星の降る空の下
店を出たマルコ達。
駆け足で夜の商店街を抜けながら、マルコはアルカドアまでのルートを考える。
オルタノースからアルカドアまで約1500㎞程の距離がある。
二人のいるエーカ帝国は広大なのだ。ヨーロッパとロシアを足した程の領地を有している。
今から約300年前、強大な魔王との大戦の為、国々は協力し連合国が創られた。激戦の末、魔王を倒し、連合国は一つの帝国となった。魔王を倒した英雄アイゼンが最初の皇帝となる。魔王を滅ぼした土地エーカに因み、エーカ帝国と呼ばれた。
人々は活気付き帝国は栄えた。初代皇帝アイゼンは為政者としてもその手腕を発揮し、特に食、娯楽の分野で革命的に国民の生活を変えた。その功績を讃えられアイゼンは”エーカの神”の称号を与えられた。アイゼンの死後もその息子が皇位を引き継ぎ、益々国は発展する。
しかし、アイゼンの息子に子供は出来ず、息子の死後、皇帝の右腕として力を握っていたティティウスが皇帝に即位する。そして、その息子カリウス皇帝の時、少将アルバ・レオライルによる獣人族の反乱が起きる。時の皇帝カリウスはこれを鎮圧。獣人族を野蛮で危険な種族として迫害した。
その後カリウスは、遠征を繰り返し領土を拡大していく。しかし、奪った領土を貴族が独占した為、貧富の差が拡大し、民衆の不満は募っていった。
そんな中、貴族中心の政治に不満を持っていた南方総督、中将グラムが立ち上がる。グラムは庶民派の軍人でアルバとも交友のある人物だった。グラムの反乱によってカリウスは打ち取られた。
そのままグラムが皇帝に即位すると、カリウスが奪った他国の土地を返還、土地の独占禁止等、格差対策に尽力し、国は再び活気に溢れた。しかし、土地を失った貴族一派の手によってグラムは暗殺される。
こうして、エーカは混乱の時期を迎えるのだ。
その後も皇帝は3回変わったが庶民の生活に然程変化はない。ただ、現在の皇帝イエタは暴君と言われている。若い頃は国民思いの賢帝として慕われていたが、時が経つにつれ傍若無人に権力を振りかざす暴君と化していった。
◇◇◇◇◇
取り敢えず早く街を出ないとな
本当は道具とか金とか必要なものをいろいろと準備してから行きたかったが仕方ない。
来た道を逆走し、西門に付いたマルコ達は、冒険者証を門番に見せ、街を出た。西門の警備は未だにゆるい。
そのまま林道を西に進み、隣町を目指す。
暫く林道を歩き、その日は林の中で野宿する。
人目に付かないように、道から外れ、少し開けた場所を見つけ、そこにテントを張る事にした。
テントの周りに簡易の結界を張る。弱い魔物を寄せ付けない程度の結界だが、大切なのは破られたら分かる事だ。
この辺りにそこまで強い魔物がいない事は知っている。怖いのは人だ。盗賊や、今なら獣人を狙っている輩が現れるかもしれない。
テントを張り終えると、チョコに薪を拾ってもらい、マルコは狩りに行く。
マルコが帰ってくると、テントの横で草をムシャムシャ食べていたチョコが、ひぃッ と声を漏らして引いた。
マルコの手には2匹のリスの様な魔物がぶら下がっている。
スクワラッタという魔物で、見た目はほぼ若干大きいリスだ。しかし、れっきとした魔物で、魔力を持ち、極稀に人を襲う。
まあ、よっぽどの事がなければスクワラッタが人を襲うことはないが。
獲物を上機嫌で自慢するマルコであったがチョコは引いている。
最初のスクワラッタの皮を剥いだ時、チョコはさっきまで食べていた草を吐いた。
そのままテントの陰に隠れブツブツと暗い目を向けるチョコを尻目にスクワラッタが2匹こんがりと焼ける。
「焼けたぞ」
マルコが呼んでもチョコは答えない。
ただ芳ばしい匂いが鼻を刺激し、自然とおなかが鳴る。
それを美味しそうに頬張るマルコを見つめるチョコの口からは涎が溢れていた。
マルコがチョコに歩み寄り、串に刺さった肉を勧める。
肉は食べやすいように細かく切り分けられている。
芳ばしい香りにつられチョコは、見様見真似に肉にかじりついてみた。
・・・!
美味しいッ
何これッ
初めて食べる肉の旨味が全身に広がり、満面の笑みをマルコへ向けた。
そのままガツガツとスクワラッタを一匹平らげた。
マルコも満足そうにそれを眺めながら、串までいこうとするチョコを窘める。
山菜の鍋を二人で頂き、少し片づける。
食べ終わったら寝るように言って、マルコは外で見張りをしようとするがチョコがマルコから離れようとしない。
仕方なく一緒に見張りをすることにした。
マルコは胡坐をかいて座り、膝にチョコが寝そべっている。
スクワラッタの骨をずっとしゃぶっていた。
二人は夜空を見ていた。
チョコはこんなに開放的な夜空を見たことがない。
雲は無く、満天に輝く満月の夜だっだ。
初めて見る美しい夜空にチョコはキャッキャと騒いでいる。
「あの一番大きいのが月!?」
「そうだな。なんか月の模様がお前の耳みたいだな」
「あッホントだ!じゃあアレわたしの星ね!」
「でかいなーお前の星」
「マルコのはね!あれ!あの3つ並んだやつの下にある小っちゃいやつ!」
「なんで小っちゃい奴なんだよ!」
「じゃああの赤いやつでいいよ!」
自分のが一番大きいから気前がいいチョコ。
なんだかんだマルコも納得して星を眺めた。
暫くそうして眺めていると、一筋の流れ星がゆっくりと流れた。
チョコはいつの間にかすやすやと眠っている。
マルコはチョコをテントに寝かせ、そのまま自分も眠ることにした。