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君との距離

作者: 葵生天

 突然ですが、朝起きたら透明人間になってました。



目が覚めて、スマホで時間を確認しようと枕元をまさぐっても、なかなか感触がない。

いや、おかしい。寝相は悪くはないから、床に落ちてるなんてあるはずがない。

まどろんでいる頭を何とか起こして、枕元を見る。たしかにそこにはスマホがあった。

しかし、スマホの上に置いている手が透けていた。


 眠気から一気に覚醒した。そんなことあるはずがない。非科学的すぎる。ファンタジーじゃないんだから。

いくら考えても目の前の状況が変わるはずもなく、受け入れざるを得ない。

今日が全休でよかった。これで講義があったら困難が多すぎる。


 透明になったことを受け入れた私は、とりあえず状況を理解することにした。

ベッドから降りて、部屋の隅にある全身鏡の前に立つ。

物に触れられないことは分かった。着ているパジャマも透けている。自分の頬を触ると感触がある。

鏡に触れると感触はなく、通り抜けてしまった。


「なるほどね。」


 状況は理解した。さて、どうしようか。このまま家でじっとしているのもおもしろくない。

いつもは見れない某パークの裏側を見に行く?それとも旅行に行く?


「そうだ、豪を見に行こう。」


 豪は1か月前にできた彼氏だ。イケメンなうえに優しくて、気遣いがよくできる。私にはもったいないぐらいの彼氏だ。未だにかっこよすぎて直視できないし、一緒にいてもいつも緊張Max。なかなか距離が近づかない。このままじゃ嫌われてしまうかもしれない。

嫌だ。そんなの嫌だ。少しでも近づきたい。


 というわけで今日は豪の様子を見ることにしよう。そう思い立ち大学に向かう。誰にも見えないからパジャマのままだけども。

道行く人の前で手を振ってみるが、反応はない。やっぱり見えていないみたい。見えてないっていいなあ。いつも気を張ってばかりだから、とても快適だ。


 大学に着いて豪を探す。たしか2限は休みだから図書館かな。豪は文学少年だ。趣味は読書だと言っていたし、よく本を読んでいるところを見かける。

うちの大学の図書館は広い。人一人見つけるのも結構大変だ。

どこにいるんだろう、うろうろ歩いているとようやく見つけた。受付カウンターに並んでいた。どうやら本を借りるらしい。


「何借りたんだろう。えーと、太宰治のヴィヨンの妻と、国木田独歩の武蔵野かあ。聞いたことはあるけど、読んだことないな。さすが文系男子。」


 図書館を出ていく豪についていく。次は食堂に向かうらしい。


入り口でメニューとにらめっこしている。かわいい。何で悩んでるんだろう。

3分ぐらいしてようやく食券を買う。


「えー、なになに。激辛カレーライスと、いちごタルト。・・・・かわいい。」


激辛好きなのにスイーツ好きとか、かわいすぎか。さわやかイケメンのギャップにやられた。

ちなみに、汗だくになりながらも激辛カレーライスを完食。

いちごタルトは一口ずつおいしさをかみしめながら食べていた。かわいい。

豪は感情が表情に出やすいみたいだ。おいしいんだな、ってことがよく伝わってきた。


 昼食を食べ終えると、3限の講義がある教室に向かった。

教室に着くと、きょろきょろと誰かを探していた。

ぱあ、と効果音が付きそうな顔になると、速足で目的の人のところへ向かっていった。


「豪!こっちこっち!」


「琢磨!やっと見つけた。こんな端っこだと見つけにくかったよ。」


「ここだとスクリーンが見やすいからな。」


 待ち合わせをしていたのは、高校の時から仲がいいらしい琢磨くんだった。私も何度か話したことがある。話していると教授が教室に入ってきて、授業が始まった。

講義の内容は、近現代の日本文学について。経済学部の私にはよく理解できないないようだった。


 講義が終わって校門に向かって歩き出す豪についていく。琢磨くんとの会話から、今日はバイトは無くて、そのまま家に帰るらしい。

 校門で琢磨くんと別れると、イヤホンを取り出して音楽を聴き始めた。何聞いてるんだろう、と思ってスマホを覗く。そこには今流行っているらしいロックバンドの名前が表示されていた。


「ロック聞くんだ。なんか意外だな。」


 今日1日豪を見ていて、激辛が好きなこと、スイーツが好きなこと、友達と話すときは表情豊かなこと、ロック聞くこと。1か月付き合っていたのに、知らないことをたくさん知れた気がする。


「ちょっとは豪のこと知れたし、すこしだけ近づけたかも。」


 うれしくて、胸がきゅう、となった。

手つなぎたいな、と思って豪に手を伸ばす。しかし、すり抜けてしまう。今の私は透明人間。


「こんなに近くにいるのに、遠いよ。」


 誰にも聞こえない私のつぶやきは、夕方の空に溶けていった。


 透明人間になって、今まで知らなかった豪のことを知れたのはうれしかった。でも、うれしさよりもいつもよりも距離が遠いことが悲しくなった。

最初は便利だな、気を張らなくてもいいのはうれしい、と思っていたのに。もう元に戻りたい。

 

布団に入るとすぐに眠気がやってきた。

どうか元に戻れますように、そう願いながら眠りについた。


 翌朝、目覚ましの音で目が覚めた。いつものように枕元のスマホを探す。すぐにスマホの固い感触が伝わってきた。

 起き上がり全身鏡の前に立つ。昨日とちがって透けていない。鏡を触ると冷たい。ちゃんと感触がある。


「よかった、元に戻ってる。」


 安心した私は、大学へ行くために準備を始める。


今日は勇気を出して、豪にいろいろ聞いてみよう。好きなもの、嫌いなもの。お互いのことをこれからいっぱい知っていけたらいいな、と思いながら大学に向かう。


「豪おはよう。」


「玲おはよう。昨日の全休は何してたの?」


「いっぱい知らなかったことを知れた1日だったよ。」


「へえ、それはよかったね。」


「・・・・。あ、あのね。豪のこといろいろ教えてほしいな。私のこともいろいろ知ってほしい・・!」


 






 勇気を出して言えたおかげで、少しずつだけど豪との距離が近づいた気がする。

いいことも悪いこともあった1日限りの透明人間生活だった。






三日目です。日付越えてしまいましたが・・・・

今日はなかなか文章が思い浮かばなくて時間がかかってしまいました。

こんな文章読んで下さって本当にありがとうございます!

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