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999本の薔薇は、

リハビリ作

 




「呪ってやる!これからずっと苦しめ続けろ!!ーーーーに酷い苦しみを!」



 それは、私が生まれるずっと前、はたまた違う世界のそのまたずっと昔。弱小貴族の私は、貧しいなりにも幼馴染兼、お目付役の彼と仲睦まじく幸せに暮らしていた。私たちの世界はお互いしかいずに、成長するにつれて愛し合うのは自然のことだった。

 初めてのキスも、お父様に内緒で私の純潔も全て彼に捧げて、それは彼も同じ。

 私たちの世界は幸せに満ちていた。


 それが、狂ったのは第二王女が彼を見初めてからだ。眉目秀麗な彼は沢山の人を虜にしたが、その全ての誘いを私のために断った。だが、国王に溺愛されている第二王女の誘いは絶対で、断れば、何をされるか分からなかった。だから、彼は泣く泣く王城に赴き、第二王女の思うままに拘束された。


 第二王女は、第二王女なりに彼を愛していたのだと思う。彼の心が自分にないと分かっているから、すぐに結婚に移ろうとして、私はなんとかそれを阻止したかった。

 何を捨てても彼が欲しかった。


 そして、彼と考えた秘密の暗号文を作って彼との駆け落ちを実行したのだ。

 長かった髪をバッサリ切り、金髪の髪を黒く染める。整った顔立ちは大きなスカーフで隠して、彼を迎えに行った。結果的に、その駆け落ちは成功した。


 だが、駆け落ちをする場に、第二王女が出会わせたことは予想外で。第二王女は、すぐに全てを悟り、血走った目で叫ぶ。呪ってやると。


 私たちは、彼女の呪詛のような雄叫びを浴びながら、走り去る。


 そうして、やっと幸せを手に入れたと思いきや、彼は流行病ですぐに死んでしまった。私はその事実を受け入れられずに自殺。


 これが私達の、いいえ、私の始まりだった。



 


 私は、生まれる変わるたびに前世の記憶を持っていた。それは、最初、私にとって幸福だった。彼とまた一緒になれる、そう思うだけで幸せが溢れて、その時はまだ異常さに気づかない。

 1回目は、彼と会うことなく死んだ。

 2回目は、今度こそ、と思い彼を探し回った。彼への想いは1回目より深く根強くなっていて、彼のことだけで頭がいっぱいでそれ以外どうでもよかった。40歳の頃、やっと45歳の彼を見つけた。彼は、私のことなど綺麗サッパリ忘れて、結婚し裕福に幸せに過ごしていた。私は諦められない。彼を何度も何度も問い詰めて、追いかけ回したら警察に捕まえられた。それでも、私は彼を深く深く愛していたし、愛しくて愛しくて愛しくて、彼を奪った女が憎くて仕方がない。


 衝動だった。彼女がいなくなれば、彼が私を愛すかもしれない。釈放されて会いに行ったのは、彼ではなくて彼の妻。


 端的に言えば、消してしまおうと思った。死ねば消える。

 近づくなと言われた彼の家に乗り込み、彼女に包丁を差し込もうとした時、頭に大きな衝撃が襲い体が硬直したように倒れこむ。動けずに横目から、何があったか伺うと、彼が血汚れたパイプを持って彼の妻を抱きしめていた。


 あなたが抱きしめる相手は私よ!


 そう言いたくて、声を絞り出す。あ、とやっと声が漏れた時、仇を見るように私を見た彼がまたパイプを振り上げた。それが私が見た最後。


 3回目に、やっと自分のおかしさに気付いた。この恋情は心に染み付いて、何が何でも離れようとせず、私を破滅に向かわせる。何事も行き過ぎたものは狂気だ。そして、やっと私は気付く。これこそが、呪いだったのかと。

 何度生まれ変わっても、激しく彼を愛し続ける呪い。きっと第二王女は、彼を奪った私が憎くて私に呪いをかけたんだ。聞こえなかった誰か宛の憎しみは、私に届けられて、この呪いに恐怖を覚えても私は彼が好きで好きで堪らなかった。

 私は、生まれた頃から前世の記憶を持ち、時に気味悪がれる。その時は、両親に疎まれながら必死に彼を探した。彼が見つかったのは35歳の時、彼も同い年で彼に恋人はいない。勿論、彼に思い出して、と問いただし、彼を追いかける。

