第六十一話
素早い動きでバルタん爺さんは動き、
あっという間に荷物と俺達と言うお荷物を
運び込んだ。
その目奪う見事な動きは先程のヴィータの
叫びを忘れさせる程だ。
何コレ。なんてスキルなの
ロビーに運び込まれた俺達はそこでも
田舎者を演出しだしてしまう。
もうキョロキョロ辺りを見回してしまう。
調度品、絵画などもう現代のホテルでも
こんなアンティーク高級ホテルあるよね。
なにより清潔感が全然違う
泥は言うに及ばす、砂や埃も全く無い。
「こちらでお待ちください。」
そう言ってバルタん爺さんはチェックインの
手続きに行ってしまった。
俺はその隙にすかさず窓に近づき
ガラスを走査する。
「・・・・なんだこりゃ。」
ガラスとはぶっちゃけ石や砂だ。
そこいらに良くある物だ。
石の中に曇っていながらも透明な部分
砕けて、その部分だけになった砂。
それと後は炭かな
それが主な成分だ。
知らなかった。なんか特別な素材で
出来ているモノだと思い込んでいた。
ただ濁らせている部分を取り除く手間が
大変だと思う。
俺は蒸着で集める素材を選ぶ事で
不純物を混ぜない事が可能だが
普通はどういう手段で透明な部分だけ
集めているのだろうか。
これは俺にしてみれば屋外なら
すぐ作成が可能だ。
湯船を作るにしても
岩を削り出すよりガラスで作った方が
もしかしたら楽かもしれない。
うーん
ここで俺が透明な風呂桶に浸かっている
姿を想像してみる。
キモイやめよう
若い女性以外は使用してはいけない。
風情などからも岩削り出しの方が良い。
バルタん爺さんが手続きを終え
戻って来た。
俺たちの荷物を持ち部屋まで案内を
してくれる。
「食事も兼ねてちょっと観光してきたいのですが」
そう申し出る俺達にバルタん爺さんは
お出かけの場合は大体の戻り時間を
フロントに伝えて置いてくださると助かる。
みたいな言い方だった。
助かるというより必須だろうな。
了解の旨を伝えるとバルタん爺さん
及び部下執事は屋敷へ戻って行った。
領主が戻った際はこちらに来ると
言っていた。
俺達三人は高級なベッドに突っ伏すと
「フーっ」と深いため息をついた。
「肩がこるのぉ」
「嘘つけ、自然体だったじゃねぇか」
「馴れないですね。」
三人はそれぞれ言葉を漏らした。
「大体お前は隣のスィートかなんかだろ」
そう言う俺を睨むヴィータ。
「寝る時はそうするでの。そんな事より」
「「メシが食いたい」」
俺達はバルタん爺さんの言いつけ通り
フロントに予想戻り時間を伝えると
街へとくりだした。
もう、おやつの時間頃だ。
ランチタイムサービスは終わっているかもしれない。
・・・そんなサービスがあればだが。
街はこの前の区画と違い。
格式がある高級な区画だった。
ラフに行きたいとの俺の提案に
ハンスもヴィータも同意してくれたので
この間の歓楽街まで少し足を伸ばして繰り出す。
小さめの屋根の無い一頭引きの馬車。
今で言うタクシーを使い、この間の歓楽街まで
向かってもらう。
俺の断片的な説明、店の名前とか噴水広場だけで
御者は頷き目的地を察してくれた。
馴れたモノだ。
こいつもプロだな。
歓楽街に向け出発。
驚いたのはあの区画は城壁内の中の
更に城壁内で一般人や旅人が間違って入り込めない
作りになっていた。
出る時に検閲があり、戻る時も同じ門からに
してくれれば早く済むとも言われた。
御者の話では要人の住居は皆あの中だそうだ。
目的の歓楽街にはすぐに着いた。
やっぱり、この雑多な雰囲気、活気賑わいが合う。
ヴィータは目をキラキラ輝かせ
鼻をクンカクンカさせる。
散歩に連れてきてもらった犬かお前は
かく言う俺も同じような状態なんだろうな。
「あっちじゃ。」
食指が反応する匂いを嗅ぎつけた方向に
駆け出すヴィータ。
俺もハンスも慌てて後を追う。
シュタシュタ走る
速い。
ババァルが運動神経無い系女子なら
ヴィータはアスリート女子だ。
俺もハンスもちょっと本気で追う。
文字通り駆け込んだ店で食事。
注文はお任せ店自慢を三人分という
何が出てくるか分からない上に
何を出されても文句が言えない注文方法だった。
おいおいと思ったが店の主人は一言。
「あいよ!」
と返してきた。
いいのかこれで。
待つ事数分。
出てきたのは一皿で三人分くらいありそうな量だ。
種類も豊富で一言で言うと
肉体労働者用お子様ランチだ。
某ゲームのハンターが狩り前に食うアレだ。
ハンスもヴィータもガツガツ食いだす。
俺も食うが、味付けが大雑把だと感じた。
醤油が欲しい。
痛切に感じた。
余裕が出来たら醤油の再現に取り掛かろう。
食い終わって腹をポンポンしながら
まったりしていると、あのお揃いの鎧を着た
二人組の衛兵が店に入って来る。
警察官立ち寄り所なのかこの店。
そう思って見ている俺を発見すると
衛士二人がこっちに来た。
なんだなんだ
「アモンさん。この間はどうも」
「すっかり御馳走になっちゃいまして」
ああ
酔っぱらいA.Bの二人か
「あんたら警察だったのか」
「ケイサツ・・・あぁここでは衛士って言うんだ」
より優雅にかね
で食事の邪魔をして何のようかね
「しかし、また違う美人を連れて」
「羨ましいよなぁ金も女もあるですかい」
お堅い恰好なのにフランクに話す
酔っぱらいA.B
嫌いじゃないけど
回りの目はいいのか
勤務中だろ
「力もあるぜ」
俺は不敵に笑ってそう言った。
ひとしきり挨拶が済むと
酔っぱらいAが真顔になる。
「しかし、なんと言いますか残念な事に
なっちまったよなぁ」
酔っぱらいBも連られて真顔になる。
「あぁ勿体無ぇよな。」
見当がつかない。
俺は素直に尋ねる。
「何の事だ?」
俺の返事を聞いて顔を見合わせるA.B
再び俺の方を向くと信じられない事を言い出した。
「知らないんですかい!この間の」
「アモンさんを探していたあの美人が」
ババァルの事か
「魔女裁判で有罪になっちまった」
「これから公開処刑ですぜ」