第九十八話
外では人目があるので止めていたが
隠れ家では、もう遠慮は要らない。
俺はゲカイに、この二人に掛かっている
幻の解除をお願いした。
パシュ
見た目には何の変化も無いが
デビルアイで捉えた二人の内部構造は
義体だったので俺は指を延長して
二人の魔核を拘束する。
「変な気を起こせば即つぶす」
そう念を押し、二人を席に着かせる。
「えー、ではいつくつか質問を
二人は魔神13将で間違いないかな」
二人は神妙に頷く
「どっちがどっちだ」
俺の質問に二人は顔を見合わせる。
ん
何か意外だったか。
「わ私が幻のダッソです。」
ダリルと名乗った店長がそう言った。
「私は磔のジュノです。」
有能セカンドのジュリエットはそう言った
後、恐る恐る俺に尋ねてきた。
「あの、アモン様、最初から私たちの
事を見抜いていたのでは・・・・。」
ん
質問するのはこっちなんだが
まぁいいか
「いや、対応が変だったから疑った
ゲカイの名前で反応したろ、それで確信した」
また二人は顔を見合わせる。
今度はダッソが聞いて来る。
「では、入店してきた時の威嚇は」
「威嚇?」
そんな事したか?
その疑問には横からチャッキー君が
答えてくれた。
「アレっすよ。俺が世界を~の時
漏れ漏れだったじゃないすか」
そのオーラがなんでも
威嚇的でしかもアモンだぞーって
すごい主張しているオーラだったらしく
魔神二人は、その時点で見つかったと
思ったそうだ。
それで小刻みに震えていたのか
まてよ
なぜ、この二人は俺に見つかると
ヤバいのだ。
アモンの中身交代は知らないハズ
シンアモンと敵対している魔神なら
魔王保護の為、ダークやナナイの
様に行動を起こすハズ。
シンアモンの派閥なら
魔王殺害失敗はこいつらには
何の責任も無い。むしろ
遅っせえな何やってんだと
怒ってもいい立場だ。
ベネットの説明からでは
どっちの派閥なのか特定出来ない。
どちらも有りうる。
先に俺がカミングアウトしてから
話すべきか。
いや
折角優位な立場にいるのに
相手を優位にさせても勿体ない
高速思考中なのでここまで0.1秒も
掛かっていないが、どう話を持っていくべきか
馬車の中で決めて置けば良かった。
失敗だったな。
もう一つ失敗がある
ヨハンを含む神側の面々だ。
悪魔だけで内緒で話をした後に
彼等と話したかった。
俺は場合によっては聖都を放棄して
ベレンに権力を集中できればと
考えている。
そうなればヨハンは黙っていないだろう
彼は聖都の危機を救う為に
悪魔と契約も辞さない男だ。
一番良いのは
ここで時間停止して
悪魔だけで口裏を合わせた後
人間達と何食わぬ顔で
答えの決まった様式美な
やりとりをする事だ。
それが最適解だが
当然、俺には時間停止は出来ない。
実は出来る可能性はあるのだ
解析は上手く言ったが実行しよとすると
脳内アラームが鳴り響くのだ。
これは実行に当たって消費される力が
俺の存在を脅かす程使用されてしまう
からに違いない。
魔界に直結して無制限に向こうの
力を使える魔王ならではの術ということだ。
出来るかもしれないが
やった瞬間消滅では
恐ろしくて試すワケには行かない。
ババァル、今来てくれないかな・・・。
『うふふ、仕方ありませんわね』
そんな声が聞こえた気がした。
その瞬間、例の時の歯車が
部分的に空転する感覚を感知した。
「どっぎゃあーん!ご機嫌いかが、うふふ」
「「「「うわぁ!」」」」
突然、部屋に出現したババァルに
俺以外の全員が声を上げる。
そうか、魔神3人もこの転移の予兆を
感知出来ないのか
それにしても
どっぎゃあーんって何だ
『今お止めしましょうか』
また声が聞こえた気がした
ってコレ本当に聞こえているんだよね
何、テレパシーなの
そんなの魔王図鑑にあったっけ
まぁいいいや
今、お願いしまーす。
『ナァーフォーザッワアアア!!!』
パキン
停止解除の時は口フニフニでいいのに
止める時は絶叫なんですね。
俺は意味を成さないと分かっていながらも
両手で耳を塞いだ。
チャッキー、ヨハン、ハンスの三人は
驚いて大口開けた状態で固まっている。
それぞれ良い表情だ。
あまりに良い表情だったので
たまらなくなった俺は
夜なべで作ったエンチャントインキの
マジック・マジックペンを取り出すと
ヨハンの額に「肉」
ハンスの額に「犬」
と落書きした。
爆笑しながら俺はゲカイちゃんに
ペンを渡し残るチャッキーを指さす。
ゲカイちゃんは即座に察してくれたようで
チャッキーの額にかわいい字で
「バカ」と書いてくれた。
「まさか、この為に呼んだですの」
腹を抱えて爆笑し涙を流しながら
ババァルはそう言って来た。
空気は振動しないので音はしないのだが
そう認識出来る。
この声は先程のテレパシーと違い
ここに居る悪魔全員に聞こえた様だ。
「おおお久しぶりひーご機嫌いか
はははっは痛たたった」
脇腹を押えながらも魔王への挨拶をするダッソ。
「・・・・・。」
プルプル震えながら、ひたすら堪えるジュノ。
泣いてる。
ゲカイちゃんも笑っている。
普段は表情をあまり変えない子だが
やっぱり笑顔は良い。
「いやいや、こんな事の為には
呼んだりしないよ。いくら俺でも」
俺も笑いのツボからまだ出て行かない
笑いながらババァルに答えた。
やめろ三人とも
その顔でこっちを見るんじゃねえ
「では、なんですの」
「なんだったけかな」
悪魔軍団はたまらず別室に移動した。
笑いが治まっても、またあの顔が
目に入れば笑いだしてしまうのだ。
そして一人が笑い出すと残りも
連鎖的に笑いだしてしまい
とても話合いにならない。
「やりますわね人類。侮れませんわ」