 その度に、彼は私を冷たい目で見る。頭がおかしい女、彼が私に言った言葉だ。そんな言葉をかけられて気持ちが冷めてもおかしくないはずなのに、私は彼が好きで好きで好きで好きで堪らない。


 結局、彼は他の女性と結婚して、私はそのショックで自傷行為を繰り返し、精神病棟送りになった。そこで、精神病質の患者に殺されるのだが、意識のあるまま体をミンチにされる苦しみの中、殺されるなら彼が良かったと2回目の自分が羨ましかった。


 4回目。私の想いはそれでも変わらない。だが、この時の私は病気で幼くして死んでしまう。

 5回目。私の想いは精神を壊し始めた。彼が好きで好きで好きで好きで好きで堪らない。だが、その時は狡猾に、前のように大胆に彼に行かないようにしようとしたが、彼を見ると私は普通の思考が出来なくなるという事に気付く。彼が30歳、私が25歳の時に彼を見つけたが、結局彼は私を気味悪がり、他の女と結婚した。


 そして、6回目。

 それでも、私の精神は彼への想いに蝕まれているが、これまでの経験で彼との邂逅は5歳ずつ早くなっている事に気付き、20歳までは彼を待つ気持ちで比較的平穏に暮らすことが出来た。


 彼と出会ったのは、私の教育実習の時だ。彼は、その選ばれし者しか通えない学園の生徒のトップで、眉目秀麗、文武両道と最初の彼とそっくりで、ハーフだから髪の色まで一緒だった。ただ、ひとつ違うのは、彼の性格が傲慢で意地悪くなっていた事だ。私と同じように数々の転生で魂に負担がかかっているのかもしれない。


 彼はこれまでと同じ年上だろうと想像していたのを裏切られ、彼は年下で、とても驚いたが、それでも、彼を見つけた時の喜びは何にも勝つことが出来ない。


 彼を見つけた私は、頭が真っ白になって、でも、彼に会えた喜びで支配されて、昔の彼の名前を呼ぶ。勿論、彼が分かるはずもなく、訝しそうに私を見るだけだが彼の視界に入っただけで、生きてて良かったと思える。そして、そのまま言い放った。


「私よ! ミレーユよ! やっと私たち出会えたのね! ルイ、今度こそ、結ばれましょう! 」


 そこは、教室だったが、誰もがぽかんとした顔で私を見て、それから笑った。


「佐倉先生、いきなり冗談かまし過ぎですよ」


 私の言動は、冗談だと受け止められたらしくて、クラスに笑いが走る。面白かったですか? なんて、本当に冗談にしてしまえば、そんな笑い事で済むのに、彼に支配された私はそんなこと出来ずに、血走った目でひたすら彼を見つめる。そのうち、笑い声はポツポツと消え、えっ、まじで……と疑うような声が聞こえる。彼はじっと私の目を見つめて、そして、キモっと吐き捨てた。


 その後、私はクラスの担任に部屋を退出させられ、落ち着くように諭される。彼がいなければ、別に問題ない。すぐに冷静になり謝った。


 いつだって、もっと彼のことを冷静に射止めたいのに私にそれが出来ない。しかも、記憶も何もない彼にとって、私は地味で、しかも気持ち悪い女だ。先行きが悪すぎると肩を落としたが、すぐに落としたままでは居られなくなる。学校中の生徒から嫌がらせを受けるようになった。水をかけられたり、上着を破かれたり、陰口を叩かれたり、階段から落とされたり……。私はそれを仕組んだ犯人を分かっていた。そんなことが出来るのは、学園のトップである彼だけなのだから。


 どうやら、虐めたいほどに嫌われているらしい私は、それでも彼を見ると愛が溢れて止まらなくて、仕方がない。その内、教員実習も問題ありと見なされてクビになった。


「綾乃、もうやめろよ。綾乃には俺がいるだろ」


 彼が裏で手を回したのか、どこにも就職出来なかった私に今世の幼馴染、梓君が言う。梓君は、顔良し、頭良し、性格良しのパーフェクトボーイでストレートで弁護士になったエリートだ。そんな梓君は、何故か私のことを昔から好きだと告白してくる。私を好きと言うイレギュラーなんて今世が初めてでどうすればいいか分からない。


