第八十六話
そいつは俺の正面に向かい合っていた。
三人が東西南に座っていたとするならば
北の位置にいた。
ヨハンはもちろん、完全膝カックン耐性を
持っている俺ですら気が付かなかった
いや視界に入っている。
目で見て分かるハズだ。
一体どうやって接近したんだ。
魔神、直感的にそう感じたが
姿を見ると自信が揺らぐ
そいつは少女の姿をしていた。
小学校高学年程度の年齢にみえる。
当然、胸はペッタンコだ。
金髪のツインテールだ。
ついに来た。
ツンデレの登場だ。
いや、まて
振り返ってみれば
凡そここまでセオリーというか
お約束というか
ほとんど裏切る展開だった。
頭脳明晰だが不幸キャラの青髪がヴィータだった。
情熱的で活発な赤髪キャラがババァルだった。
ババァキャラの緑髪は勇者の妹エッダちゃんだった。
金髪ツインテールだからツンデレ
その図式はここでは当てはまらない可能性が高い。
以上が
話し掛けられて驚き、咄嗟に左右のチャッキーと
ヨハンを突き飛ばした0.5秒で高速処理した内容だ。
両手は突き飛ばすのに使用してしまったが
悪魔光線に手は必要ない。
必殺の間合いを取っておきながら
脅かす為だけに費やいしたこいつの
真意は分からない。
余裕だとナメているのか
まぁ、なんでもいい
俺に、これだけの時間を与えてくれた。
次の0・5秒で俺は感謝しながら
悪魔光線を遠慮なくそいつに叩き込んだ。
「なにぃ!」
俺はそいつが突然現れた時よりも
驚いてしまった。
悪魔光線から身を守るように突き出した
そいつの手の平、悪魔光線はそこでかき消えた。
「嘘だ」
俺は再び悪魔光線を今度は
照射しっぱなしで放ち続ける。
しかし、やはりそいつの手の平で
俺の悪魔光線はかき消えてしまう。
ただ光線の勢いでそいつはズルズルと
後退していく。
なんかプール掃除でふざけて
ホースの水を掛けているような状態になった。
ショックがでかい
俺は悪魔光線は防御不可能の必殺技だと
信じ切っていた。
一度、発射すればそれで勝ち
発射のタイミングを見切って視線を逸らさせ
回避する。
ベネットに一度これで破られているが
そんな高等技術は技のベネット以外
出来ないだろうとタカを括っていた。
悪魔光線は無敵だ。
その自信が崩れる。
みっともなく狼狽し
通用しないと分かっているのに
光線の照射を止められない。
止めたらそこで死ぬような焦りが
俺をパニックにさせていた。
なんだコイツは
誰だ
そう思った時にふと思い出した。
忍者であるダークを出し抜き
自分より上位のババァルの術を解除した魔神。
魔神13将・序列6位 解のゲカイ
俺の悪魔光線は発射するまでは
悪魔の力だが、一度放出された光線は
術では無く物理現象だと思い込んでいた。
違うのか?
それともゲカイは術に限らず
物理現象をも解除するのか
ゲカイ繋がりで思い出す。
ダーク、彼は現実を現実として冷静に受け止め
後で仕組みを分析していた。
考えている場合では無い。
「ごめんダーク、俺も気づかんかった」
俺は悪魔光線の照射を止めた。
「兄貴!顔が燃えている」
ヨハンがそう叫んだ。
長時間照射は初めてだった。
目元付近の皮膚が炭化し火を噴いたのだ。
「ああ、中身は何ともないから」
しかし炎越しではデビルアイの機能が落ちる。
俺は叩いて火を消し
ゲカイの反撃を見逃さない様に
警戒しつつ思い出す。
ゲカイの対策
アモンサイクロペディアの記述では
確か「殴れ」とだけ書いてあった。
だから俺は特別な対策を練らなかった。
悪魔光線はシンアモンの術では無い
俺がこの体で色々試している内に
開発した技、今回は術扱いになるのか
だから、こうなった
殴れば良かったのだ。
拳そのものは術でも技でもない。
物体だ。
レベル上げて物理で殴れ
これは単純だが、やはり強いのだ。
俺は拳を握りしめ超加速の準備に入った。
音速で飛び込んで、そのまま叩き込んでやる。
しかし、そうならなかった。
「アモン様?・・・どうして」
皮膚が燃え、剥き出しになった中の悪魔の顔
それを見たゲカイはそう言って倒れた。
ピクリとも動かない。
俺はデビルアイでゲカイを走査し
この短時間で3度目のビックリに
声を上げた。
「こいつ・・・受肉だ」
ヴィータやババァルと同様に
脆弱な人間のボディだったのだ。
魔核は心臓と左右反対の位置にあった。
悪魔の力はほとんど残っていない。
このままではいずれ崩壊が始まってしまう
ババァルから随時供給されている
力は頼りなくチョロチョロとしていて
肉体の崩壊を止められない。
解除能力にも力が必要だったのだ
悪魔光線連続照射を解除し続けた結果
ゲカイは保有量を使い切ったのだ。
後一秒照射していれば・・・
いや
これでも勝ったも同然だ。
破壊せずなので逆に良かった。
倒れる前のセリフも気になる。
歯向かう様なら殴れば良いのだし
俺はゲカイを回復する事にした。
倒れ伏したゲカイにゆっくり歩み寄る
俺の前に両手を広げ通せんぼし
割り込んでくる男がいた。
チャッキーだ。
「アモンさん・・・まだ子供っすよ
犯さないであげてくれ」
は?
何を言ってるんだチャッキー君は
「おい誰がいつ誰をほのぼのレイプしたっていうんだ」
そう言った俺から視線を逸らせ
斜め下の地面を見つめながら
言いづらそうにチャッキーは言った。
「ナナイが・・・動けなくなるまで暴力を
振るわれた後、アモンさんが大事なトコロに
突き刺さして・・・一杯注ぎ込んできたって」
ふざけんな
あの女
何を吹聴してやがるんだ
ヨハンもなんか神に祈る仕草をしてる。
信じてるのかよ!
「そうだけど、そうじゃねぇ」
あ
だめだ
これ説得力皆無だ
言い方を変えよう
「性的行為じゃねぇ回復なんだよ
失った悪魔力を補充しないと
そいつも崩壊しちまうぞ」
なんか信じて無い様な微妙な表情だな
二人とも
傷付くぜ
俺はどんな風に思われているんだ。
「見れば分かるから」
俺は渋々道を譲ったチャッキーの横を
通り抜けゲカイを仰向けにしてやる。
顔の穴という穴から血が垂れていた。
「兄貴、先に俺が治癒魔法を」
ゲカイの姿を見たヨハンが
そう申し出てきた。
「バカ、悪魔にソレやったら崩壊するって」
俺は手でヨハンを制し、そう言った。
「あ・・・そうか。いや
見た目が人間なもんで、つい」
ヨハンも冷静さを欠いてる様子だ。
ん
受肉した悪魔なら平気なのか
いやダメだ
ババァルは恐怖エネルギーで回復してたし
受肉?
あれ
俺の金属棒突き刺したらマズイんじゃないのか
どうしよう