第九十二話
さて、勇者捜索隊を捜索だが、
何日後にどこかで落ち合うとか
しておけば良かった。
と、今更ながら後悔した。
携帯電話から始まった習慣で
今の人は待ち合わせが適当だ。
「・・・一回ベレンに戻るか」
闇雲に飛んでも見つけられそうも無い。
日も落ちている。
報告を含め一度ベレンに戻る事にした。
領主と大司教、後、預けっぱなしの
俺の荷物も気になる。
ベレン付近の森で低空飛行し
森の中で半人化して、そこからは徒歩だ。
まだ明るいので目撃される恐れが多い
光学迷彩みたいに不可視化したいものだ
今度試してみよう。
ベレンに入る為、いつもの検閲だが
なんか行列が凄い。
並んで待つ気にならない。
そっと空から侵入したほうが早いんじゃないか
ふと行列に指示を出している衛兵を
見ると見覚えのある顔だ。
酔っぱらいAだ。
向こうも俺に気が付いた様だ。
「おう、元気そうだな」
俺は気軽に声を掛けたのだが
相手の反応は予想外だった。
「ここ、これはアモン様」
酔っぱらいAはなんか敬礼っぽい
仕草で畏まる。
「どうした?変だぞ」
そう話しかける俺に酔っぱらいAは
周囲をキョキョロしながら
小声で教えてくれた。
「マズいですよ。今や最重要人物なんですから
雑な口を利いてる所を上司にでも見られたら
処罰されちまいますって」
根回しは上手くいっているようだ。
俺もハンス君みたいに低音効かせて話した方が
いいのだろうか。
酔っぱらいAに先導されて
衛兵用の別門から中に入れてもらった。
ズルだが、助かる。
途中、すれ違う同僚も皆
例の敬礼っぽい動作をする。
俺も同様に返した方がいいのか
酔っぱらいAに聞いたのだが
軽く頷くだけにしてくれと言われた。
下の者が上に対して行う動作らしい。
中に入ると衛兵用の馬車だ。
自由に歩きたいと言ったのだが
頼むからコレで移動してくれと
言われ、仕方なく乗る。
荷物が預けっぱなしの
ホテルに向かってもらう。
ホテルに入り、フロントで
部屋番号を申し出ると
既にチェックアウト済みだった。
まぁそらそうだ。
何日経ってるんだ
結局、俺はベットで寝てないぞ。
畜生め
荷物の行方を聞いて見ると
バルタん爺さんがまとめて持って行った
との事だ。
教会にあるのだろうか、
馬車に戻り教会に向かってもらう。
教会は屋根の修復が始まっていた。
足場が組まれている。
なんか、ごめんね。
馬車はここで帰ってもらった。
俺は教会の入り口に手を掛けようとしたが
中からいきなり開いて、頭をぶつけそうになった。
完全人化なので完全膝カックン耐性が
使用出来ない。
不便だ。
「おぉ、これは失礼いたしました。」
「いえいえ、こちらこそって、あ」
出てきたのはバルタん爺さんだ。
その後ろにはなんか偉そうな服を着た
中年が居た。
・・・・ババァル処刑未遂の時に
ステージには居なかった男だ。
「これはアモン様。」
「どーも、丁度いいや」
俺は荷物の在りかを尋ねると
何ともマズいと言った表情になる
バルタん爺さん。
まさか、捨てたとか言わないよね。
気まずくなったバルタん爺さんを
察したのか後ろの中年が発言してきた。
「ん、アレは君の荷物なのかね」
「はぁ・・・えーっとこちらは」
俺に様づけしないという事は
相当偉い人物なのだろうか。
「いずれローベルト・ベレン7世を
名乗るお方です。」
バルタん爺さんがそう紹介してくれた。
今はまだ幼名のロディで呼んでくれと
中年は親しげに言ってきた。
なんか、この親しげさがやだ。
「失礼だとは思ったのだがね
危険な物が無いか確認させてもらったよ」
なぜロディが言うんだ
バルタん爺さんが説明するような事のはずだ。
「いえいえ、当然の行為でしょう
で、危険な物何かありましたか」
ロディは目をギラギラさせながら
あの品物軍団はどうやって入手してきたのか
聞いて来た。
迂闊だった。
エンチャントインキを始め
この世界では流通していない
魔法具の試作品だらけだ。
俺は背中の創業祭を
素早く少しだけ引き抜き
即、戻す。
キン
甲高い金属音が響いた。
「私が女神の周りで何を担当しているのか
ハンスから聞いていますか」
いい訳を考えるのが面倒くさい
脅しで誤魔化そう。
青くなるロディとバルタん爺さん
んー?
完全人化だから悪魔オーラ出てないはずなんだが
「でででえは逆に感謝して欲しい
バルタと私しか中身を知らないい
秘密をほほほ保護したと言ってもいい」
やばい
ビビらせすぎたか
俺は頭を下げ感謝の言葉を告げた。
二人の撫で下ろす吐息が聞こえた。
具体的にどういう根回しをしたのか
ハンスに聞いた方がいいなこれは
「女神抜きでは入手不可能な物ばかりですよ」
俺がそう言うと
がっくり肩を落とすロディ。
「はは・・・やはりそうかね」
恐らく価値の高さは理解しているようだ。
・・・・餌に使ってみるか
「とは言え、ベレンは女神に大きな貢献を
しているのも事実。これに褒美の品があっても
なんら不思議ではありませんね」
再びギラギラした目になるロディ。
おい、後継ぐ前にポーカーフェイス覚えろ
「約束は出来ませんが女神に口添えは
しましょう。どういった物を希望しますか」
「希望など恐れ多い、何でも賜れれば
家宝間違い無しだ。」
んー何がいいかバルタん爺さんに
後で聞くか。
荷物はこれから教会に持って来ると
いう事になった。
俺は教会の中に入ると
以前と様子が変わっている事に
気が付いた。
以前は広いスペースだったが
前後に仕切られ、奥の祭壇を
遮る様に壁と扉がある。
その前にヴィータの衣装の
下位バージョンを着た若い美人の
お姉ーさんが数人、扉を守る様に
立っている。
「今日の謁見は終わりです」
「予約は受け付けでお願いいたします」
口々にそう言って
俺を追い出そうとしてきた。
「おいハーーンス。!!おれだー」
野郎ならどんな目で見られても
何とも無い俺だが
女性に拒絶たっぷりな視線されると
とてもツライのだ。
たまらず俺はハンスの名を叫んだ。