「駄目。私はどうしても不知火君がいいの。不知火君じゃなきゃいけない。そうよ、私は不知火君と結ばれなきゃいけなくて、その為に生きていて……」


 彼と出会って、私の狂気は増した。前は彼を見ると襲ってきた焦燥感が、今は彼を考えるだけで溢れるのだ。そう。私は彼を愛していて、結ばれなきゃいけない。


「違う、綾乃。綾乃は綾乃のために生きるんだ。……どうしたんだよ……あのクソガキと関わってから人が変わったみたいだ。綾乃の今の状況は、異常だそ。まるで呪いにでもかかっていみたいだ」

「……呪い……うん。かかってるよ、呪い。不知火君が好きで好きで堪らない呪い」

「目を覚ませよ。綾乃、お願いだから病院に行こう。綾乃が心配なんだ」


 梓君の一言で、今の状況が呪いの結果によるものだと思い出す。理性が飛ぶと、自分の状況さえ分からなくなってしまうのだ。


「行かなきゃいけないの。今度こそ、結ばれたいの」

「……分かった。俺も行く」


 不可解な行動を取る私に、友達は離れていったが梓君と家族だけは私を心配してくれる。迷惑をかけていると分かっている。でも、衝動が治らないのだ。この私の愛されたいという欲求は、生死より深く本能に刻まれている。

 私の日課は、彼の訪れるクラブに行くこと。そこに行けば、彼に時々会うことが出来る。


「不知火君っ、私よ!もうこんな女遊びなんてやめてっ!」


 クラブに行けば案の定、彼は片手を派手な女の腰に置いて本来飲んではいけないはずのアルコールを仰ぐ。彼を取り巻く人々は必死な形相の私にポカンとし、その後ギャハハと大口を開けて笑い出した。


「ウケる!これが例の頭イカレてる女!?」

「マジじゃん!?面白いもの見れるとは言ってたけど、これヤバくね?」

「マジキモいんですけど」


 周囲になんて思われたっていい。大事なのは彼だけだから。彼が、彼で、彼だから。

 彼の些細な反応を見逃すまいと、彼をじっと見据えれば、彼は私を心底馬鹿にしたように嘲笑して。


「佐倉せんせ?マジキモいから早く死んで?」


 うん。そうだよね。私、気持ち悪いよね。自分でそう思う。そうだよね。でもね、どうしようもないの。彼が好きで好きで、好きで好きで好きで好きで好きで、私は私じゃなくなるの。


 死んで。


 彼にそう言われて、私は彼のために死のうかと考える。分かった。あなたの為に死ぬよ、と答えれば彼は私を愛してくれるだろうか。


 あなたに愛して欲しいの。

 彼、ルイ、不知火君。あれ?私の愛してる人は誰?私が好きなのは彼で、ルイで、不知火君?でも、だって、私の恋人だったルイと不知火君は外見以外何もかも違って。それなのに、何で私は彼、かれ、かれ……不知火君を好き?


 突然、頭の中に振り出した疑問に固まった私に、彼は持っていたお酒を浴びせた。

 それと同時に、梓君もやってくる。


「目障りだから消えろって言ってんの分かんない?ほら、しーね。しーね。しーね。しーね」


 梓君が私を庇うように私の前にたっても、彼を中心とした私への死の催促は鳴り止まない。


「っ、行くぞ」


 しね。


 その言葉がまるで世界を支配するように、振りかざされる。彼がそう、望んでいるなら。


 死ぬことが、私への神託で。

 死ぬことが、彼への愛への証明になるなら。


 私の腕を掴んで、その場所から私を逃がそうとする梓君の腕を力強く止める。


「うん」


 その凄まじいコールの中、この小さな返事はきっと彼に届いた。彼は、少し驚いた顔をしたから。


 梓君に掴まれた腕を思い切り上に振って、梓君の腕を引き剥がすと私は一目散に外に面している非常階段に向かった。ここは、ビルの6階。


 迷いはなかった。彼への愛は死への恐怖をとうに超えて。


 死のうと思った。


 走った勢いのまま階段の手すりに手を掛ける。もたもたしてると後ろに迫る梓君に止められるって分かってたから。そもそも、何の躊躇いもないから。


 上半身が宙に浮き、片足が手すりを超えて、このまま水風船のようにぺちゃんと破れるはずだった身体は、運動神経抜群の梓君に片手一本で止められて。でも、外へ行くはずだった私の体を無理やり方向転換させるものだから、引っ張りきれずに私の身体は右へ流れる。


