第六十三話
「始まる様ですよ。」
ハンスの声で俺はステージ上に目をやる。
ステージ上の一番偉そうな
なんか王様っぽい恰好した老人の傍に
袖から執事ような・・・って、あれ
バルタん爺さんじゃないか。
て、事は王様っぽい恰好をした老人が
領主ローベルト・ベレン6世なのか
急用ってコレの事だったのか。
バルタん爺さんは領主に何やら紙を渡した。
領主は一通り目を通すとステージの前方へ
歩み出た。
それに合わせて軍服っぽい
ていうか軍人なんだろうな。
そいつがババァルの膝の裏に
棒とういか棍で軽く一撃を入れ
無理やり跪かせる。
お前、顔覚えたからな
同じ軍服を来た他の連中が
ステージ上から観衆に静かにするよう
呼びかける。
静まるのを待ち、領主は大きな声で
紙にかかれている内容を
読み上げ始める。
内容はなんか
神の前でこの者の魔女が立証されただぁなんだ
頭に来ていたので良く覚えていない
言いがかりなのだから覚える必要も無い。
「じゃ、いつも通りで」
そう言うと同時に俺は人込みから
抜け出し跳躍する。
超スピードで行ったので常人には
消えた様に映るだろう。
そこに居ると知っている目の良い人で
なければ見つけられない上空まで来ると
俺はデフォルトサイズ悪魔に戻る。
その最中も俺はステージ上を注視していた。
ステージの横からガラガラと音を立て
ギロチンが数人掛かりで引かれて出てくる。
ババァルを拘束している板は
ピッタリとギロチンにセット出来る仕組みだ。
乱暴にギロチンに取り付けられるババァル。
肌の一切見えない服、とんがった頭巾は
目の部分だけくりぬかれている。
色は黒一色、執行人だ。
顔が見えないのは誰だか分からない様に
する為だ、執行人にだって普段の生活がある。
執行人は死神が使いそうな大鎌を持っていた。
ギロチンの刃を支えている綱を切断するだけには
大袈裟な刃物だが、ショー的な意味合いで
選ばれた器具なのだろう。
ハンスの着ている服の上位版
ヨハンの着ていた服と酷似している服を
着た者がババァルの傍に立ち祈りの言葉を述べ
最後にババァルに話しかける。
「何か言い残す事は。」
そう言われたババァルは笑顔で答えた。
痣だらけ、血も拭いてもらえていない
目の上がはれ上がった痛々しい
そんなヒドイ状態なのに
「そうですわね。ドラ焼きを頂きたいですわ。」
執行人は大鎌を振り下ろす。
言い残させる気なんて無いタイミングだ。
綱は一発で切れ、摩擦する金属音を上げながら
巨大なギロチンの刃は落ちて行く。
悲鳴を上げる者、手で顔を覆う観衆もいた。
しかし、ギロチンはその使命を果たす事は
出来なかった。
刃は落ちる途中で摘ままれているのだ。
「んなモン、いくらでも作ってやるよ」
身の丈は4mにも及ぶ巨体
頭には山羊の様な角を生やし
背中には蝙蝠の翼
猿の様な尻尾と下半身
肌の色は茶色というか紫というか
そんな色。
そんな生き物がギロチンの刃をつまんでいた。
突然、ステージ上に現れた。
実際には音速で降下してきたのだ
大気操作のせいで、音も衝撃波も出していない
人の目には瞬間移動で現れたように見えたはずだ。
ステージ上も観衆も皆、まるで時間が停止したように
なっていた。
誰も声を上げず、驚かず、ただ見ていた。
なんだよ無反応かよ。
「人間、コノ者ヲ、ナゼコロス」
演技入った口調で俺は言った。
効いてるか、練習したんだぞ。
「コノ手ガ、ナニカ盗ンダノカ?
ダレゾ命ヲ奪ッタカ?」
答えを尋ねてるワケでは無いので
勝手に喋る俺。
「人間ノ、理屈デ、存在ガ、許サレナイカラカ」
ざわつき出す観衆。
ステージ袖から飛び出したバルタん爺さんは
その高齢とは思えない動きで領主を
ステージ上から強引に脱出させる。
流石だ。
やっぱりスカウトしたい。
俺は片手にババァル、もう片手に
引き抜いたギロチンの刃を持ち
後ろのお客さんにもよく見える様に
10m程度、上昇し滞空する。
「ナラバ、俺モ、俺ノ、理屈デ人間ヲ裁ク」
目ぢからをたっぷり気味で決める。
「全員、死刑!!!」
ギロチンの刃を体内に取り込む、
なんだ、なまくらな鉄だな
折角なのでお返しの悪魔光線の材料
弾丸にさせてもらおう。
狙いは今後の事を考えて
領主の家はパス
演出的な意味と安全を考えて
・・・・・
教会だな
視界に入る教会。
ハンスが偽騎士団の情報をもらいに行った
あの教会のてっぺん部分のシンボル含む
屋根を悪魔光線で吹き飛ばす。
爆発音の後、雷の小さいヤツみたいな音で
屋根の部分は崩れ落ちて行く、
シンボルは燃えながら溶け消える。
「ウオォオオオオオー!!!」
前回の反省を生かし回りの人が
死なない程度の悪魔力(当社比)を開放
そして
主に頭上、上を向いて咆哮を上げる。
それを合図に会場は大パニックに陥る。
いい感じだ。
それを更に煽る為に全開悪魔光線。
これ以上は俺が溶ける。
を、地上に撃つワケにはいかないので
上空に放つ。
自分でもビックリするほどデカい音がした。
目がチカチカする。
地面も揺れたみたいだ。
大勢転んでいる。
発射後の硬直が長い、実戦では止めておこう。
ビームが通過した部分を中心に雲は信じられない
速度でドーナッツ状に変化し、その穴の内側から
外側に向かって無数の雷光が走る。
プラズマ化した通り道の空気は変な匂いだ。
音がデカ過ぎた、耳を押えている人もいる。
これは今回の反省点だ。
これでは有難い女神様のなんたらかんたらが
聞き取れなくなってしまう。
つか
ヴィータぁ早く出てこい
間が持たんぞ。
「本当に作ってくださるのですか」
手に持ったババァルがそう言って来た。
「え?あぁドラ焼きの事か」
そうだな
今度はパンズ部分に抹茶を混ぜたバージョンも
試してみたい。
抹茶が無いな、探さないと
俺はそんな事を思いながらウォーウォー
激昂し続けた。