盗賊との戦闘
遠い意識の中で騒めきを感じた。
何者かに結界が破られたのだ。
はっと飛び起きて辺りを確認する。
夜は未だ深く、木々の揺れる音だけががざわざわと静かに響いている。
剣を構え警戒する。
奥の方でガサガサと聞こえてきた。
「すみません、お邪魔しました」
茂みの中から一人の男が現れた。
どうやらこの男性もこの辺で寝る場所を探していたらしい。
結界を破ってしまったことに気付いてわざわざ謝りに来たようだ。
年は三十くらいだろうか。見た感じ旅人だが小奇麗な身なりの人当たりの良さそうな男性だった。
男性は、
「旅ですか」
と尋ねてきた。
さらに男性は続ける。
「なんでも、今オルタノースで獣人が出たって騒いでるらしいですよ」
「ああ、聞いたよ。でもあれは東の森だよ」
マルコは何食わぬ顔で返す。
「でも獣人ですよ。どこまで逃げたか分からないですよ!とにかく身体能力が異常なんですよ」
「まあ...」
「あの、もし良かったらご一緒しても?」
えっ、うーーん
まあしょうがないか。
一人で野宿というものはこの世界過酷なものだ。なかなかゆっくりと眠れるものじゃない。仲間がいるだけで安心感が全然違うのである。マルコからしても仲間がいてくれた方が有難い。
「どうぞ」
と言うと男はホッとしたように
「ありがとうございます!いやー、旦那が良い人でよかった。
この辺泊まるの怖かったんですよ。
困ったことあったら何でも言ってくださいね。おれ先見張りしとくんで旦那はまた寝てて下さいよ。
じゃあ、結界直してきますね!」
と言って林の中に消えていった。
ふぅっと息を吐いてマルコもテントへと戻っていった。
相棒も出来たしこれで少しは安心して寝れるな。
マルコは寝っ転がった。
しかし何やらあの男に違和感を感じる。
警戒しすぎか。
マルコはテントの天井を眺めながら耽る。
また寝てて下さいよ?
...また?
バッと飛び起きて男が消えていった方を睨む。
男の姿は見えない。
マルコは木の陰に潜み様子を窺う。
暫くすると人の気配を感じた。一人ではない。複数の気配が周りを取り囲むように移動している。
一人がマルコのすぐ傍を通過する。
サッ
その一瞬でマルコはそれを仕留める。
グハッ!という呻きが辺りに響く。
異常を察知した集団は足を止めた。
その瞬間、また一つ呻き声が響く。
強盗気満々だった盗賊達は突然の敵襲に動転した。
__獣人族か?
辺りをきょろきょろ見渡して警戒する。
二つ目の呻き声がした方を警戒していた盗賊Cがマルコの姿を捉えた。
が、その速さに反応する間もなく斬られる。
三つ目の呻き声が響いた。
業を煮やした盗賊Dは大声を張り上げた。
「おらぁ!来るなら来いよぉぉ!獣人だか何だか知らねえが正々堂々来いよ!こらぁあ!」
叫んでいた盗賊Dはマルコの姿を見る事もなく上から叩き切られて死んだ。
マルコが次の敵を探していると叫び声が聞こえた。
テントの横に見覚えのある男がいた。
旅人のような格好をした三十代男性が少女を抱え、顔には笑みを浮かべている。また、男の手にはナイフが握られている。
少女は泣きながらマルコの名を叫ぶ。身体をロープで縛られている。
マルコはテント前の広場に姿を現し、男を睨んだ。
「いやー強いですねぇ。さすが旦那だぁ」
「なぜその子がいる事を知っている」
テントの中など見ていなかったはずだ。
「ふふっ、街で見かけたんですよぉ。何かから逃げるよう走っていくお二人を。気になったんで見てたらこのケモノ耳が一瞬見えた」
高らかに笑いながら盗賊のリーダーは続ける。
「これを首都で売ればどえらい金が手に入る。下らん盗賊業ともおさらばだぜ!ふはは!!」
「その子を放せ。殺すぞ」
「ふん、こっちのセリフだ。剣を捨てな」
「殺したら売れないだろ。その子を放しな」
「ふん、まあいい。後ろを見な」
そんな子供騙しに釣られる訳がないマルコは微動だにせず盗賊を睨むが、
「マルコ危ない!」
というチョコの叫びで後ろを振り返る。
盗賊Eが襲い掛かってきた。
間一髪で躱したマルコだが、リーダーも加勢し2対1となった状況でリーダーのナイフがマルコを突き刺した。
マルコは反撃の剣を返すがリーダーはひらりと躱す。
片膝をつき脇腹を押さえるマルコ。傷は深い。更に盗賊Eが襲い掛かる。必死で受けるマルコ。
リーダーが追い打ちに加わり止めを刺しに行く。
隙だらけのマルコの脇腹をリーダーのナイフが襲う。
不可避の一撃に悲壮のマルコだったが、
その瞬間、嗤った。
「後ろ見な」
突然の後ろからの衝撃にリーダーが吹き飛ばさた。
身体を腕ごと縛られていたチョコだが足は動く。
渾身の頭突きが決まった。
5メートル程吹き飛ばされたリーダーを横目にマルコは盗賊Eを仕留めた。
「助かったよ」
満身創痍のマルコは笑ってチョコのロープを切ってやる。
チョコはマルコの傷を心配している。
傷は深いが、致命傷とまではいっていない。取り敢えず傷薬を塗り込み止血する。
ゔぅ
盗賊のリーダーが目覚め、ゆっくりと起き上がった。
そして、マルコ達が怪我の治療をしている様子を見ると、その隙によろよろと逃げ出した。
マルコはそれに気づいたが追いかけることは出来ない。
奴を逃がすと後々厄介になるだろう。
マルコは徐に腰から拳銃を取り出し、盗賊のリーダーに向け発砲した。
弾は命中し、盗賊のリーダーを見事に仕留めた。