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夜の鳥が啼く  作者: 遊雪
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 私の苦手なものは納豆とイケメンだ。自慢と思われるだろうが、私、荻久保立夏の周りにはイケメンしかいない。周りと言ってもせいぜいおじや兄や幼馴染みの三人だけだが、彼らだけで十分すぎるくらいだ。


 おじである荻久保秋近は父方の人で、残念ながら二人は顔が似ていない。両親、私から見れば祖父母のいいところすべてをおじに、悪いところを父が受け継いでいる。それ故におじは女性に不自由していない。

 しかし結婚することなく四十を迎えた。それでも、弟である父が兄に間違えられることが多いほど若々しい。無理な若作りなどしておらず、独身貴族ゆえに全身をいいもので揃えている。父はおじのことを世の中の男性の理想像だと褒め称えていた。

 独身を満喫しているおじに結婚願望がないわけではないらしい。その証拠に結婚情報誌を読むたびにため息をつくのだ。そろそろ結婚すればいいのにと私が言うと「立夏が大人になるまで待っているんだ」とふざけたことを言って誤魔化そうとする。

 いつまでも弟夫婦の家に居候せず、一人暮らしを始めれば結婚までとんとん拍子で進むだろうに。おじにはそろそろ自分の家庭に落ち着いて欲しい。

 私がまだ子どもだから結婚しないという言い訳が本物だったとしても、私の人生は私なりのペースで生きたいので変に煽らないでもらいたい。私を言い訳にして逃げるところがおじというイケメンの苦手なところだ。


 残念な父の遺伝子を私が受け継ぎ、母のこれまた美しい遺伝子を兄の一雪が受け継いでいる。母の変なセンスも受け継いだのか冗談なのか、父を美人と私を世界一の美女と言う。鏡を見てから言ってもらいたい。見ても平然として同じことを言うのが兄の怖いところだ。

 兄が美女だと言いふらすおかげで周りからの冷ややかな視線や、失笑が私にまとわりつく。兄がいなければそういう類のものはないが兄がいれば必ずだった。必死で周りに納得させられる人間になろうとするも兄に「素材を殺す気なの?」と言われる。

 兄から許されているのは日焼け止めと色つきリップくらいだ。ボディクリームは匂わないものしか使えない。服はすべて兄の趣味のものを買い与えられる。ワンピースやセーターなどが主で、どれも地味な色目だ。白いワンピースが兄のお気に入りのようで、よくそれを着させようとする。

 私は兄の着せ替え人形ではない。だが、兄の独特な、相手に嫌だと言わせない雰囲気のせいで私は兄の人形のままだ。

 肉親ということもあり、まだ許せるような、やはり一緒にいて見比べられて辛いような、何とも言えない複雑な気持ちになってしまう存在である。


 二軒ほど右隣に住む小塚優人は私と同じ公立潮田原高校に通い、一年生なのに生徒会長をつとめている。

 文武両道の優等生は忙しい日々を送る。誰にも弱音を吐かず笑顔を振りまく姿で先生だけならず生徒たちまでも魅了した。

 皆は表の優人しか知らない。裏の、本来の優人はいつまでも昔のことをネチネチと言う奴だ。ストレスのはけ口として私を利用する。

 話しているときにひどくつりあがる彼の口角に悪意を感じる。人間であることを否定されていると思うのは私の被害妄想である。

 優人は肉親ではない、完全な他人であるからこそ、私自身のコンプレックスを刺激するのだ。

 顔のことで父を恨んだこともあった。私が少しでも母に似ていれば優人の言う「俺に結婚しようって言ってたもんな」は嫌味ではなく自慢になっていたに違いない。

 偶然にも隕石か何かが優人の頭に落ちて、私との記憶がすべて消えてくれないだろうか。


 三人とも顔のよさと比例するように性格にやや難がある。ただ単に私をからかうのが好きなだけだろうか。そう思えないから私はすべてのイケメンに対し偏見を持ったまま生きている。

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