第七十四話
「兄貴・・・流石にかわいそうだぜ」
「これは、俺が悪い・・・。」
直ぐにデビルアイで走査する。
今回も電気ショックでイイだろなどと
気軽に考えていた俺は顔面蒼白になる。
「これは、蘇生できない。」
走査した結果は初回と同様だが
うまく説明できないが
なんというか、もう人じゃなくなって
モノになってるというか
魂がどこにも無いというか
ああああ
どうしよう
どうしよう
「やっぱりそうなのか・・・。」
ヨハンは元大司教だ。
多くの死を看取って来た。
その経験の目で見ても
これはヤバいということか
なんでこうなった
何を間違えた
いや
今はそんな事を考えている場合じゃない。
チャッキー死なすワケには行かない。
生き返らないチャッキーなんて
チャッキーじゃない。
深呼吸して最適解を探す。
半人化状態の呼吸はダミーだ。
呼吸してなくても問題は無いのだが
人といる時に相手が呼吸していなかったと
気づかれた場合。
こちらにはイイ事はひとつも無い。
言葉を発する為にも必要だ。
普段から呼吸を心掛けている。
この場合の深呼吸は酸素を供給する
目的では無く、気持ちの問題だ。
人が落ち着きを取り戻すために
行う深呼吸という動作で
慌てている自分をそれに習わせるのだ。
最適解はすぐに出た。
俺はヨハンに指示を出す。
「ベレンの女神に頼るしかない
その際の説明に魔法陣が必要だ。
ヨハンは急いで書き写しを」
ヴィータが日本語を読めない可能性がある。
その場合にこちらの文字の魔法陣が必要だ。
俺が何をしてしまったのか理解してもらわねば
ならない。
俺の考えを察したのかヨハンは
聞き返す事も質問してくる事もせず
急いで魔法陣の書き写しの準備に入った。
俺は隣に座り、オリジナルの文章を
枠を指定しながら読み上げていく
ヨハンはこちらの文字で書き上げていく。
実際にこの魔法陣を使用するには
一度、エンチャントインキでまた
書かないとならない。
エンチャントインキはベレンの宿に
置きっぱなしの俺の荷物の中だ。
急ぎで仕上げると俺は突貫作業で
チャッキーを入れる箱を軽めの金属で
作成する。
箱だ。
棺とは言いたくない。
こうしてバタバタと俺はエルフの里から
チャッキーの箱を背負って飛び立った。
大気操作を併用し音を立てずに
音速飛行した。
ベレンまで一時間と掛からない。
なんとなく嫌だったので今まで
ちゃんと試さなかった聖刻の通話機能。
今はそんな事言っている場合では無い。
「うまくいってくれよ」
俺は祈るような気持ちで・・・
悪魔の俺が祈って大丈夫かな
崩壊とかしないか
ええい
そんな事を考えてる場合か
「ヴィータ聞こえるか、緊急事態だ」
俺は手の聖刻を電話のように見立てて
話しかける。
構造的には無意味だが
これも気持ちの問題で
気持ちが効果に反映されるのが
この世界だ。
「ヴィータ聞こえているか」
「んあ。貴様どこほっつき歩いておるのじゃ」
聖刻からヴィータの音声が聞こえた。
こいつの声がこんなに嬉しく感じたのは初めてだ。
「詳しい事情は会ってからだ
蘇生を頼みたい。助けてくれ」
「・・・分かった」
ヴィータは場所を指定してきた。
場所は何と教会だ。
注意点として完全人化である事と言ってきた。
言わずもがなだ。
あそこはそうでなければ俺にダメージが入る。
それにしても
悪魔が棺を背負って女神に面会を
申し出るなんてな。
俺は昼間の要領で教会近くの街路樹に
着陸すると棺を乗せる為の手押し式荷車
いわゆるリアカーを作成に掛かる。
ベアリング部分に少し手間取ったが
コレがあるのと無いのとでは負荷
エネルギーロスが比較にならない程違う
人化で来いとの事なので尚更重要だ。
悪魔状態と違い非力なのだ。
チャッキー箱をセットすると
俺は完全人化し・・・これは
押した方が良いのか
