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第六十話

 昼頃にはベレンに到着した。

なんと検閲無しで別の門から都市に入った。

まぁ馬車が馬車だ。

豪華絢爛領主の館専用機なのだから当然といえば当然だ。


 そのまま止まる事無く都市中央に位置する領主の館まで

直行する。


 が、ここで問題が起きた。

しばしお待ちをと言って館内に入っていった執事長バルタが

待てど暮らせど戻って来なかった。


「何をやっておるのじゃ。」


 ヴィータが不機嫌だ。

この不機嫌の原因は待たされている事ではなく

今がお昼時、つまり空腹が原因だ。

こう言ってはアレだが、こいつは見た目と大違いで

意地汚い、特に食い物に関しては遠慮が無い。

 お皿に残った最後の一個を躊躇なく食える奴で

関東地方では出会えないタイプだ。


 空腹の気を紛らわせる為かヴィータは

鼻歌を歌い出した。

あの「ヒーローの歌」だ。

歌詞は所々フフッフフンとうろ覚えだが

覚えている箇所は発音もバッチリの日本語だ。


キレイな声だった。


あれだ。

あのカラオケとかで普段の声じゃない声で

歌い出すタイプだ。

透き通るようなノイズの少ない声質で

高音時には、まだ余裕だとばかりに張りを伸ばす

低音時にも震えのリズムが聞こえない

うめぇなチクショウ


あまりの歌声につい聞きほれてしまう。


普段の「のじゃ」でなく標準語で聞こえればいいのに

何故か変な語尾の日本語に変換されている。


折角聞いていたのにヴィータは

歌を突然ピタリと止めてしまう。


「のぉ」


ハンス知らない歌だし俺に聞いてるんだよね。


「何だ。」


首を回すのでは無く傾げる感じで俺の方を向くヴィータ。

水色の前髪がおでこを撫でる。


「この歌は・・・何の歌なんじゃ」


子供の頃に大好きだったヒーロー物の主題歌です。

だが、どうやって説明したらいいものか


「こいつか・・・こいつはな・・・。」


 そこで馬車の扉が突然開き、

バルタが申し訳なさそうに頭を下げている。


「お招きしておきながら大変申し訳ございません」


なんだ

招待自体が冗談だったとかで、

追い返せってなったんじゃないだろうな。


「主が急用で外しております。」


 まぁ急用じゃしょうがない。

領主ともなれば忙しい身なのだろう

特に、こんな大都市

果てしない夢を追い続けそうな大都会だ。

そこの責任者ともなれば仕事なんていくらでもある。

しかし、謝罪はそこから先の内容についてだった。


 主の不在中に屋敷に入れる訳にはいかないそうで

呼んでおいて入れられません。

これは部下が可哀想だ。

バツが悪いったらない。


「どの位待つ事になりそうなのですか」


 俺達を代表してハンスがバルタと話す。


「それが・・・・。」


急用の内容が分からず、ドコに行ったのか

いつ戻るのか不明だという。

 分かっているのは同行したのが一番腕利きの護衛と

政治・軍事の首脳陣だという。


「真に申し訳ありません。」


 ただ謝るだけなら激怒しただろうが

そこは領主の執事長、流石の手腕で

都市一番の宿の最高の部屋を手配済みだった

時間が掛かった主な原因がコレだった。

 ただコチラは

うむ、くるしゅうない

とだけ答えていれば滞り無く事が運ぶ様に動いている。


トラブルは起こるもの

特にダークネスともなれば下半身だって起きるのだ。


起きました。しょうがありませんでは無能だ。

起きました。どうしたらよいでしょうでは普通だ。

起きました。替わりにこちらはいかがでしょうが有能だ。

起っきしました。こいつをどう思うでは阿部だ。


うーん、バルタん爺さんウチにスカウトしたい人材だ。


「うむ、くるしゅうない。」


ヴィータはふんぞり返ってそう許可を出し

馬車は館を後にして宿へと向かった。


目的地にはすぐに着いた。

徒歩でも良かったんじゃねーのって位近かったのだが

エントランスが既にもう馬車から降ります専用の作りだ。

高級さを感じさせる石畳が道路になっていて

駅前のタクシープールのような作りになっている。


 ここを徒歩で「わたりまーす」って横断しながら

入り口までいくのは勇気がいる。


 馬車から降りると俺は思わず声を出してしまった。


「ガラスだ。」

 

こっちに来て初めて見たのだ。

窓がガラスだ。

ただ、その叫びは田舎者の特徴だったようで

部下の執事の肩がプルプル震えている。

笑いださなかっただけ優秀なのだろうが

流石の執事長は咎めるより先にフォローに入った。


「流石はお目が高いです。ここのガラスは

特注物でして普通のガラスより強度に優れおります。

本当にガラスと呼んで良いモノはここのガラスで

ございますな。」


 ガラスに驚いたんじゃないよー

一発で特注と見抜いた目を持ってるよー


 聞こえた人にそうアピールするフォローだ。

凄いよ咄嗟にここまでフォローするなんて

放置して笑い者にしたっていいはずなのに

主の客人。

ただそれだけの理由

いや

この人はそれだけで十分な理由なんだろうな


この俺が居る限り

絶対に恥をかかせない


そんな意気込みを感じる

プロだ。

感動したぞ。

マジでスカウトしたい


そんなプロに更に応用問題を突きつけるヴィータ。


「何じゃーあの窓はなななんか透明な板で出来ておるぞー」


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