第六十六話
「ドラ焼きの歌」
作詞:作曲 ババァル
それは甘い夢
黒い小さな粒がとけてるの
柔らかな生地に
包まれて
まるで私とあなたみたい
デスワークですわー
デスワームですわー
モンゴリアン
デスワームですわー
エルフの里に来ると
例によって歓迎された。
そして例のごとくプラプリを探し出し
要件を伝える。
「それにしても忙しいね君は。
プラプリは感心とも呆れとも取れる調子で
答えながらも、こちらの要望通りに動いてくれた。
食堂の椅子に座りご機嫌に即興で冒頭の変な歌を
歌いながらドラ焼きの完成を待っているババァル。
即興で変な歌なんて
お前はかぁちゃんか
「アモンさん灰汁抜き終わったですわー」
タムラさんに伝染してる。
しっかりして
しかし音楽センスが抜群なエルフが
気に入るということは、この変な鼻歌
良いものなのか
いや
俺は俺のセンスで生きていくぞ。
エルフの里の厨房は改造が施され
火が使える様になっていた。
タイル替わりに切り出した石が床や
壁を敷き詰め耐火性が向上。
更に極めつけは緊急時には
この部屋を吊るしている蔦が真っ先に燃え
部屋ごと下のため池に落下する仕組みなのだ。
本来エルフは火を禁忌にしているのだが
俺に影響されたタムラさんの強い申し出と
その料理に心奪われた者達のタムラさんへの
猛烈な後押しにエルフ首脳陣が折れる形に
なったそうだ。
そうかタムラさん
あんたはあんたで戦っているんだな。
出来上がった山積みのドラ焼きを見て
目がハートマークになるババァル。
この絵はどっかで見た事があると思ったら
ダメダメ主人公がネコ型ロボットに
頼み事をするときと同じだ。
俺の場合は特に頼む事はない。
それにしても、なんであんな数食うんだ。
一個、食っても二個だろ、ドラ焼きなんて
幸せいっぱいで両手を使って食いまくるババァル
それをほっこり眺めているとプラプリが
話しかけてきた。
「悪いのだが、聖獣化して手伝ってもらえないだろうか」
快く引き受ける。
そうか、ここでは悪魔じゃなく聖獣なんだよな。
頼み事はリフトの修理だった。
リフトを吊るす数本ある蔦、その内の一本が
寿命で切れてしまい、降ろす途中で傾き
丁度、運悪く木に引っかかって
引けば他の蔦が切れそうだし
降ろすと縦になりそうになって
にっちもさっちもいかなくなったそうだ。
本来なら登山家の様な装備で数人掛かりで
修理に入るのだが、飛行・滞空できる力持ちが
居るならば作業の負担は大幅に軽減される。
正しく俺はうってつけだ。
ババァルを放置して俺はバルコニーに向かい
デフォルトサイズになると問題のリフトを
水平に戻して滞空する。
「いいぞ」
俺の合図で蔦が緩められる
そのスピードに合わせてゆっくりと地上まで降りる。
蔦の交換作業は任せた。
「なぁついでに全部替えた方がイイじゃないのか」
隣で俺に礼を言うプラプリに俺はそう提案したが
それだと切れる寿命も同じタイミングになってしまうので
最悪落下の危険があるのでやらないそうだ。
手間よりも安全を最優先している。
偉いと思うがこれが普通だ。
エルフの里には金銭が無い。
これにコスト問題が絡んでくると
本来自然に正しく行われるべき行為が歪んでくる。
産地偽装・手抜き工事・etc
利益を出来るだけ多く出さねばならない
その為にコストは出来うる限り下げなければならない
この仕組みが色々なズルを産み出している。
お金の悪い面だ。
「とにかく間に合って助かった」
プラプリはほっとしている。
顔がプリプラと似ているので
プリプラを思い出してしまう。
まだ二日程度だが、あっちはどんな状態だろう
首尾よくガバガバを見つけてくれるだろうか。
「間に合うって、何にだ」
当然の疑問を俺はプラプリに尋ねた。
「あぁ長の友人が世話係と散歩に出ていてね。」
長の友人。
シンアモンと対決し寿命をほぼ使い切って老人化して
しまった大司教だ。
旅は出来ないのでここで面倒を見てもらっていた。
「特別な椅子だからリフトじゃないと」
特別な椅子。こっちで言う車椅子だ。
そうか
散歩が出来る程回復しているのか
これはハンスに伝えてやろう
きっと喜んでくれる。
「あっ丁度戻ってきたようだぞ」
プラプリがそう言って振り返る。
俺も、その声に合わせて振り返る。
そこには車椅子に座ったヨハン。
膝にブランケット的なもの掛け
世話掛かりのエルフに押されて
こっちに向かって来ている。
確かに最後に会ったときより顔色が良い。
こちらに気づくヨハンは驚きの表情に一変した。
「あ・・・・お・・・お前は」
あ
しまった
デフォルトサイズのままだった。