引いた方が良いのか
両方試したが腰に引っ掛けて
引いた方が楽だった。
「もう少しの辛抱だぞチャッキー」
そんな独り言をいいながら
俺は引いた。
教会の屋根は昼間の騒動で
吹き飛んだままだったが
1・2階は問題無さそうだった
例の光る苔が多用されているようで
窓から独特の灯りが見えた。
入り口の門まで来た。
ハンスと来た時も俺はここまでで
ここから先は知らない。
なんて切り出せば良いかと思案して
いると、門番がわざわざ出てきて
話しかけてきた。
「失礼ですがアモン様ですか」
話は通っていたようで
俺はそうだと返事をすると
門番は詰め所に戻りその後
直ぐ門は開いた。
開いた門の先にはハンスが居た。
と言うか彼が門を開けたのだ。
「アモンさん。無事ですか」
茶番劇以降連絡を取っていなかったので
ハンスも心配していた様だ。
「俺はな・・けどコイツがな」
俺はそう言って箱のフタをズラして
中に安置されている人物の顔を
ハンスに見せた。
「チャッキー君?!ああ、なんという事だ」
やたら驚くハンス
あ
そうか同じ勇者パーティだったけな
「彼をどこで?一体な何があったというのですか」
狼狽えるハンスを制して俺は言った。
「事情は後だ。今は一刻も早く彼を蘇生させてやりたい」
「そ・・・そうですね。私についてきて下さい
ヴィータ様が準備をしてお待ちです。」
そう言って足早に歩きだすハンス。
努めて冷静を装っているが無理しているのが
バレバレだ。
やはりチャッキーは相当な強者なのだろう
あの場に居た悪魔の俺と改造人間ヨハンから
みれば正直恐れるに足りないレベルだった。
これは即ち悪魔側、及び天使側からみても
同様なのだろう。
やはり人間は脆弱なのだ。
建物正面の大きな扉を開くと
そこは大きなホールになっていた。
一方向に向いた長椅子、ベンチがいくつも
規則正しく並んでいた。
その向かっている先、正面奥は祭壇になって
一段高くなっている。
祭壇中央にはやたら背もたれが長い豪華な椅子。
白を基調とした神聖かつ豪華なドレスっぽい衣装を
身にまとった美しい女性が鎮座していた。
神々しい、正にその言葉がピッタリだ。
その人物は扉を開けた俺達を見ると
左右に控えているハンスの上位版衣装を
着ている神父達に言った。
「来たようですね・・・・ハンス人払いを」
ん
この声ヴィータか
なんだ
俺の中で一気に神々しさが消えていく。
「し・・・しかし女神様」
食い下がる左右の上位神父達。
「無礼ですよ。女神のお言葉に逆らうのですか」
ハンスが偉そうに言い切った。
なに低音効かせてんの
なんか万解して明鏡止水とか使いそう
ハンスに言われると上位神父達は
すごすごと祭壇左側から退場していく
ハンスは後を追い、直ぐに戻って来た。
「行きました」
普段の軽い声でハンスはそう言った。
普段からあの低音ボイスの方が良いんじゃない
知り合いで声だけで妊娠しそうって言ってた人いるよ
「ぶはぁあああああ」
神々しさの欠片も無くなるヴィータ。
姿勢がいつものダラけた感じになり
嫌々そうな表情で肩を回す。
「このキャラは肩が凝るのぉ」
どういう経緯でこうなったか知らんが
こっちはこっちで大変だったんだろう
無理してんだな・・・。
椅子の間は荷車が通るには狭かったので
俺は壁際を通り、祭壇前まで荷車を引いた。
「なんで直ぐに戻ってこんのじゃ
大変じゃったんだぞんーーー」
不貞腐れた表情で文句を垂れ始めるヴィータ。
折角の神聖な衣装や化粧が台無しだ。
「叱責も謝罪も後だ。今は大至急コイツを
蘇生してやって欲しい。頼む」
「私からもお願いします。死亡したのは
私の仲間なのです。ヴィータ様」
ハンスも膝を着いてヴィータに懇願してくれた。
毎度毎度良いアシストする。
でも
俺が殺したと知ったら
やっぱり怒るかなぁ・・・。