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一人と一羽  作者: to_oy
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情報屋

「あんたも獣人族の反乱は知ってるわよね。」


リタリーは切り分けたリンゴを二人へ出しながらマルコに話しかける。


「一応。獣人が人間に戦争を仕掛けて敗北した。で、その結果、種族は滅ぼされた。」


「そうね。ただ、実際はその戦争の発端に裏があるの。

歴史では帝国軍小将だった獣人族アルバ レオライルが、己の力を過信して帝国に反旗を翻した。とか言われてるわよね。でも違うわ。本当の理由は、裏社会での獣人族の奴隷制度よ。

獣人族の部下やアルバの奥さんまで貴族の奴隷にされたの。

それを知ったアルバは単身、城に乗り込んだ。

でも、それが当時の皇帝カリウスの罠だったの。

カリウスは、アルバに嫉妬していたのよ。数々の戦場で武勲を上げ、破竹の勢いで出世したアルバは多くの人から慕われていたわ。最初はその活躍に喜んでいた彼も段々面白くなくなってきたのね。

下手をしたら自分達の立場が脅かされるかもしれないと考えたカリウスはアルバを罠に嵌めた。

城に乗り込んだアルバ一人に対して5千人の親衛隊が待ち構えていたのよ。

そこでアルバは、無念の死を遂げたわけね。」



シャリシャリシャリシャリ 



無言の店内にリンゴの咀嚼音だけがこだまする。



「アルバの勢いは凄まじかったわ。

5千人の親衛隊をなぎ倒しながらカリウスのいる玉座の間まで辿り着いたの。

そこで、カリウスは卑怯にも奴隷となった獣人達を盾にしてアルバを止めたわ。

...アルバの反乱をきっかけに、帝国は獣人族を危険と判断して獣人族は皆処刑されたの。」


「そんなの完全に帝国が悪いじゃないか」


マルコが興奮気味に食いつく。


「そうね。ひどい話よ、ホント。獣人狩りって言って罪も無い獣人達がみんな処刑されていったわ。」


「戦わなかったのか?獣人達は」


「戦ったわよ。でも元々そんなに数がいる種族じゃなかったし、帝国は用意周到に獣人達を処刑していった。帝国の策略に獣人達は為す術も無かったわ。アルバの強さは獣人族でも特別だったの。」


くそ、帝国め!


「兎に角、獣人は見つかったら処刑される。それが今も帝国の法律なの。

あんたどうするの。チョコちゃんを守るのは大変よ。」


「事情は分かった。知ったら尚更だ!

誰が相手だろうと俺はチョコを守ると誓うぜ。」


マルコはむしろ熱くなった。


...「ここからだいぶ西になるけどアルカドアに向かいな。

アルカドアの北に大きな森があるわ。そこにエルフが住んでいる谷がある。精霊の谷と言われる場所よ。

あそこならあなた達を守ってくれるでしょう。」


「アルカドアか。分かったありがとうリタさん。」


マルコが言い終わる前に突然、リタリーがキリっと短く囁く。


「フードを被せな」


一拍もなくギィと扉が開く。



「いやー、リタさん、獣人が出たんだってよ。」


男は疲れ切った感じで入ってきた。


間一髪、咄嗟にマルコはチョコにフードを被せたところだ。


大柄の男は先客のマルコ達を一瞥し、カウンターへと近づいてくる。


男の名はマシュー。年齢は40代前半で身長は180後半といったところだ。

チンピラから賞金稼ぎになった男だ。

草臥れた帽子にマントを纏い、まさに荒野のガンマンといった格好だ。

髪はぼさぼさで無精ひげも生えているが、腕は一流の賞金稼ぎだ。

腰には商売道具の魔導銃がぶら下がっている。


「おぅ坊主!獣人て知ってっか?何でも人を食っちまうらしいぜ!」


カウンターの一席に座りながらマシューが話しかけてくる。

そこで奥のチョコに気付く。


「ん?そうか、お前ら親がいねえのか。頑張れよ!妹守ってやんだぞ!ジュウジンは怖えぞお!」


勝手に話を作ってマシューは納得する。

そして、リタリーに向き直って要件を話し始める。


「マスター、武器商人のガゼッタの野郎が獣人を見たんだってよ。

10歳ぐらいの女の子で、金髪で、茶色い服だ。

丁度そこの嬢ちゃんみたいな感じだな。」


危ない流れに、リタリーが透かしながら答える。

「あたしも聞いたよ。東の森に逃げ込んだんだろ。怖いねえ。」


「ああ、」

と、頷きながら急に何か気付いたように、マシューは二人をじろじろと見だした。

マルコは目が合わないように俯く。

マルコの反応を窺うようにマシューは続ける。

「何でもガゼッタの証言じゃ初めに見つけたのはマルコって少年で、こちらもまだ見つかっていないらしい。」


マルコは激しく発汗した。席を立った方が良いか、だが逃げ切れるのか。


「少年、名前は?」


マズい。マルコは俯きながら咄嗟に答える。


「あ、え?名前ですか?

えーと、、ボ、ボブです」


「ほう、じゃあ奥の少女は?」


「えーーと、キャサリン、です。」


思いっきり狼狽えながら答えるが、それを待たずにマシューが腰の銃を取り出し、素早くチョコに向かって銃を構えた。

チョコは驚いて後ろへ飛ぶ。


勢いでフードが脱げ、ケモノ耳が露わになった。


「ビンゴ!」


マシューは笑みを浮かべ、トリガーを引き、催眠弾で獣人の少女を捕獲する...





__はずが、動かない。トリガーに掛けた指がピクリとも動かなかった。


マシューが戸惑っていると、リタリーが叫んだ。



「アンタ!!うちで騒ぎ起こしたらタダじゃ置かないよ!!」



どうやらリタリーに動きを止められたらしくマシューはリタリーを目で追う。

マルコは情報処理が追い付かずに椅子の上で固まっていたが、チョコは無事で、リタリーが怒鳴り散らしている。マシューは未だに全く動けない。


この隙を逃すまいと、瞬時にマルコはチョコを連れてさっさと店を出た。

絶対絶命のピンチをリタリーに助けられた。


リタリーの店で騒ぎを起こすのは御法度だ。


只者ではないと思っていたけど、めちゃくちゃ強いんじゃないかあの人...



兎に角、二人は西を目指す。エルフの住む精霊の谷を。



おばちゃんが最強です。

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