 あ。


 見たのは、梓君の必死にこっちへ手を伸ばす姿。

 思ったのは、梓君じゃなくて彼が良かったということ。


 私の身体は、階段の角に頭を強打し、そのまま階段を転がり落ちた。

 あまりの痛さに、途中から私の意識はない。

 ただ、梓君が私を呼ぶ声だけは確かに聞こえた。






「綾乃っ!」

「……お母さん?」


 目が覚めたら、病院にいた。どうやら、私は3日間こんこんと眠り続けたらしく、その理由も原因不明だったため大いに家族を心配させてらしい。


「梓君に電話するわね」


 私の状態を医者に確認されてから、すぐに母は席を立って梓君へ連絡をする。母は梓君に全幅の信頼を置いているのだ。


 母が梓君に電話をしている間、私は梓君になんて謝ろうと考える。梓君には迷惑をかけた。だって、私がいきなり飛び降りようとしたのだから。


 当たり前のように、過去を振り返り気付く。


 あれ、何で飛び降りようとしたの?


 何かがすっぽりと抜けているようだった。それが何か大切なようなものの気がするが、さっぱり分からない。

 一人で頭を抱えていると、外がにわかに騒がしくなる。安静にして下さい、止まって下さい、などと女性が焦った声で静止させようとしてることから、患者が逃げ出したのだろうか。


 看護師さんも大変だな。


 そんな他人事で終わらせようとしたら、その騒ぎはどんどん私のいる部屋に近づく。そして、私の部屋の前で止まった。


 扉の前で何秒か止まった足音に、私は何が何だか分からない。私の知り合いで患者さんに知り合いなんているだろうか。部屋を間違えたのだろうか、なんて思って。のうのうと扉の前の誰かが部屋に入るのだろうと待つ。


 私の病室に入ってきたのは、外国人のような顔をしたハンサムな少年だった。歳は私より下に見えるが、私と同じような病人服を着ている彼は、私を一目見ると少し躊躇い、またちらりと見ると目線を晒しを繰り返す。私がその様子をポカンと見ていると、彼は意を決したように傲慢に言い放った。


「悪かった。お前は確かにミレーユだ。お前と付き合ってやるよ」

「へ?」


 いくら格好よくても電波な人だ、と内心思いながら今一番聞きたいことを聞く。


「ええっと、どちら様ですか?」


 知り合いかもしれない人にこんなことは口が裂けても言えないが、生憎こんなイケメン知り合いだったら忘れられるわけがない。


「何言ってるんだ。今まで散々……」


 呆れたような言い方の彼は、話しながら私が本気で分からないことを悟ったのだろう。

 口をわなわなと震えさせて、彼は見るからに動揺した。


「俺だ、ルイだよ。お前、あんなに俺のこと好きだったはずだろ」


 るい。るい。ルイ。ルイ。


 彼の名前を口で転がす。そしたら、自分が大切な何かを忘れていたことを思い出して、忘れた何かと彼の名前が急にピタリとはまった。


 途端に()()が溢れ出す。

 何が怖いかなんて。

 勿論、彼だって怖い。


 散々、私をいたぶってきた男。

 散々私の思いを踏みにじってきた男。


 それが彼だ。


 だけど、それ以上に私は今までの()が怖くてたまらない。どうして好きなのかも分からない、好きな要素なんて全くない。だけど、彼の魂に執着して、手に入れたくて、その為だったら何でもした。喉が渇いたら水を飲みたくなるような、そんな単純な本能で、砂漠で遭難した人のように、私は彼の愛を求めていた。

 なんて、哀れで、どうしようもなくて、気持ち悪い。


 呪いのはずだ。

 第二王女が私にかけた呪い。

 今はない呪い。


 恐らく呪いが解けた今、好きでもない彼なんて怖くて怖くて仕方ない。ひょんなことで解けたこの呪いが、彼と関わってまた再発したら。そう想像しただけで、不治の病にかかったような焦りと恐怖と嫌悪感が湧き上がる。


 もう二度と彼と近寄りたくない。

 それが今の率直な私の思い。


「……今まですみませんでした。あの、もうその件はいいので気にしないでください」


 思えば、彼の前でこんなに冷静に話したのは初めてかもしれない。私の百面相をじっと苦い顔で眺めていた彼は、私のこの言葉に目をつり上げた。


「何を言っている!俺が思い出したって言ってるんだ。お前は迷惑がかからないように俺の隣にいればいい」


 彼の思い出す、と言う言葉でやっと彼が前世の記憶を思い出したのだと気付く。

 なんで今さら。2回目の私の時に、3回目の私の時に、5回目の私の時に、その時に思い出していれば、泣いて喜んだのに。今の私には、迷惑でしかない。


「あら、どうしたの?」


 私がなんで言えばいいか分からずに、沈黙が支配していると扉の向こうから母の声が聞こえた。扉の向こうの声など普通は聞こえないが、母の声はでかいのだ。


「あら、そうなのねぇ」


 どうやら扉の前にいた看護師さんにそう返事した母は、私の前にいる彼に目をパチクリと瞬かせた。彼の顔を覗き込み、知った顔でないことを認識した母は、なんの躊躇いもない。


