第六話
音を置き去りにして悪魔は夜空を切る。
悪魔の飛行は鳥のソレとは根本から異なる。
空力を使用していない。
生き物でない悪魔は酸素を必要としない
空気はむしろ障害物だ。
どうも引力の正体は勘違いだったらしい。
宇宙には360度ありとあらゆる方向から
物体を押し付ける宇宙線が飛び交っている。
茹で上がったソバを水道水で流しながら冷やす
その時に手に感じる重さ。水がソバを通過する際の抵抗
要約すると重力もそんな感じだ。
足元から星を通過して押してくる力より
より抵抗の少ない天空から押してくる力の方が強い為
俺たちは地面に押し付けられている。
引っ張られているのでは無いのだ。
大きい天体(生成している素材でも異なるが)は
通過する距離が長い為、結果的に足元から押してくる力が弱まり
結果、重力は強くなる傾向にある。
反対に月の様に体積が少ない小さな星は
足元から押してくる勢いがそれほど弱くならないため
重力は軽くなるのだ。
力の流れは完全均一では無い。
僅かに弱い箇所に雪崩式に加速し流れが生じ回転する力となる。
星が自転し、また、その動きが停止しないのも
そもそも球体を成しているのも、そのせいだ。
身近な例では洗面台に貯めた水、栓を抜くと渦巻になっていく
そう言う現象だ。
翼は空気を操るのでは無く、宇宙線を制御している。
飛んでいると言うより、自在に落ちているのだ。
夜は移動を止め野宿となった。俺は悪魔化して木々をなぎ倒し
簡単な丸小屋をこしらえる。夜露でずぶ濡れになるより
遥かに良いだろう。
食事は食えそうな野生動物をハンスに教わり適当に狩ってきて焼いた。
ハンスとヴィータは肉を食えない戒律ではと焼いてから思ったのだが
二人とも何それとモリモリ食いやがった。
宗教感が元の世界とは異なるようだ。
食料事情も異なる。選んでいるほど余裕は無い。
食えるモノを食える時に食っておく。
俺も味に興味があったので、人化して頂いてみたのだが
臭くて食えたモンじゃない。更に塩も胡椒も無いので味付け無しだ。
食にうるさい日本人には厳しすぎる世界だ。
ハンバーガーが恋しい。
食事の後、二人を小屋に残し俺は単独行動に出た。
この体の性能及び扱い方を把握しておきたかったからだ
そんな訳で今おれは成層圏にいる・・・空気が無くなったので
多分そう言っていい辺りだと思う。
見下ろす大地の地形は俺の知っている地球の大陸のどの形でも無い。
見上げると浮かんでいる月、その模様も異なる様に思える。
つか近いのかデカいのか、マンガの月みたいだ。大きく視認できる。
星座は・・・元から詳しくないので分からん。
地球じゃない気がする、ただ万年単位で考えれば
遥か昔か遥か未来の地球という可能性も捨てきれない。
これ以上行っても得るものはなさそうなので
というか今の時点でも、元の小屋に戻れる自信がない。
真っすぐ上昇したので真っすぐ下りよう。
きっと帰れるハズだ。
ドキドキしながら落下する俺。帰る時は力を抜いてスカイダイビング状態だ。
アニメ化するなら是非オープンニングに加えたいシーンに・・・
いや、こんな醜い悪魔が落ちてくるなんてダメだろう。
どんな終末だよ。
それにやっぱり空から落ちてくるなら美少女でしょ。
つか、美少女が足りない。
確かにヴィータは美少女かもしれないが
あれじゃない。
そう、おっぱいだ。
おっぱいが足りない。
圧倒的に不足している。
総統閣下も怒り出す位足りない。
プルーンプルンが無い。
「おぱーいカモーンぷりーぃずっ」と叫ぶ悪魔が降ってくる
どんな世界だ。
思わず笑ってしまった。
ようやく地表が近づいてくる。上がるより随分時間が掛かったという事は
自由落下より上昇速度の方が遥かに速かったのだろう。
音速超えたんだからそれもそうだ。
その地表に小屋を確認すると俺は、手のひらや足を上手に使って空気抵抗を
調整し方向を定める。
その最中に俺の高性能デビルアイは人物を補足した。
小屋から数百m程度離れた林の中だ。
俺はデビルアイを調整して拡大する。
その人物は木に背もたれ腰かけている。単独だ周囲に仲間がいる様子は無い。
目立つ特徴は耳だ。長い耳。エルフだ。
俺の願いが通じたのか。おっぱいキタのか!?
俺は翼を起動させると落下速度をコントロールし
なるべく音をさせないようにエルフの近くに滞空する。
観察すると、そのエルフは妙な動作をしている。
最初は呪文でも唱えているのかと思ったが、どうも違うようだ。
目を閉じ手のひらを正面に向けて
窓を拭いているような、蚊でも払っているかの様な動作。
首をグルグルさせ方向変えて、またその動作を試しているような・・・。
プレイヤーだ。メニュー画面を開こうとしているのだ。
うわーやっぱり、はたから見ると間抜けだー。
喜びと失望が同時に俺に押し寄せた。
喜びは俺だけがこの世界に飛ばされたのでは無いという事、
これは太郎にも会える可能性が出てきたという事だ。
帰還への可能性は上がったと言っていい。
失望はメニュー画面が表示されないのは俺だけの不具合では無いという事
ヘタをすると誰一人メニュー画面を開けない可能性が出てきた。
これはよろしくない。
とにかく接触しなければ
俺は意を決してエルフの元に近づいていく。