銃
銃はこの世界で割とポピュラーな武器の一つだ。
初代皇帝の時代に銃が開発された。
銃には火薬を使用するものや魔力を付加するもの等様々な種類が存在する。
初代皇帝は銃の開発と共に新しい娯楽として”サバゲー”と呼ばれるスポーツを開発した。
サバゲーは魔力の使用を一切禁止し、魔法で作られた特殊な弾を撃ち合うスポーツで、皇帝の発案という事もあり瞬く間に流行すると帝国内で一大ムーブメントを巻き起こし国技となった。
もちろんマルコも経験者だ。寧ろ趣味として大会に参加する程本気のサバゲープレイヤーだ。
冒険では剣を使用しているがサブとして銃も携帯しているのだ。
負傷したマルコだったが、傷薬が効き朝には動けるようになった。
日の出と共に起き上がり旅を再開する。
道を使わず林を抜ける。魔物の素材や薬草を手に入れ、且つチョコに戦闘を教える為だ。
マルコはまだ傷が完治していない為、戦闘を大方チョコに任せサポートに徹する。
チョコの潜在能力は凄まじいものがあるが全く上手く扱えていない。しかし、戦い方さえ覚えれば今にでも一人前の冒険者になれるレベルになるだろう。それ程までにチョコの潜在能力は高いのだ。
色々なものから狙われているチョコには自分の身を守る術を教えなければならない。
マルコはチョコにナイフを渡し、身体に防御力強化魔法を施した。
チョコはやる気満々にナイフを振り回し魔物狩りに臨んだ。
いきなり大蛇の毒を食らい戦闘不能になったチョコだったが、毒消しで何とか回復し、その後はマルコのアドバイスを吸収しメキメキと動きが良くなっていった。
『大蛇は毒飛ばしの前に溜めの動きがある』
『羽虫は素早い動きを読んでナイフを振れ』
素早い羽虫のフェイントやモスキート音には相当苦戦していたチョコだが、林を抜ける頃には軽々と倒せるようになってきた。
順調に林を突き進むマルコとチョコ。
夕日が茜色に映える頃、隣町トットに着いた。
「ふぅー、着いたぞチョコ」
「街?」
「おお、ここは田舎町だからのどかで安心だぞ」
魔物の素材や薬草を大量に背負い込んだ二人は冒険者証を見せて町に入る。
トットは製糸の町だ。蛾の魔物ボンバモスの繁殖地として有名であり、その幼虫であるシルクワームの繭から作る絹が特産物となっている。
シルクワームの繭は魔物の牙でも傷付かず、炎の熱にも耐える。しかし肌触りは柔らかく、その繭から造られる絹は高級の繊維として知られている。
シルクワームは野生で生息出来ないと言われるほど生活力の弱い魔物だ。主食はクワの木の葉だが木に登る事もままならない。もちろん攻撃力もなく外敵に襲われたら簡単にやられてしまう。
その為、トットでは町全体を挙げ、森を徹底管理しシルクワームを育成している。
シルクワームの成長期には、高い所に上るのが苦手なシルクワームの為に、餌であるクワの葉を地面に落としてやり、繭を作る時期になると再び森に入って繭を取り、魔法で三日三晩かけ繭を一本の糸へと解いていく。そして仕上げの処理を施し絹を製造する。町人はみな、仕事の片手間にシルクワームの世話に勤しんでいるのだ。
シルクワームの住む森には外敵はおらずクワの木だらけの森で、シルクの森と呼ばれている。現在は成虫の時期であり、森には成虫のボンバモスがあちこちで自由に羽ばたいている。起爆性の鱗粉を持つ魔物だが大人しく、刺激さえしなければめったに害はない。
町に入ったマルコ達は素材を売ってそれなりにお金を手に入れると宿を探しに向かった。
薬屋の店主のおばちゃんに貰ったリンゴ味の飴を舐めながらチョコも上機嫌で町を歩く。
宿屋への道の途中で服屋を見つけた。
未だマルコの上着を着ているだけのチョコに、しっかりとした服を買おうと思っていたマルコは服屋に立ち寄ることにした。
オレンジの灯りに照らされた店内にオーガニックなデザインの服が並んでいる。絹の産地だけあって服の質の良さが直ぐに分かる。
「いらっしゃい」
カウンターの奥の作業場で、店主であろう白髪の老人とその妻であろう老婆は機を織りながら笑顔でこちらを窺った。
客はマルコ達二人しかいない。
「すみません、この子の服が欲しいんですけど」
「まあ、可愛らしいお嬢さん」
「おお、こりゃ可愛い、萌えじゃ」
マルコ達に近寄る二人。
老夫婦はチョコの格好を心配して尋ねる。
「どうしちゃったのこの子」
「いや、なんか素っ裸で倒れてたんで...」
「まあ、大変!ご両親は?」
「いや、それが分かんないんです...」
「あら!早く警備の人に言わなきゃ」
「それが訳ありで...」
「あらあ...」
マルコは嘘が苦手だ。
微妙な空気が流れる。
「お嬢ちゃんこっちにおいで」
店主がチョコを呼ぶ。
チョコは黙って突っ立っていたが飴玉に釣られ店主の方へ向かった。
「兄ちゃん、誘拐は犯罪じゃ」
店主は諭すようにマルコに言う。
奥さんも心配そうにマルコを見つめる。
「いや!違いますよ!誘拐じゃないですよ!」
「出来心は誰にでもある。だが犯罪じゃ。
まだ間に合う。親御さんを探すんじゃ」
「だから違うんですって!
この子は、ほら!
狼に育てられた子なんですよ!
だからおれが代わりに育てようと、」
「じゃったらまず警備隊じゃろう
出ていけ!このオオカミ少年が!!」
「マルコは悪くない!!」
店主の後ろでチョコが叫ぶ。
「大丈夫じゃお嬢ちゃん。あの若造は、」
「いや!」
チョコは店主を殴り倒しマルコの元へ向かった。
マルコは気まずそうに老夫婦を見遣って事の真相を話し始めた。
「実は・・・」
チョコのフードを取るマルコ。
「な、なんと!」
「獣人、なんだそうです」
「・・・そうゆうことか。分かった。モリー、服を選んでくれ。」
「分かりました。ごめんなさいね、疑ったりして」
「すまんかったの、ロリコンてやつかと思おて」
そういうと老夫婦は子供用の肌触りの良い服を一式とフード付きマントを選んでくれた。
「お代は結構よ。この先どこへ向かうの」
「すいません、それは言えません...」
「そうね。分かった。今日はここに泊まっていきなさい。私達はあなた方を応援してるわ。」
「お世話になります」
一晩老夫婦の服屋に泊めてもらったマルコ達は翌朝出発する。
「マルコさん、チョコちゃんをよろしくね」
「チョコちゃん怪しい大人に近づいちゃダメよ。
これ持って行って。うちのお店に代々伝わるお守りよ」
チョコは奥さんのモリーさんからペンダントを貰った。
「困ったらいつでもここに来い。わしらもチョコちゃんの味方じゃ」
服屋の老夫婦に見送られマルコ達は旅立った。
と、その時
ボン!!
シルクの森の方で爆発音が響いた。
店主は直ぐその爆発音の原因を理解した。
「ボンバモスじゃ!森で何かあったんじゃ!」
マルコとチョコは老夫婦を置いてシルクの森へ向かった。