「どなた?」


 なんて答えればいいか分からなかった。母は、彼の名前を知っている。私をおかしくした張本人の名前として。


「えっと、部屋間違えたみたい」

「でも、外の看護師さんが」

「私と同姓同名の人か入院してるらしくて、間違えたらしいよ!?」


 必死に彼の正体を隠そうとしている私に、彼も私の母に顔を合わせずらかったのだと思う。彼は、なんの挨拶もせずに帰っていった。


「ずいぶん格好良い人ねぇ。外国人かしら?」

「さぁ?」

「そう、梓君。ちょうど仕事終わりだからそのまま来るって!良かったわねぇ」

「梓君が……」


 呪いで彼への狂気に堕ちても、ずっと支え続けてくれた梓君。梓には申し訳ないことを沢山した。それでも、梓君は来てくれるんだ。


「ーーお母さん、話しておきたいことがある。今までごめんね。私、ーー」


 梓君に彼への想いがなくなったと説明する前に、母に冷静に説明した。前世の部分は隠して。母は、おっとりやったわねぇ、と喜んでくれた。

 梓君だってきっと喜んでくれる。そう思うと、早く梓君と会いたくてたまらなかった。






「綾乃!」

「梓君、私ーー」


 病室に駆け込んで来た梓君に、私は急いで説明する。梓君は良かった良かったと頭を撫でてくれた。


 あれ?

 今まで頭を撫でられてもなんとも思わなかったのに、なんか恥ずかしい。


 母が二人で話なさいと気を利かせて、休憩室に行って暫くすると、何かの情報網でも握っているのか、また彼、不知火君がやって来た。


「佐倉、」

「何のようだ」


 彼は私に話しかけてくるけど、答えるのは梓君だ。梓君は、彼に敵視剥き出しで。大人げないと言われるのかもしれないが私は梓君がいてくれて心から良かったと安堵する。


「お前に話してない。話があるのは佐倉にだ。ぽっとでのお前如きが俺たちの邪魔をするな!」

「ぽっとで?それは、お前のことだろ」

「はっ!お前じゃな話にならないんだよ。俺と佐倉には深い縁がある。ぽっとでのお前には到底埋めきれないものだ。さっさと消えろ」


 目の前で、梓君と彼が火花を散らして言い争う。私も勇気を出さなくてはならない。


「出てって」

「ほら、さっさと出てけ。お前なんてどうせ今世から出てきたイレギュラーに過ぎない」

「っ」


 梓君が悔しそうに、彼から視線を外す。


「違うよ」


 梓君のスーツの裾を掴む。


「出ていくのは、不知火君のほう。今までは私も悪かった。でも、不知火君も潔白ではないよね?だから、もうチャラにして。もう二度と私の前に現れないで」

「綾乃……」


 嬉しそうな感情を滲ませる梓君と反対に、彼は顔を真っ赤にして何か言いたそうに口を開いて、結局何も言わずに、病室のドアを力任せに閉じて出ていった。


「綾乃……本当に治ったんだな」


 まだ少し緊張している私に梓君は、はにかんだ。胸がキュンと高鳴る。


 後に、私はそれが恋と知って。


 梓君と付き合うまでには、梓君が私に同情して付き合おうと言ってくれてるんじゃないか、なんて不安になって一悶着もあったが、最後に私たちは結婚した。


 何故か不知火君が私に執着して、梓君の立場が危うくなるように圧力をかける事件もあって、一筋縄ではいかない人生だが今は満足している。


 もう二度と呪いなんてかかりたくない。







(999本の薔薇の花言葉は、何度生まれ変わってもあなたを愛し続ける)




その後、ルイ)の方が主人公と同じ呪いにかかり、何度生まれ変わっても主人公が好きになります。

裏設定として、呪いは第二王女の命令によってかけられたものですが、かけた張本人はルイの弟で、弟はミレーユが好きでした。ルイの弟の生まれ変わりが主人公の幼馴染君となります。


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