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1話

落ちたからずらし作業、ついでに加筆修正

 燃えるような少女に見下ろされながら俺は思った。

 人化魔法ってこんなのだっけ?


 人化魔法、あらゆる物に生命を与え、生命があるものなら人の形と術者の知識や常識を分け与える魔法。

 故に人化したものにはその知識とじん化前の欲からくる欲望があり、それを叶えるという交渉を行い使役に近いことをするのが人化魔法だ。


 間違っても人化したてでこちらの味方をするような存在は作れない、はずだ。契約魔法とか使役魔法といった物を別に使用した場合は別とか聞いたが自分で使用するとか一度も考えてなかったので詳しくは調べていない。

 人化魔法だと聞いて来た知人が語ってくれた内容だ、だから俺はその人に「じゃあ、人化魔法は使わないな」と言った覚えもある。


「大丈夫? どこか怪我してる?」


 姉の面影を宿す少女が顔を覗き込んできた。


「大丈夫だ、えっとその、君はファイアの魔法、ということでいいのか?」


 そういうと彼女の体が一瞬ビクッと震えた、なんだ?


「え、ええそうよ、私があなたの魔法よ」


 俺の魔法? それはないだってその魔法は姉さんの魔法だ。

 俺は発動すらさせれなかった。


「何か勘違いをしていないか? 俺の魔法は人化魔法であってファイアは発動もできなかったぞ」


「ん、いえ私は間違いなくあなたの魔法よ、確かにファイアは使えなかったかもしれないけれど人化ファイアである私は発動した、そういうことよ」


 ちょいちょい震える少女が言うには人化ファイア、あくまで人化魔法の派生だという。


「じゃあ何か、お前は俺に使われるという意志が最初からあるのか?」


 火の魔法は攻撃魔法、敵対者を滅ぼす世界の意志というものが宿るとされている、故にゴブリンが炭になったのは理解できる。

 だが術者に反しないという意志が果たして魔法にあるのか、分からない。


「んーそうね私は魔法、だから魔力がないと体は維持できない、でその出処はあなただから私はあなたのものなの」


「なるほど、それは理解したがなぜ姉さんと同じ顔……いや、似ているんだ?」


 これほどに成長した姉は知らないのではっきり同じとは言えなかった。


「んーんー、そもそも君の始まりの魔法はパーソンだっけ? でお姉さんの魔法が私かぁ、じゃあ私がお姉さんに似てても仕方ないね、パーソンは基本的に術者か製作者に似るから、武器とかのパーソンは作った人使ってた人に似て動物とかは雌雄こそ動物の頃のだけど容姿は術者に酷似するよ、で私の場合そもそもがお姉さんの始まりの魔法だからこの姿になった、かな」



「それじゃあもし俺が他の人の魔法を人化させたら?」


「十中八九その人の姿になる」


 店売りの魔法書は買わないようにしなければ、見ず知らずの人を近くに置くのはちょっと気が引ける。


「食事とか衣類とかは?」


 人化魔法の基礎鉄則衣食住の確保、しかし通常服なんて着てなくて全裸になると聞いていたが、ファイアは最初からドレスを着ていたな。


「魔力でいいから食事は必要ないし服もこれ以外は多分着れと思うからいいわ住むところは流石に用意してもらわないと」


 家にか、連れて帰るのは構わないが母さんたちの反応が気になるな、俺だって初見で姉さんと見間違えたんだから。

 街へ戻ると早々にカイで出くわしてしまった。


「おいジン、てめぇいい女つれてるじゃねーか」


 目ざとくファイアを見つけたカイは両手に抱いていた女たちを離してこちらにやってきた。


「おいどこで手に入れたんだ……よ? おい、オイオイオイオイマジかよ、こいつフィアじゃねーか! 今までどこに行ってたんだよ!」


 そうだ、こいつは姉さんがどこかに行ってしまったと思い込んでいただからファイアを見たら姉さんが帰ってきたとか抜かしそうだな、すっかり忘れていた、というか似てるだけの別人だけどよく気づいたな。


「カイ、こいつは――――」


「こうしちゃいられねぇ!!」


 姉さんではないって言おうとしたがなんかいきなり走り去っていった、女たちは慌ててそれを追う……なんだったんだ?


「ご主人様、今のは?」


「ああ、あれはカイっていう……ご主人様? なんだそれは?」


「ん? まだ名前も聞いてなかったし立場的に言えばご主人様かなってマスターとかの方がいいか?」


 確かに人化魔法使いは人化した相手にご主人様とか言わせる奴が多いが、ファイアは姉さんに似ているからそんな呼び方されたくはない、例え別人だと分かっていてもだ。


「俺はジンという、ジンって呼んでくれて構わないから」


「わかったわ、ジン」


 姉さんっぽさが増した。


 それから少し進むと何やら人だかりが出来ていた。

 看板もあるな、なになに……出張ヒール屋さん?


