第五十四話
「ミカの何がダメなんだ」
俺はストレートにヴィータに聞いてみた。
知らない人ならば誰しもが感じるであろう疑問だ。
「ん・・・まぁ一言で言えばオヌシの女版じゃな」
「それは・・・。」
「あぁー」
残り二人の微妙な反応がスゲー嫌だ。
詳細は知りたくない。
「せ性格はひとまずどうでもいいだろ
連絡は取れないのか。」
聞いて来たのはオヌシと突っ込まれた。
ぐぬぬ
そしてやはり連絡を取る手段が無い事が分かった。
なんていうか情報伝達が両陣営ともずさんだ。
というか昔はこれが普通なのか。
「カルエル。スマホかなんかで話できないの」
「仮にあっても基地局も衛星も無いでしょ」
「いやさ、ホラこう特別な鏡の前だと時空を
超えて時差もなく会話できちゃったりしないの」
「そんなの出来る訳ないじゃん。真面目にやってよ」
しかし、俺の女版だっていうなら
喜んで駆けつけて無双をはじめてもよさそうなモンだ。
やはり来れない枷があるのか
あるいは
全く興味が無い
この場合はすごくマズい。
俺は嫌な事は努力をしてでもやらない派だ。
「・・・四大天使抜きで進めるしかないのう
いよいよになれば流石に出てくるじゃろうて」
ここでふと気がついた。
「カルエル。そう言えば勇者を送って行ったんだよな」
「うん。生まれ故郷の村だって言ってたよ」
「目立たなかったのか」
内緒の天使が勇者を担いで飛んでいれば
いくら夜を選んでもあれだけ光っていれば
人目を避けられないで大騒ぎになる。
「うん、馬になって行ったから」
そうか、神獣には変化できたっけ
いくつ選択肢があって
え
でも馬じゃなくてユニコーンを選んだはずだが
そう言った俺の返事にカルエルは答えた。
「角の部分は装飾でごまかしたよ」
「そうだったのか。・・・じゃあここでも
無理して人間の振りしてないで馬でいいじゃん」
「部屋入れてもらえないでしょ。やだよ馬小屋なんて」
「そうでも無いぞ、無料でMP全回復
一日刻みだから年も取りにくい。」
名作RPGのボケだったが
当然、誰も突っ込んでくれない。
それから話は真面目に今後の行動方針について
どうするべきかという話題に移った。
「聖都へは来るなというのじゃな」
「はい、現状では偽女神が既に民衆に認知されて
しまっているので、今行っても危険なだけです。」
ここで俺は疑問が頭をよぎる。
この間、ハンスに聖書を読んでもらった時の苦痛だ。
神に対する祈り、それも大勢からのとなると
俺なら瞬間で頭が爆発する自信がある。
術で化かしても本体は悪魔なのだから
祈りには耐えきれないハズなのだ。
完全人化なら耐えられるが、完全人化では
悪魔の術が行使できない。
俺は素直にその疑問をカルエルに聞いてみた。
カルエルは納得して頷きながら答えてくれた。
「なるほど、だから偽女神は人だったのか」
偽女神は悪魔本人が化けているのではなく
術でたぶらかされた人間を身代わりに立てている。
悪魔本人は祈りを捧げられる事が少ない側近に
そして最終的な狙いは政治の中枢を担う人物と
入れ替わってしまう事だろう。
悪魔もちゃんと考えている。
これならば苦痛を味わう事無く、本来はヴィータに
集まるハズの祈りが無駄に関係無い人物へと
注がれていってしまう。
今、聖都に行ってもヴィータはパワーアップできない。
ここはカルエルの意見に同意だ。
そして俺は別の提案をしてみた。
「ベレンを拠点にすればイイんじゃないか」
中間都市ベレン。まだバリエアに行ってないが
ベレンも人が多い。
教会も立派で大きかった。
「ここはベレンを無視して聖都に直行した
悪魔側の行動の逆手を取ろう。」
これは教会もベレンを治める為政者も
面白くないハズだ。
あれだけの都市なのに無視されたとは
内心ニコニコしてはいられない。
それに帝国の支配がどれだけ強いのか
未知数だが野心を抱いている者が
ベレンに居れば面白い事になる。
俺は作戦を簡単に説明した。
「謀反を起こすのは反対じゃ。民が苦しむ」
「純粋に国や人々を救いたいと願う者には
そのまま純粋に協力してもらえばいい
政権をひっくり返すワケじゃない。
野心を抱く者にはこう説得すればいい
ベレンに訪れた方が本物の女神だって証明されれば
教会を含む聖都のメンツはまる潰れだ。
今後の色んな交渉でベレンは大きなカードを
持つ事になる。しかも表面は敬謙な信徒の振りしたままだ
こんな美味しい話はないだろ」
カルエルは感心してくれた。
ハンスは微妙な顔になった。
ヴィータは苦虫を噛み潰したような顔で言った。
「オヌシ・・・悪魔じゃの」
俺はどんな顔をしていたのだろうか
多分、笑顔だったんだと思う。
その表情で答えた。
「そこそこな」