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2話

ずらし作業中加筆修正も

 翌日、いつの間にか寝ていたのようで朝の日差しと人肌以上の熱さからくる寝苦しさで目を覚ました。


 何故かファイアが俺のベッドで寝ていた、何故だ両親よ、姉さん代わりなら姉さんの部屋を残してるんだから使わせたらいいじゃないか。


 いや姉さんの代わりじゃないから俺の部屋……?

 それはおかしいだろう。


 そして思考は遮られる。


「おはよう、ジン」


「おはよう、ファイア」


 挨拶をするとビクッと震える、何なんだろうなこの反応、話しているとたまにするが、もしかして。


「ファイア、ファイア、ファイア」


「ん!?」


 ビックリしたように飛び上がり、体を震わせ悶えている。

 なんだこれ、名前を呼んだらそうなるのか?


 その時頭の中に人化魔法の説明がよぎった。

 魔法を人化した場合その魔法名を口にすることで魔法を使った時と同量の魔力を消費し、魔法に魔力を与えることができます。


 か、つまるところ魔力の供給を三倍してこの反応というわけか。

 別に悪いことでもないしいいか、というかこまめに魔力を供給しないと体が保てないのでは?

 そんな風に思っていたら呼吸を整えたファイアが体を起こし文句を言う。


「ジン、私の名前を呼ぶのは一日一回にして、じゃないと私、破裂、というか爆発するから」


 爆発というか暴発なんだろう、というか一回でいいのか気を付けよう。


「悪かった、けどそれなら何て呼べばいいんだ?」


 姉さんと呼ぶわけにもいかないしな、困った。


「おーい、とか、お前とかでいいじゃない? 私は魔法なんだから呼ばなくてもなんとなく伝わるし」


「そんなもんか」


 俺たちが起きて台所へ向かうと既に両親は起きていた。


「おはよう」


「あら、おはよう」


「おはよう」


「おはよう、なんで俺の部屋で寝かしたのさ」


 ファイアを……と言えないのは大変だな、家族だからギリギリ伝わるとは思うけど。


「ああ、それなんだが、フィアの部屋はしばらく清掃してないし埃を被っているだろうから今日母さんが掃除をしておくからそれまで外で時間を潰して来なさい」


 そういって親父は二人分のパンを突き出してきた、いやファイアにパンは要らないんだけど。


「行くのは構わないけど、また一人増えるかもしれないからよろしく」


「え? 増やすの?」


「うん、昨日たまたま魔法書を貰ってね、試してみようかなと」


「ほどほどにしなさいよ、自分の魔法だからってあんまり使いすぎてもうちの広さは変わらないんですからね」


 応援はしてくれても流石にそこは譲れないよな、自分で稼げるようになったら家を買ってここを出るべきだろう。


「そうだぞ、多少お金はうちだって普通のところに比べたら裕福ではあるが、何人もぽんぽんと増やされても困るぞ」


 そんな節操無しなつもりはないしそもそも魔法書なんて滅多に手には入らないぞ。


「分かっている、そんな事より親父、時間は大丈夫なのか?」


 親父は山の向こうにある王都で聖騎士として働いている、何かあればすぐに王の元へとはせ参じるお仕事だ。


「ああ、大丈夫だ、陛下の身に何かない限りは急がない」


 それでいいのかよ聖騎士。


 パンを受け取った俺はファイアを引き連れいつもの裏山に来た、昨日ゴブリンが出たということは何だかんだうやむやになって言いそびれているが今の俺にはファイアがいるから大丈夫だろう。