「えー、怪我、肩こり、腰痛、とにかく体が痛いという方はいませんか? 今なら無料ヒールそしてこのヒールの魔法書をお付けします」


 変わったことをする人もいるんだな、魔法書売りみたいな人はたまにいるけど自分でも使ってさらに配るなって頭がおかしいとしか思えないぞ普通は。

 それでも人が寄ってくるのはヒール屋さんが美少女だからだろう。

 金髪のくせっ毛に翡翠のような目に眼鏡をかけた修道服の少女それがヒール屋さんだ。


「そこの君! 腕怪我してるじゃない!?」


 ヒール屋さんを観察していると声をかけられた、え? っと思い腕を見てみると確かに袖に血が滲んでいた、恐らく魔法を失敗したと思い崩れ落ちた時に何かに引っ掛けたのだろう。


「癒しの光よ、かの者を癒せ、ヒール」


 いきなり魔法を使って俺を含めて周りにいる全員を一瞬にして癒した。


「おお! 腰の痛みが!」


「肩が上がるぞ!」


 俺の出血も止まっている、服は破けてはいるがこの程度なら母さんが縫える。


「ありがとう」


「うんうん、ならハイ、これ次は貴方がみんなを癒す番だ!」


 渡してくるのは姉さんの魔導書のような本ではなくヒールのみが記された紙だ。


「それを覚えて上達したらまた私に会いに来て、それしたら上位のヒールのもあげるから、それじゃあね!」


 なんか嵐みたいな人だったな、足早に去っていきながら怪我人などを見かけるとその都度癒して回っている、ヒールの書を渡すのも忘れず。

 ヒールなんて渡してもこいつじゃ無理だろ、みたいな陰口が聞こえてきたので足早に家に帰った。


 家に帰ってみるとどうやら親父は外出中で母さんはいるらしい、だがいきなり合わせると混乱するだろうから先に話しておかなければ。


 玄関先にファイアを待たせて帰宅。


「ただいま」


「あら、おかえり……今日は早いのね」


 もう諦めたのかという含みを感じる、親父はそんなことないが母的にはもう諦めてもいいと思っているようだ。


「今日はちょっと色々あってね」


「何があったの?」


 俺が早く切り上げてきた理由に興味を持ったようで近寄ってきた。


「いつもの場所にゴブリンが出てきて……」


「ゴブリンですって!? 大丈夫なの?」


「見ての通りだよ、で、やむを得ず人化魔法を使って」


「まぁ……」


 申し訳なさそうにいう、母さんの反応といえば昔姉さんが猫を拾ってきた時に似てるな、あの時は結局飼おうとしたが猫が逃げてしまったのでとくに問題にはならなかったんだけど。


「それで、人化した子を連れてきたんだけど……」


「そうなのね、それじゃあ貴方が責任取らないとね、火の魔法も諦めて、自分の魔法を大切にしなさいな」


 うん、それが諦めることにはなりそうだ、今のファイアの核とも言えるのが姉さんの魔導書だ、取り出すこともできないし、俺が人化魔法以外を使うことは出来ないらしい。


 俺に許されている魔法は他人の魔法を人化させるそれだけらしい、一応それらは俺の魔法という扱いになるといえばそうだから全ての魔法が使えると言っても過言ではないが。


「俺の魔法は大切にするよ、で、紹介したいんだけどいい?」


「ええ、いいわよ、いきなり連れてきたらびっくりするけどそういうことならいいわ……連れてきなさい」


 母さんの承諾は得られた……けど実際合わせたら卒倒とかしないかな?

 ともかくファイアを連れてこようと外へ向かおうとしたら――――。


「フィア! フィアなのか!?」


 親父の声だ、帰ってきたのか……そんな大声で叫んだら――――。


 母さんも飛び出していった。


「フィア!? 本当に? 嘘よあの子は七年前に死んでしまったのよ?」


 遅れて外に出ると混乱した両親に挟まれてどうしたらいいのか分からないファイアがおろおろしていた。


「二人共、説明するから中に入ってよ……」


 外に出て三人の背を押し家の中へと追いやる。

 それから親父に先ほど母さんにもした説明をし、ファイアが姉さんの魔導書が人化した姿だと言う。


「じゃあ本当にフィアではないのか……」


「ええ、私には貴方達の娘だったという記憶はないわ」


「そう……けどファイアさん、だっけ? 息子の魔法ということはうちの子になるんでしょう?」


 そういうことにはなるな、無論姉さんの代わりというわけではない。


「そうだけどさ、ファイアはファイア、姉さんは姉さんだろ?」


「確かにその通りだ、彼女はフィアではない、それはわかった、そしてお前が自分の魔法と向き合う決心がついたということになるんだろう?」


 そうだ、結果的に俺には人化魔法しかないということが判明してしまった、それは俺の頭の中に蘇った人化の呪文やその使い方、応用、対象の制限などを把握できるようになったことで決心というより諦めに近いものだが、確かに今、それがある。


「では我々も家族としてそれを支えよう」


「ええ、ファイア、貴方も私たちの娘同然よ」


 姉さんではないが俺の魔法ならばそう扱うと、それは姉さんの代わりではないと言えるのだろうか、けれどこの先生きていくにはしばらくはここに住まなければならないだろうし、今はまだそれで良しとしよう。


「わかったわ、それで私は二人をなんと呼べばいい?」


「親父は父さん、母さんは母さんでいいぞ」


 俺は親父のことを父さんと呼ばなくなって久しいが。


「じゃあ、父さん、母さん、よろしくね」


 ファイアが二人に頭を下げ、それに釣られて涙をこぼしながらファイアを抱きしめる二人を見てしばらくそのままにしとこうと自室へと向かった。


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