第八十八話
ステンドグラスを通して
差し込む鮮やかな色彩とは正反対に
濁った色の皮膚を持つ者が四肢を
鎖に繋がれていた。
それは明らかに人間では無い。
頭には山羊の様な角を生やし
背には蝙蝠の様な翼
猿の様な下半身そして尻尾。
悪魔であった。
その悪魔は鎖に繋がれるがまま
ぐったりとしていた。
身じろぎもせず
ただ繋がれていた。
死んでいるのでは無い
それは聞こえてくる声で分かった。
泣いている悪魔。
その原因と思われる死体が
彼の足元にいくつか転がっている。
訂正しよう。
一つはまだ息があった。
「ア・・・アモン・・・。」
身じろぎもしなかった悪魔は
弾かれた様に顔を上げた。
「ナナイ!」
ナナイと呼ばれた者。
恐らく女性であろう。
はっきり判別出来ない程
酷い暴力が施されてしまっていた。
「さ・・・最後に、もう一度
抱いて欲し・・・かっ・・・」
最後の方は聞き取れなかった。
息絶えたのだ。
ナナイの死にアモンは吠える。
鎖を引き千切らんと必死にもがいたが
彼の皮膚が破けていくだけだった。
正面の扉が開いた。
一人の男がゆっくりとアモンの前まで
歩み寄って来た。
その男の手には、60cm程度の
長さの何かを持っていた。
入って来た男を見ると
アモンは怒りをぶつけた。
「ヨハン!テメェ裏切ったな」
ヨハンと呼ばれたその男は
豪華な聖職者の衣装を身にまとった
大男で年齢はその服装には
似つかわしくない程、若かった。
ヨハンは繋がれたアモンを
ニヤニヤと見ている。
その醜悪極まる表情もまた
衣装とは似合っていなかった。
「裏切った?そいつは違うな
俺ぁ最初っから神側だぜぇ」
アモンは悔しさに満ちた表情になった。
彼の顔にも酷い暴力の跡が見て取れた。
しかし、その超絶美形なイケメンマスクは
そんな状態でも美しさを損なっていなかった。
「良い隠れ場所って・・・教会本部じゃねぇか」
いかなる悪魔もそこでは無力になる。
下等な悪魔ならば、居るだけで崩壊して
しまうだろう。
「ああ、良い場所だよ。俺・の・な」
高らかに笑いだすヨハン。
敗北に項垂れるアモン。
「・・・ババァルは・・・
ババァルは、どこだ・・・
どこに連れて行った」
「ババァル?ああ、一部でよけりゃ
ここにいるぜぇーーアハハハハハ」
ヨハンが手に持っていた長い物
それは女性の腕だった。
細く白い美しい腕
白魚のような指。
アモンはそれを見間違える事は無い
間違いなくババァルの腕だ。
教会本部内の拷問部屋
二人の男の
狂った様に響く絶叫、
狂った様に響く笑い声が
これから始まる惨劇の
開始のファンファーレだ。
「なんて事になったらどうする?」
良い隠れ場所まで移動する最中
ヒマだったので
予想される最悪の事態を
小説調に皆に語って聞かせたのだが
大不評だった。
「兄貴、俺はそんなに信用無いのか・・・」
「俺はどうなったんすか」
「わわ私がいつお前に抱かれたというのだ!」
「俺はどうなったんすか」2
「影の中でも、対象がどこに移動中か
把握出来るでござるよ。教会に入る前に
対処するでござる。」
「俺はどうなったんすか」3
「腕は右ですか左ですか?それ以外は
どこに行ったのでしょう。不安ですわ」
「俺はどうなったんすか」4
「兄貴、後、教会に拷問部屋なんて無ぇから」
「俺はどうなったんすか」5
「だれが超絶美形だ。よくそんな事が
言える。オリジナルのアモンでも
そこまで恥知らずでは無かったぞ」
「俺はどうなったんすか」6
俺はクレームの嵐が聞こえない様に
耳を塞いで、早く着かないかなと
思っていた。