「ヒールを人化するの?」


 ああ、その為に来たんだ、俺は持っていたパンをファイアに預け、昨日貰った魔法書を取り出すと一先ず呪文を唱えてみた。


「癒しの光よ、かの者を癒せ、ヒール」


 ぐーっとなってすーっと消えたな、ファイアと感覚は違うがやはり明確にこれでは発動しないのだという実感が持てるようになっている。


「ダメね、けど魔法が発動した形跡はあるわよ?」


「なんだって?」


「発動するものの魔力を消費できずに霧散していく感じね」


「それっていうと……?」


「パーソンが阻害しているみたいね、発動こそするも魔力を消費しない矛盾、だからかしらね、貴方の魔力が濃く多いのは」


 魔法は使えば使うほど上達するし、魔力もそれに合わせて増えていく、しかし使える限度があるため人一人の一生の内には今の俺の半分も増えやしないらしい。


 だが俺の場合魔量を消費しないため熟練度は上がるが限界には至らないという稀有な状態にあったため二十倍という莫大な魔力を得たのだという、常人の二十倍か。


「ま、どのみち最初は何度も呪文を唱えて使い込まないと私みたいにはならないわよ」


 それは一朝一夕でどうにかなるものでもないと思うんだけど。


「俺はこれまで七年間繰り返してきたんだけど、また七年もかかるっていうのか?」


 それではすぐに増やせるわけじゃないな。


「流石にそんなにはかからないわよ、パーソンを使おうと思ったのが昨日より前でも使えるのは使えたはずよ」


 姉さんの魔法を使えるようになったときまた姉さんに会えるのでは、みたいな事を考えていた俺に人化魔法を使おうなんて考えは一切湧かなかったから土台無理な話だ。

 結果的に姉さんと瓜二つの魔法と出会えたのでもっと早くそうしていればよかったと思うが。


「じゃあ何回やればいいんだ?」


「とりあえず、魔法名だけ連呼してみて?」



 えっと、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール……。


 ――――ヒール、ヒール、ヒール、ヒール。


 ヒール、ヒール、ヒール。


「待って、多分今ならいけるわ」


 ヒール素振りすること316回、……気づけばそろそろ昼頃、そういえばまだパンを食べてない。


「先に昼食にしないか?」


 と言ってもパンをかじるだけ、味気ないものである。


「そう? じゃあ、はいコレ」


 ファイアからパンを受け取るとほんのり温まっておりほのかに焼きたてのパンの匂いがした。


「ファイア、パンに何かしたか?」


「別に大したことはしてないわ、ただ少しの加熱と保温ぐらいね、火の魔法の副作用なものよ」


 今朝やけに寝苦しかったのもそれか?

 やはり部屋は別に寝るべきだな。


 とりあえずパンを頬張り、噛み千切る。


「うまい」


 昨日から何も食べていなかったとはいえこれほどパンがうまいと思ったことは今までなかったように思える、そもそもここ七年間まともに食事を味わった覚えがない。

 二個あったパンはあっという間になくなってしまった、晩御飯はなんだろう、帰るのが楽しみになったけど、先にヒールだな。


「さて、呪文、呪文はーっと」


 頭の中の人化魔法の呪文をひねり出す、前回のファイアは半分事故みたいなものだったが本来なら魔法を人化させるための特殊な呪文があるはずだ。


 えっと、これかな?


「生命の光よ、癒しの光、我が意を包み、現れよ、ヒール!」


 魔法書を手放すと魔法書が光に包まれ人の輪郭を作り出す。

 金髪に翡翠のような色した目はヒール屋さんと変わらないが癖毛ではなさらさらとしたストレートヘアで服も修道服を薄着にしたような姿だ。


「怪我人はどこですか?」


 開口一番これだ、ヒール屋さんもこんな感じだったのだろうか。


「悪いな怪我人は居ないんだ、ただ今後怪我する時君が居てくれたら助かると思ってな」


 外に出稼ぎに行くことを想定した場合基本的に魔物退治などをやることになるはずだ、その場合回復要因が居れば安全にお金を稼ぐことが出来るだろう。

 ヒール屋さんが魔法書をタダでくれて本当に助かった、けどこの先ヒールより上級の治癒魔法を覚えるためには腕を上げてヒール屋さんに認められなければならないらしいんだけど。


「君は上級の魔法とか使えたりするのか?」


 彼女は魔法そのものだ、修練などせずとも上位の魔法が使えたりするのではないか?


「無理ですね、確かに私はヒールの魔法ですがそれ以上の魔法は記されておりません」


 なるほど、ファイアは姉さんの魔導書を核としヒールはヒール単体のみだからそういう扱いか。


「じゃあそっちはどうだ? 姉さんの魔導書ならたくさん書いてあっただろう?」


「そうね、記されてはいるけど、ジンが私をたくさん使って上達して上の魔法を唱えたら使えるようになる……みたいね」


 簡単な話ではないということか、魔導書なんておいそれと手に入るわけではないししばらくは地道に集めて行こう。


「ならそれはまた今度にして一旦家に帰ろうか、そろそろ部屋も綺麗になってる頃だろう」


「そうね」


「はい……ところで私は貴方を何とお呼びすれば?」


「ジンだ、それからこっちが……」


「言わなくても分かると思うけどファイアよ」


「私はヒールです」


 知ってる。


「ヒールです」


 呼べって事か? けど魔力供給は一日一回じゃ……ファイアにアイコンタクトを取っても呼んであげたらいいじゃない、みたいな感じである。


「えっとヒール」


 そうつぶやいた瞬間ヒールは胸元で手を組み神に祈るポーズを取った。

 なんだこれ……。


「失礼、感極まりました」


 ああそう……ともかく今は家に帰ろう。

 そう思い踵を返そうとしたところ、ガサガサっと奥の茂みから物音がした。

 振り返るとそこには。


「ゲラッハッハッハ」



 五体のゴブリンが現れた――――!

ヒールがビールになっていた箇所を修正お茶目誤字など流行らないのであった。

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