する前にさ聞いてたんだわ。俺も今はこんなんだけど「小説家気分を味わおう」とか「カイテヨンデ」なんかに小説を投稿してたくらいだからさ。知ってるんだわ。異世界転移したこと記録するときはそのことは簡単に書いておけって。
読んでくれる奴は俺の暗い過去なんかに興味なんかないから。とっととむかつくやつブっ飛ばして、美女やカワイ子ちゃんからMMK状態っ! てところをたくさん書き続けろってな。
あれ? もしかして……
わたしの使ってる言葉……古すぎぃ?
MMKって知らない? ご存知ない? こりゃまた失礼いたしましたっ!
まあ、これを知ってるやつはもうおいちゃん、って奴かもな。興味ないかもだけど一応言っとくわ。モテてモテてこまるをローマ字でかいたときの略称。たしか昭和キッズを主人公にした漫画とかアニメで言ってたかな。まあ、それはさておき本題に戻ろう。あれ? 時を戻すんだっけ?
MAICCA。
自己紹介代わりにさらっと言っとくわ。
今はこんな感じの俺だけど昔は繊細マジメ夢見がちチェリーボーイってとこ、だったってわけ。そんでまあ、いろいろあって結婚したけど離婚しました。離婚するときさ。けじめつけたいからって言われてさ。会ったのよ。ファミレスで。
元奥さんとまだちっちゃい娘と元奥さんの再婚相手とさ。でね。相手の男に会った瞬間わかっちゃった。ビビビって来ちゃった。
あ、これ、奥さんやってんなぁ。どう考えてもヤってんなぁって。
っていうか、これケジメじゃなくてトドメだよね。
なるほど納得、そりゃノーマネーでフィニッシュです。あっさり離婚成立ですわ。
うん、どうみても、うちの娘、この男の娘なんだもん。顔がそっくり。はいはい、俺の娘にしてはやけに美人だとは思ってましたっ!
で、まあ俺は何も言えなくて。夏だし水を一気に飲み干して奥さんの用意した離婚届に署名してハンコ押してファミレスからでてきちゃった。
あ、娘? まだ小さかったからさ、俺のことなんてすぐ忘れるから大丈夫なんじゃないかな。単身赴任してたからさ。元奥さんがこれからたくさんお金が必要だからお仕事頑張ってっていうから仕事頑張って時々しか会えなかったんだけどさ。
元娘は俺のことを「サンタさん」って呼んでたから。うん。パパって呼ばせようとしたけどかたくなに嫌がってたからさ。うん。もう何年も前の話だからね。泣いてないよ。うん。スン。うん。
時を戻したい……
スン…… まあ、覚えてるのは元奥さんが俺に差し出した手には俺があげたのじゃない指輪がはめられてて改めて、きれいな指してんなあ、なんてぼんやり思ったこと。
そんで、まあ両親は年齢的に、なっても不思議はない病気であっさり死んじゃったし。一人っ子で兄弟もいないし、親戚づきあいもないし、転勤族だったから昔の友達とも疎遠になってるしで、昭和キッズなんていってもあっさり天涯孤独になっちゃうのね、なんて妙に感心しちゃってさ。
それでさ生きがいなんて何もねえな、なんて思ってる時に上司と部下がグルになって会社の金使って私腹を肥やしてるのに気が付いちゃってさ。よせばいいのに、そんときは正直者が馬鹿を見るなんておかしいやいってそれをやめさせようとしちゃったんだよね。
まあ、案の定俺が盗聴や盗撮されていろいろ脅され始めちゃって。まあ、悪いことしてないからいいんだけどエスカレートしたら刺されるな、なんて予感もあったし、会社は結局奴らがねつ造した証拠を信じて俺をトカゲの尻尾切りしようとしやがって頭に来てたってわけ。
そんでたまたまそいつらが飲み会の席でっていうか新人の歓迎会なんだけどさ。複数で一人の新人女性社員を取り囲んでいろいろ言ってる現場に居合わせちゃって。
その女性社員が俺を見てるし。他の奴らは見て見ぬ振りしてるし。俺だって喧嘩なんて慣れてないし。厳しいとは思ったけどこの会社にいる限り慣れるか自力で抜け出せるようになってくれってのもあったから、もうちょっと観察してからって思っちゃってたんだよね。
ただね、見えちゃったの。今思えば見えないように取り囲んでたっぽいんだけど野郎たちがその女性社員の体触ってんのが見えちゃったのね。
で、気が付いたらドロップキック。あとは諸々。バックドロップかませたのには自分でもびっくり。怒りと酒の力ってすごいね。
そんで奴らの泣き顔見てざまあ達成。その女性社員に飲もうなんつって目についたグラスの中の発泡酒を飲み干してすっきり爽快。
で、俺。逮捕。
暴力、ダメ。絶対。イン ジャパン。
で、逃亡の恐れはないからってことで裁判まで自宅待機ってなったんだけど刑務所入るくらいならもう死んじゃってもいいかなって思ってさ。俺が好きな海岸があるんだけどそこで月が照らす夜の海を崖の上からぼんやり見てたら白い衣の天使に声かけられたってわけ。
「どうせ死ぬつもりならその命を別の世界で燃やし尽くしませんか?」
ってね。
今日はこの辺にしておくか。また気が向いたら書くよ。まあ、どうせ俺が異世界で手に入れた動物の皮とか木っ端とかに刻んだりしてるだけだからさ。誰にも読まれやしないってのはわかってるしな。
まあ、何かのきっかけであんたが読んでくれてるんだったら嬉しいよ。これを書き始めたのは異世界で俺が狂っちまわねえようにっていうのが一番の目的だからさ。
じゃ、また。