第六十七話
だから俺にはスパイも二股も無理だって
俺の嘘はすぐバレるのだ。
驚きの表情で硬直しているヨハン。
プラプリはヨハンの驚きを勘違いした。
「あ、大丈夫、これは神様の使いです。」
違って無いのか女神の使い走りだ。
「危険はありませんのでご安心を」
「まぁ危険は無いなわな。」
「もう元の姿に戻っていいよ。アモン」
あーこれはもう誤魔化せないなー
名前も外見も13将のアモンそっくりの
聖獣ですだなんて言っても無理だ。
もういいだろ。
ヨハンは当事者なんだし
今の俺が少なくとも神側の敵じゃないんだから
正直に話そう。
何か言うより、人化した姿を見せる方が
ヨハンも理解が早いだろう。
そう思った俺は言われるがままに
ヨハンの前で人化して見せた。
ヨハンは驚きの表情から恐怖の色が消え
唖然とした顔に変わった。
がんばって推測してくれ、ゆっくり説明するから
そんな俺達の葛藤など露知らず、プラプリと
介護役のエルフは楽しそうに話ながら
ヨハンの車椅子をリフトに積む作業に入る。
おれも同乗した。
「えーと、部屋で全部話しますから。」
俺はヨハンにそう言って部屋まで一緒に行った。
途中で俺を発見したババァルも
何故か着いてきてしまった。
まぁ、いいかコイツは全部知っているし
説明上いても問題無いだろう。
部屋は以前と同じ部屋だった。
特に変わった様子は無い。
ヨハンは車椅子のままテーブルにつき
俺は向かい合う形でババァルと並んで座った。
「持ってきたのか」
ババァルはどら焼きとお茶を用意してくれた。
長くなりそうなので有難いか
テーブルに並べると早速食い始める。
それにしても、まだ食うのか。
ヨハンは俺の話を黙って聞いてくれた。
この里での再会時に衰弱していたヨハンに
余計な衝撃を与えたくないが為に
俺がアモンだという事を伏せる事にした。
そう説明する。
ヨハンは数回頷いた。
ハンスは俺が救世主で
ヨハンは命がけで、その召喚をした英雄だと
思い込んでいると説明した所では
ヨハンは少し照れていた様だった。
バロードの村の話は知っているので
省いたが、俺を見抜けなった事と同様に
聖都の教会も悪魔を止める事が出来ず
聖都への悪魔軍団の侵攻が進んでしまっている事。
この辺りからヨハンの表情は一変し
残り少ない歯をギリギリと食いしばり始める。
隣にいるのが魔王ババァルで
悪魔軍団の奸計で処刑されそうになったトコロを
女神と一緒に、女神と一緒に(ここは強調しておく)
助けて、直ぐ合流する事が出来ずに
ここに一旦避難した。
ふぅ、説明したぞ。
日数にしてみれば大した日にちでは無いのに
色々あり過ぎて濃密だ。
ヨハンは声を絞り出して聞いて来た。
「・・・勇者は?!あの、お方が何もしないハズは無い」
ああ
その説明もしなきゃだよね。
俺は天使は秘匿。
この事実をヨハンは知っていると仮定し
ガバガバ脱出、行方不明その後の捜索隊。
この話をざっと説明した。
ヨハンは少しほっとしたようだ。
「まだ、希望はありますな。」
お茶とドラ焼きに手をつけず
両手の拳を強く握りしめ
まるで何かを堪える様にヨハンは震え出す。
いつキーボードクラッシャー化しても
おかしくない様子だ。
ババァルはヨハンが食べようとしない
どら焼きを注視している。
やめろって
「しかし、何という事だ。聖都の存亡を懸けた
一大事だと言うのに・・・私は何もできん」
いや
もう十分だって。
むしろ英雄級だよ
大金星でしょ
アモンを倒したなんてさ。
文字通り命懸けでさ
これ以上を望む奴なんていないよ。
そうは思ったが
今、この男に慰めの言葉は意味をなさない。
掛ける言葉が無い。
「命ある限り戦う覚悟だった。だが
手に力が入らんのだ・・・足も・・・
私はもう戦えないのだ。」
遂に我慢の限界を超えたヨハンは泣き崩れた。
俺は無いと知りつつも何か言える事は無いのか
と考えを巡らせる。
自慢の高速処理も答えがあってこそだ。
無いものを生み出しなしない。
重い。
老人の嗚咽だけが部屋を支配している。
そんな空気だというのに
あろう事かババァルは
笑い出した。
ババァルも堪えていた。
しかし堪えていたのは涙では無く笑いだった。
それがヨハンの決壊と同時に
我慢の限界を超えたのだ。
「何が可笑しい!?」
俺は殺意剥き出しでババァルを睨む。
ヨハンを、男の覚悟と無念を笑う奴は
許せん。
「ごめんなさい。でも笑わずにはいられなくてよ」
ババァルは全く悪びれる様子は無い。
それどころか
上から目線でドヤ顔になって言い放つ。
「笑わせないで坊や。手段がありながら
それから目を逸らして僕は戦えないー
後はみんなでがんばってーって
あなた逃げてるだけでしょ。」
鬼かお前は
こんな立つ事もままならない老人に
何の手段が残っているっていうんだ。
俺が怒鳴るより先に
ヨハンが叫ぶ様にババァルに詰め寄った。
責めるでもなく
怒るでもない
すがる
救いを求める様に必死にだ。
「手段!?手段があるというのか」
笑顔から一転。
今度のババァルは呆れた様子で
つまらなさそうに言った。
「ごめんなさい。黙っていれば良かったわね
そうすればあなたは無実な老人で安全に
居られたのに、気づかない振りをしてあげる
べきでしたわ」
俺もヨハンもババァルの言葉の続きを待った。
「知らなかったんだーそう言えば全て許されたのに
聞いてしまえば、許されない。臆病者の汚名を
受け入れて逃げる事になってしまいますわね。」
もったいぶるなぁ
ヨハンは力強く答える。
「どうか教えて下され。覚悟なぞとうの昔に
出来ておりますゆえ、逃げはありません。」
だろうな
血反吐を吐いてなお
まだ足掻いていた姿を
俺は見ている。
「・・・あなたの目の前に居るのは誰と誰?」
ババァルの口の端が吊り上がる。
「魂、差し出せば、どんな願いでも叶える
そんな存在、聞いた事無いかしら?」