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第1話

 地方領主の貴族の館に生まれて、18年。


 思えばこの18年、色んなことがあったように思う。


 メイドの下着を盗んで怒られたし、町の男と飲みに行って賭けで大敗した。


 たくさん失敗したし、折檻(せっかん)もされたし、説教だってされた。


 でも、それらすべての経験に耐えることができたのは、俺が貴族の跡取りだったからだ。


 この日を待っていた。


 貴族の当主の座を継ぐことができる、『継承の儀式』の日を。


 この儀式で俺は、晴れて貴族社会への仲間入りだ。


「これより、『継承の儀式』を始める」


 部屋に居合わせた全員がこくりと頷いた。


 両親や叔父や叔母が、俺に期待の眼を送る。


「アルド。前に出ろ」


「はい」


 継承の儀式。


 ステータスやクラスを鑑別し、将来どれだけ大人物になれるかが判明する、


 由緒正しき未来への占いだ。


 自信はそこそこあった。


 なにせ俺は、選ばれた存在なのだ。


 この世界で貴族に生まれると言うことは、勝ったも同然の地位を意味する。


 才能ある家の長男として生まれた。


 地方で領土も持っている。


 領民を通じて入ってくる税金で、遊んで暮らせる額はある。


 成功するためにある人生なのだと。


 信じて疑わなかった。


 これであとは、クラスが『剣聖』か『大魔導師』であったのなら。


 領地を継いで上手く貴族の当主としてやっていけるだろう。


 そうしたら仲間を集めて遊び回って、町で女を抱きまくってやる。


 みんなの期待を一身に浴びて幸せな毎日を過ごせるはず。


 そのはずだった。


 そのはずだったんだ……。



「――汝の人生を天のもとに照らし出せ、『鑑定』」




――――――――――

《レスタ・アルウィン》


Lv 18


クラス・盗賊


HP 50/50

MP 15/15


Str 6

Agi 10

Mag 5

Def 5

Luk 12


魔法・スキル一覧

盗賊の手、盗む


――――――――――




「え……」


 あり得ないものを見たように、全員の吐息が詰まった。


 ひゅうっ、と俺の胃の腑から、冷たい怯えた息が漏れる。


「嘘、だろ……?」


 ――クラス・盗賊。


 これは貴族の跡取りとしてあまりに重い。


「と、『盗賊』ですか……?」


「貴族の家の子が、犯罪者の『盗賊』……?」


「それはちょっとない……」


「あーあ、無能以下のクズだったか……」


 全員の偉そうな論評が頭を右から左に通り抜けていった。


 頭の中が真っ白になって、ぐるぐるぐる、無駄な思考しか回らない。


 え……。


 俺……もう完全に終わり……?


 貴族は、貴族の次期当主になれるはずだったんじゃ……。


 盗賊ということは、もうこれは一族から冷遇どころじゃ済まない。


 全員から一度で充分の、終わりの通知だった。


「なんでお前なんかが生まれてきたんだ!」


「地方領主に、無能の子はいらないのよ!!」


「これだけ金をかけたのに、どうしてくれるんだ!?」


 地方貴族としての失格の烙印を下されてしまう。


 誰かに憎まれ、愛されないという時間が長くなればなるほど、人生は惨めになる。


 不幸な一日。


 そして、これから永遠に不幸な毎日が始まる。


 いつの間にか、泣いていたように思う。


 どうして、こんなはずじゃなかった。


 どうして俺が盗賊なんかだったのだろう。


 俺は、俺は……



 ――貴族失格だ。




 第一話 追放




「もうこいつには用済みだな」


「ですわね。アルド、もう行っていいわよ」


 と、首を横に振られて、部屋から出て行くことを強制された。


「はい……。すみません、お父さん、お母さん」


「お前のような男に、お父さんと呼ばれる筋合いはない。


 今日中に荷物をまとめて出て行け。


 それがお前のためになる」


 行く当てもないのに、そんなことを言われる。


 俺は、屋敷から追放されてしまうのか。


 部屋をぐるっと見回すと、全員から蔑まされている視線がそこにあった。


 領主である両親にも、叔母叔父にも、従者にも、侍女たちにも。


 全員から嫌われていた。


 どうして、俺はこんな目に……。


 そんな瞳を向けないで欲しい。


 傷ついたら傷ついただけ、やり返してやりたかった。


 言葉にできない心の剣を振りかざして、他人を切り裂いてやりたかった。


 そうでなければ、心にできた傷が埋まらない。


 寂しい寂しい男の、最後の末路だった。


「あんまりじゃ、ないですかね……」


「は? 何か言ったか?」


「いえ……今まで育てていただいて、ありがとうございました」


 それでも、気弱になってしまったからできなかった。


 俺は、簡単に捨てられてしまった。


 この日、俺は18年住み慣れた屋敷から追放されてしまった。

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