嵐の前の静けさ
激しい怒号を響かせながら落雷が大地を引き裂く。屍や血だまりが散乱する戦場を異星人たちが駆けていく。辺りには、もはや、人間のものなのか異星人のものなのか分からないほどのおびただしい数の肉片が転がり、戦争の凄惨さを物語る。
人類軍の手には七色に変化しながら光る長剣、甲高い発砲音と共に強力な弾丸を発射するマシンガンが握られており、異星人達の首をはね、頭部を爆裂させていく。
しかし、異星人も負けじと種族特有の能力で応戦してくる。フレディングビーストは火炎で人を焼き払い、カニバルバインは短刀のような大きさの爪で肉を引き裂き、臓物を食らって雄叫びをあげている。
「どうします?一旦引きますか?」
人類軍の若き兵士が戦況を遠目で観察し、上官と思わしき軍服を着た大男に指示を仰ぐ。
「このまま前進で構わん」
立派な口髭を蓄えたこの男は、背に抱えたバズーカ砲を撫でながら、落ち着き払った且つ、殺意の熱を込めた声で答えた。
「しかし、こちらの人員も多く減らされました。これ以上の犠牲は戦局に大きく影響するかと」
若い兵士の心配を嘲笑うかのように、大男は口元を緩める。
「はっはっはっ、忘れたか?我々にとって、こんな白兵戦は問題にはならん。なんといってもこちらにはとっておきがあるのだからな」
「確かにそうですが、いったい何人の犠牲が・・・」
若い兵士の表情には、まるで呪いでもかけられたかのような曇りがある。
「何度も言わせるな。ここにいる異星人どもを完全に駆逐し尽くせば、戦火に散っていった同胞の霊も浮かばれようて」
大男はまたしても口元を緩めながらこう語ったが、若い兵士はしっかりと見ていた。上官の目が全く笑っていなかったことに。
こんなやり取りが行われてから七日後、戦いの舞台となっていた名もない惑星に、人類軍の崩壊ミサイル「ルイン・イーター」が投下され、異星人の軍隊はもちろん、ここに派遣されていた人類軍も塵と化した。これをきっかけに宇宙中の異星人vs人類という圧倒的戦力差の戦争は、非人道的とも呼べる一手によって人類側の勝利となった。
あの大男の笑っていなかった目にはいったい何が見えていたのか、もう誰も聞くことは出来ない。無益且つ、悲しみや恐怖すら飲み込む鬼畜の所業を、人類は何度繰り返すのだろうか。
【40年後】
時間は流れ、人々が戦争のことなど忘れ切った頃。軽装に身を包み、まるで水面を掻き混ぜたときにできる渦のように人が街を流動していく。
「あの新しいお店って、評価星3だったよね?ぶっちゃけ微妙じゃない?」
黒髪でショートカットの女子高生、花咲モエ。くるりとしたつぶらな瞳は、上品で可愛らしい日本人形のような印象を与える。
「何?モエって、そういうの気にする派なんだー、なんか意外ー!」
赤く染まったポニーテールに、モエよりも少し濃いめの化粧を施した女子高生、霧島カナ。まるでモデルのような最新ファッションに身を包み、こちらもモエとは雰囲気こそ違えどとても可愛らしい見た目をしている。
「べ、別にいいじゃない気にしても!せっかくだから美味しいもの食べたいの?」
「え、でもモエって今ダイエット中じゃ・・・」
「しーっ、それは言わないでー!」
「あー、彼氏に報告しちゃおうっかな!」
「もうー、神様、仏様、霧島様ー!何でもしますからー!」
「ふーん、なんでも?では霧島様にハンバーガーの献上を命じるわ」
「太るわよ」
「う、うるさいわね!」
二人は慣れた手つきで改札をくぐり、電車に乗り込む。しかしこの電車には、2人がこれから深く関わることになる、ある人物が乗っていることをまだ彼女たちは知らない。




