第八十九話
俺の想定した最悪の事態になる事は無く
無事に安全な隠れ場所付近に到達した。
もう出ても大丈夫とヨハンの言葉に
建物到着目前で俺達はチャッキーの影から
外に出た。
そこは聖都から少し外れた所で
治安も悪そうなスラム街だった。
「ここだ、拷問部屋じゃ無いから
安心してくれ」
そう言ってヨハンは厳重なダイアル式の
鍵が付いた金属製の扉を開けると
そこはアジトとか秘密基地とか
表現して良い様な建物だった。
「うわっすっげぇ」
開口一番、チャッキーは声を出す。
俺も口笛を一つ吹いてしまった。
武器だらけだった。
拷問部屋とさして変わらない
物騒な部屋だ。
「素敵ですわね」
どこが
こういうのにトキメくのは男子ですよ。
「教会にも部屋はあるんだが
こういうのは置いておけなくてな」
何種類もの武器防具が所狭しと
ズラリとディスプレイされいる。
年代も種類も様々だ。
秘蔵のコレクションなのか
ヨハンに聞いて見た所
9大司教の「武」とは言ってみれば
軍事顧問で戦争の指揮はもちろん
兵の雇用・訓練・武装の選定まで
何でもやっていたそうだ。
そんな関係で自然と集まった
お試しサンプル軍団が、
このコレクション達だそうだ。
「拷問部屋の方が刃物が少ないんじゃないか」
嫌味に嫌味を返す俺だが
ヨハンは「違ぇ無ぇ」と一笑した。
「兄貴、ここへ寝かしてやってくれ」
質素なソファーへ俺を誘導するヨハン。
俺は抱きかかえていたゲカイを
そこへそっと寝かしてやる。
ソファーと対面に椅子がいくつか有り
間に低いテーブルを挟んでいた。
各自、適当に椅子に座る。
「どうだ様子は」
無事なのは俺の様子から察している様だ
ヨハンは俺にそう聞いて来た。
「問題無い、じきに目を覚ますだろ」
ゲカイはスヤスヤと寝ている。
まだ女性として主張を始めたばかりの
慎ましい胸が呼吸に合わせて
ゆっくりと上下している。
「こんな女の子が序列6位とはね」
あまりにカワイイので
つい頭を撫でてしまう。
そのほっこり感を打ち破る様に
ナナイとダークが驚く。
「何だと!」
「これが・・・ゲカイ殿でござるか」
二人にはあくまで俺の予想だと言った。
そう言えば名乗ってもいないし
本人に確認もしていないのだ。
「拙者が不覚と取ったゲカイをも討たれるとは
流石アモン殿ででござる」
そう感心するダークだが俺は
ダークに謝罪した。
「いや、ダークに偉そうに言ったが
俺も話し掛けられるまで全く気が付かなかった。」
「フッ、それで一位とはお笑ああああー」
ナナイは丁度、隣だったので頭を
思いっきり鷲掴みした。
「フム、こちらの感知系をも解除してしまう
程の力と推察するでござる。正直、嫉妬」
ダークは気配を消す為に修練を
かなり積んでいるそうだ。
それが特殊能力ひとつで簡単に
上回ってしまうのだから
努力が空しくなるそうだ。
スマン
俺もいい加減チートだ。
修練と呼べる程の努力はしていない。
「起きたら聞いて見るか、それより・・・」
俺は転移してきた理由を聞いた。
返事は予想通りだった。
「アモン殿の予想通りの事態だったでござる」
昨日の別れの際、俺はダークにいくつか
助言を与えていたのだ。
「オーベルが死んだ振り作戦を
申し出てきたでござるよ」
死んだ振り作戦
ババァルは悪魔へのエネルギー供給を
全停止が可能だ。
聖都でのバーストの必須である魔王死亡。
殺害に失敗しても、魔都で全停止を行い、
聖都の悪魔に殺害が実行されたと
思い込ませバーストを引き起こす事が
可能だ。
「それだ、何故逃げる必要があるのだ
私には良い作戦だと思えるが・・・」
ナナイには助言していないのだ。
「そいつを説明する前にオーベルについて
言っておこうか。」
俺は皆に説明を始めた。
魔神13将序列5位「計のオーベル」
アモンサイクロペディアでは
最も多くの事が記載されていた魔神である。
いわゆる参謀で、自らは戦わない
それが彼の戦い方だ。
魔界においてもアモンには表立って
協力してはいない。
保守派から排除されてしまえば
役に立てないからと言う理由で
表向きは保守派だが影でアモンに
協力しているという立場だった。
これが曲者である。
アモンの改革が成功すれば
参謀・功労者として取り立ててもらい
失敗すれば、そのまま何食わぬ顔で
保守派に居残る事が出来る。
どっちが勝っても良いのだ。
「・・・まぁ賢いよな」
ヨハンは口では褒めているが
顔は怒っていた。
「キッタネェやつだぜ」
チャッキーは怒りを露骨にした。
「気に食わん。敵でも味方でもゴメンだ」
「同意でござる」
魔神二人も同意見だ。
俺とババァルは普通の顔をしている。
ババァルはどうだか知らないが
俺は個人的には有りだと思っている。
会社でもいる太鼓持ち。
彼等を影でよく批判している連中が多いが
俺はそうは思わない。
力の無い者
仕事が出来ない
役職に就いていない
そう言った者が生き残って行くための
一つの手段だ。
好き嫌いはもちろん個人の自由だが
生きる為の戦い方として
そういう手段も有るのだ。
恐らくオーベルも戦闘力は最低の方なのだろう
だから策に依っているのだ。
「でだ、そのオーベルが考えそうな事なんだが」
表立って協力していない。
今回の魔王殺害も人間の手で行おうとしていた。
彼または配下は手を下していない。
いくらでもすっとぼける事が可能だ。
ナナイなどは、そうに決まっていると
激昂していたが、確たる証拠が無ければ
どうにも出来ない。
「死んだ振り作戦の実行がそのまま
魔王暗殺コースだ」
そう言った俺に驚くナナイ。
「何だと?!」
「お隠れ頂いてと、そそのかし暗殺する
元々、魔力は全停止する予定だ。
供給が停止しても保守派は誰も騒がないだろ
ああ作戦が始まったのねと思うだけだ
絶好の殺害チャンスだよ」
「確かに・・・」
頷くナナイ。
「昨日の別れの際にその事を
アモン殿に聞いていた拙者は
言われた通り姫様を避難させたのでござる」
「良くやったダーク」
俺はダークを褒めるが
ダークは言われた通りにしたまでと謙遜した。
感心した目で俺を見ているナナイ
ああ
止めて
ゴメン
うそなんだ
魔王殺害なんてしないかも
確信なんか無い
ただバーストを引き起こされたくないが為に
そう言えば、ババァルの保身第一の君達は
保護の為、必ず避難すると思って
それだけの為にでっち上げた
うそなんだ
おまけ
「ぬぅうわあああああああ」
「何だヴィータ!どうした?」
「アモンよ、我の出番がないぞや」
「しょうがないだろ聖都パートだ」
「このまま出番が無く我は空気になってしまうのかや」
「それは無いぞ。プロット見たが最終回は独壇場だ」
「本当か!」
「ああ・・・ただ・・・」
「ゴクリ・・・ただ?」
「今の時点でプロットから大きく外れている」
「どうなるんじゃ」
「分からん」
「嫌じゃあ空気は嫌じゃ。髪の色とかも似ている
せいかのイン何とかさんみたいに我もなってしまうのかや」
「おい名作に対して何てこと言うんだ止めろ」