第八十四話
突然、目の前に男が現れ
振り下ろした錫杖を掴んで止めた。
バゼルは驚く事は無く
ただ不機嫌さに拍車が掛かった。
俺はコイツよりも取り巻きが気になった
コイツは破壊確定だが、取り巻きは人間だ。
バゼルが「かかれ」かなんか言ったりして
集団で襲い掛かって来たらどうしよう。
殺さない程度に手加減出来る自信が無い。
だが、その心配は無用だった。
「あの男、殺さ・・・裁かれるぞ」
「おぉ神よ愚かな咎人に慈悲を」
などなど、狼狽え祈るばかりで
戦闘する気は無いようだ。
つか
ヨハンやこいつが異例なだけで
神父は戦わないのが普通だ。
街の人たちも遠巻きに見ているばかりで
誰も助けも加担もしてこなかった。
が、これは好都合だ。
安全に見ていてね。
「ヨハン。おやじさんの手当てを頼む」
俺は振り返らずに、錫杖を掴んでいない方の
手でバイザーを二つ生成し放り投げながら言った。
位置は完全膝カックン耐性で把握してある。
柵を飛び越え、俺の後ろまで来ていたヨハンは
キャッチし、モノを確認すると瞬間で察し
一つは自分が掛け、もう一つをチャッキーに
投げて渡す。
「あいよ。おい歩けるか、離れるぞ」
ヨハンは子供を庇いつつ、その親に
そう言って、取り合えず避難させてくれた。
それと入れ替わりにバイザーを装着した
チャッキーがカッコよく参上する。
「いやっほぉぉおう」
いい気合だ。
「勇者パーテイの格闘家
史上最強の男、チャッキー参上!!」
パターン1失敗です。
「アホ、顔隠した意味無くなっただろが」
そう言う俺に負傷者の手当てをしながら
ヨハンが助け船を出してきた。
「普通に装備だと勘違いしたんじゃねぇか」
そんな気を利かせてくれるヨハンの好意を
全く気が付かないチャッキーは大声で言った。
「カッコイイからじゃないんすか」
もういい
パターン2に移行だ。
しかし、事態は俺の想定外に動いた。
今度は神父達だけで無く
遠巻きに見ている観衆からも
声が聞こえる。
「チャッキーだって?」
「処刑されたんじゃ・・・。」
「生きているのか」
「本物なのか」
どうも避難させた勇者PTも
身代わりを立てられて処刑されてるっぽいな
隠れた本物は見つけ次第、暗殺ってトコロか。
「ふっ俺は不死身の男!
何度だって蘇って来るぜ!」
すごい
実話だってトコロがすごい
カッコよくそう叫ぶと
人があげたばかりのバイザーを
カッコよく外し
例の子供に放り投げる。
慌てて両手でバイザーをキャッチした子供は
キラキラした目でチャッキーを見ている。
「チャッキーだ!」
「生きてる本物だぞ!」
「あの黒髪間違いない!!」
「ツンツンとんがっている髪、何つけてんだ」
あ
なんか
パターン2うまく行きそう。
ちなみに黒髪はこの世界では非常に
珍しいそうで
俺が人化の際、目立たない様に茶色を
選んだのは正解だった。
「チャッキーだとぅ・・・フン
ギルティギルティ何度でも処刑するまで」
更に息巻くバゼル。
こいつ本当ウゼェな。
「チャッキー様!こいつ俺がやっちゃっていいすよね」
俺はへりくだってチャッキーに聞いた。
パターン2、チャッキーと愉快な反乱軍だ。
「許す!」
「ありがたき幸せ!」
んなんか二人とも語尾が笑いを堪えている感が
出てしまったが、大丈夫だろう。
握っていた錫杖に尋常ではない力が加わった。
俺を引き剥がすつもりだ。
だが、俺はビクともしない。
もう握っていない、金属製の錫杖の表面は
俺の手にもう溶接済みで重力操作で体重は
2トン程度にしてある。
「ん?なんだコイツ・・・んんん」
悪魔パワーで余裕だと思っていたバゼルは
全く動かない俺にやっと疑問を抱いた様だ。
街に被害は出したくないな。
俺は最短時間悪魔光線で魔核だけ狙い撃つ
バゼルは急速に力を失いふらつき出す。
「天に召されよー!」
俺はそう言って力の無くなったバゼルから
錫杖を奪い取り、大振り一回転で
野球のホームランの様に
バゼルを打ち上げる。
ギィーン
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ー」
重たい金属の衝突音をと耳障りな悲鳴をさせ
バゼルは東の空へと飛んで行った。
多分、落下地点は来る途中で見た
人気のない森の辺りだ。
もう来るな。
さて噂話のネタ振りとしては
これで十分だろう、騒ぎになる前に
撤収しないとな
今後の方針は決めてしまいたい。
俺は素早く錫杖を放り捨てると
チャッキーとヨハンを抱え
街の反対側までジャンプした。
音速加減速の要領で二人の
身体保護も忘れない。
「あーバイザーが」
「あげたんじゃねぇのか」
「結構気に入ってたんすよ
持っててもらおうと」
二人は自由落下の最中でも余裕の会話だ。
だいぶ慣れたみたいだな。
「また作ってやる」
適当な公園に着地出来る様に
位置を調整しながら
俺はチャッキーにそう言った。