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第六十九話

「ほぅあたっ!あたぁ!」


 奇声を上げ演舞しているマチョメン。

若返ったヨハンだ。

昔のカンを取り戻したいと言い出し

早速、里の真下の庭で稽古を始めた。


 そこに向かうまでの間でちょっとした

騒動になってしまった。

 老人が居なくなり、その替わりに

精気溢れる若いマチョメンが現れたのだ。

すれ違うエルフ達が皆

「誰だ」「いつ入村したんだ」となってしまった。

そんな騒ぎを収めたのが里長だ。


「ほーこれは懐かしい、出会った頃のヨハンじゃ」


 年齢の変化に特に驚く様子も無く

ヨハンと里長は昔話を始め話の終わりに

ヨハンは「これは女神の奇跡を聖獣が施してくれたモノだ」と

説明しておいてくれた。


 打合せもしていなかったが気が利く。

こういうトコロもハンスに似ている。


「あたたったたたあたおぅあったぁあ!」


 俺は格闘技に関して素人だが

それでもヨハンが只者でない事が分かる。

 動きが普通じゃないのだ。


 リフト発着場兼ベランダで俺とババァルは

そんなヨハンを眺めていた。


「ふふ、無駄でしたけど意味はありましたわね。」


 ババァルはそう呟いた。

無駄??

何が?


ポカンとしている俺に気づき

キョトンとするババァル。


「あら、いやですわ。分かっていらっしゃらないですの」


素直に頷く俺。

無駄ってなんだよ


「あの方の魂は回収出来ませんわよ」


「それは・・・契約が失敗したって事なのか」


クスクスと笑うババァル。

ヨハンを挑発した時とは違い。

可愛らしい笑い方だ。


「ご説明して差し上げますわ」


ババァルの説明によると

残り寿命の少ない老人の魂は

既に行先が決まってしまっている事が多いそうで

契約をしても変更出来ない場合が多い

仮に変更出来たとしても残り寿命が少ないので

全く価値が無い。

いわば

バナナの皮を苦労して狩りに出かけるようなモノだそうだ。


 言われて納得だ。

そうでなければ悪魔は皆、老人をターゲットにするだろう

もっと生きたい、健康になりたいと誰しも思う訳で

それも死を直前にすれば、プライドも金も何も価値が

無くなった状態だ。


「生きられるなら死んでもいい」


そう思っているのだから

容易く悪魔の言う事を聞くだろう。

こんな楽な相手はいない。

しかし、老人に営業を掛ける悪魔が居ないのは

無駄骨に終わると知っているからだ。


ならば、子供を狙えばイイじゃないかと

俺はババァルに言ってみたが

子供は子供で魂が磨かれておらず

契約条件に満たない為、無理なんだそうだ。

無理やり契約しても魂が得られない。

いくら子供自身が契約すると誓っても

契約そのものを理解出来ていないので

成立しないそうだ。


なので狙うのは大人。

若く野心に満ちた者が狙い目だそうだ。


なるほど

確かに悪魔が話を持ちかける相手は

そんな人間ばかりのイメージだ。 

子供や老人に悪魔の囁きが

なんて話は聞いたことが無い。


「なんか上手く出来ているんだな」


 つまりババァルの言った無駄とは

そういう意味でだ。


 魂の獲得。

中身が人間の俺にはピンとこない。

そもそも魂欲しさに行った事では無いので

全く悔しくない。


魔改造が成功したようで

ただ単純にそれが嬉しい。


「私の自慢の作品だ。」


なんかマッドサイエンティストよろしく

そんなセリフが口を衝いて出そうだ。


じゃあ

じゃあ、何故ババァルは、あの場で

あんな提案をしたのだろう。



「兄貴ーっちぃとすまねぇが相手してくれねぁか」


ベランダに向かいヨハンはそう大声を掛けてきた。

俺は半人化状態なのでそのまま飛び降りる。


「兄貴って誰だ」


「アモンさんに決まってんだろ」


なんで兄貴なんだ。


「年はそっちが上だろ」


「へへ、そいつはさっき死んだって

ホラどーみても俺の方が年下だろ」


確かにヨハンは十代後半か二十歳そこそこに見える。


「俺を誕生させてくれたんだからな

なんなら親父って呼んでもイイんだぜ。」


「兄貴でいいです」


構える俺とヨハン。

俺は格闘技は素人だが

今この場でヨハンの相手が可能なのは

確かに俺だけだろう。


 人間の反射速度では相手にならないので

当然、半人化の状態で対峙する。


「いくぜ」


 模擬戦は程なく終わった。


「なんだそりゃ・・・・」


「な・・何だよこの体は?」


 結論から言うと

改造は成功だ。

想定以上だ。

本気でやらねば俺も危うい。


 強化した肉体のスピードは申し分無く

俺と互角に動いた。

パワーそのものは俺が圧倒的に上回っているものの

まず当たらない。

ほとんど躱され、まれに良いのが全て受け流されてしまう。

更に銀色のオーラっぽいモノを纏いやがって

これが痛い。

ヴィータの黄金の輝きに比べれば

まだなんとか対抗出来るレベルだが

ダメージを入れてくる。

 

格闘では負ける。

もし本気で殺すなら

どこぞの空の王を名乗るワイバーンの様に

空中から遠距離攻撃だけしているのが最善だ。

これならヨハンはこちらに手が出せないだろう。


しかし、それではスパーリングにならないので

格闘メインでやってみたが

技術の差は歴然だった。

俺はボコボコにされた。

ただ

俺の耐久力が異常だった為、大事には至らなかった。

普通の悪魔じゃ多分死んでるんじゃないの


対悪魔用決戦兵器:悪魔造人間ヨハンゲリオン


もう、そう名乗ってイイよ


「頼んでおきながら悪りぃが兄貴じゃカンが

取り戻せそうもねぇなぁ」


後頭部をポリポリ掻きながら

申し訳なさ気にヨハンはそう言った。


当たり前だ。

俺は頑丈なだけの素人格闘家だ。

サンドバックの替わりにしかならんだろうな 

つか

サッドバッグ作ってやるから

俺を使うな。


「・・・っと、これは替わりが来たのかな」


里前の林の方に顔を向けるヨハン。

いいねぇヨハン

俺は完全膝カックン耐性で前から気づいていたが

悪魔では無いヨハンは接近して来る者に

どの程度で気が付くのか知りたくて

ずっと黙っていた。


林の中の一本の木、その枝にその男は立っている。

裏側にまわり気配を一応は絶っているようだが

敵意でもない殺意でもない

純粋な戦闘意欲に満ちている。


距離は400m程度、俺の居た世界でも

ライフルの距離だ。

この世界では十分なマージンを保って

気が付けたという事になる。


これは安心して聖都に放置できそうだ。


 まるで散歩の様に無警戒で進むヨハン。

俺も腰を上げ少し距離を空けついていく。


「出て来いよ。そこに居るんだろ」


 ヨハンがそう呼びかけると、

その男は迷い無く木の陰から身を晒す。


「流石は森の妖精だな。この俺に気が付くとはな」


身の丈は俺よりちょい高そうだが180cmは

無さそうだ、体格は痩せ気味だが

なんていうの闘気って言えばいいの

それが満々だ。


「森の妖精?なんだそら」


すまん俺だ。

でも黙っていよう

面白そうだ。


「とぼけるな。俺の目はごまかせないぜぃ」


枝の上でなにやらポーズを決める。


「俺!俺!!俺!!!参上!!!!」


 なんとも言えない表情で俺に振り返るヨハン。

見ててやれとアクションで伝える俺。


「勇者パーティの格闘家

史上最強の男チャッキー参上!!あー」


さ の辺りで悪魔光線で枝を切断する。

チャッキーと名乗った男は空中で四肢を

振り回しながら落下した。


爆笑する俺。


「それは、ひでぇよ兄貴」


ヨハンは俺の行為を非難したが

顔はにこやかだった。


早く起き上がって激昂してほしいのだが

一向に起き上がる気配がない。


行ってみると

チャッキーは死んでいた。

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